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ポンコツ王太子のモブ姉王女らしいけど、悪役令嬢が可哀想なので助けようと思います〜王女ルートがない!?なら作ればいいのよ!〜【WEB版】  作者: 諏訪ぺこ
第二章

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152/218

152.お留守番中のよもやま話 1(アリシア視点)

 バサリ、と大きな羽音をさせて飛龍たちが次々と空へ浮き上がる。私はその飛龍たちの姿を何ともいえない気持ちで見送っていた。


 クリフィード侯爵の死ーーーー


 ゲームの中では出てこなかった話に、私は心臓が鷲掴みされた気分になる。いや、そもそも『聖女(ゲーム)』の中ではアカデミーでの出来事しか描かれていない。ヒロインと攻略対象達が疲弊した国を助け、守り……最後はファティシア王国で幸せに暮らすのだ。


 唯一この話の中で出てくるのは私の生家のファーマン侯爵家と、悪の根源となるフィルタード侯爵家。他の侯爵家は名前すら出てこない。

 つまりクリフィード侯爵がゲーム開始時点で生きているか、死んでいるかすらわからないのだ。だからこそ、不安になる。


 ファティシア王国は本来なら疫病で疲弊するはずだった。それをポーションで回避した。その帳尻合わせがクリフィード侯爵の死なのではなかろうか?と。

 安定した統治をしている侯爵の死は、少なからず領内を動揺させる。


 そのうえ死の真相もわからない。亡骸は……領ではなく、王都に運ばれ検分された。領民から慕われている領主に対して、国がすることだろうか?と不審がる者は出るだろう。特にその前に起こった事件を考えれば、穿った考えをする者は必ず出てくる。


 国に対する不審が燻れば、その不満を一身に集めるのは領主だ。新しい領主に領民の不満を諌める力がなければ、その不満は国に向かうだろう。その隙間に()()()がいないとも限らない。


 囁きは、初めこそ誰の心にも響きはしないだろう。でも繰り返し、繰り返し囁かれれば……それを真実だと思う者が出てこないとも限らない。それはいずれ大きなうねりとなる。


 知らぬ間に、国は力を失っていくのだ。それは疫病とはまた違う国力の低下。


 クリフィード侯爵領の人たちは陽気な良い人たちが多い。亡くなった侯爵だけでなく、ご子息もとても慕われている。だからこそ、国に対する不満は必ず出る。

 その不満に新しく領主となったご子息が飲まれてしまわないだろうか?


「……様、アリシア様」

「えっ、あ、はい!」


 急に名前を呼ばれ、私は頭の中の思考を止める。呼ばれた方を向けば、ユリアナさんとルティア様のフリをしたリーナちゃんが私を見ていた。


「『アリシア、そろそろ部屋に戻りましょう?』」

「そ、そうですね」

「『()()()()()()?』」

「何でもありません。()()()()()


 いつも通りに会話できているだろうか?チラリとカーバニル先生とシャンテくんを見る。彼らはいつも通り、少しすました感じで立っていた。特に不審には見えなかったようだ。そのことに少しだけ安心する。


「『本当は、私も行きたかったけど……今は仕方ないわね』」

「そうですね。流石に一緒に向かうわけにはいきませんものね」

「『クリフィード侯爵には本当にお世話になったのに……』」

「はい……」


 ルティア様が言いそうなセリフ。それに合わせながら、クリフィード侯爵の柔和な笑みを思いだす。お父様よりは歳上だけど、亡くなるには早い。

 シナリオの強制力、もしもこの強制力のせいで亡くなったとしたら……私は、自分の命が助かりたいが為に、クリフィード侯爵を死なせたことになる。


「アリシア様」

「あ、はい……」

「情報が少ない状況で考えても、悪いことしか思い浮かばないものです」

「それは、はい……」

「コンラッド王弟殿下が向かわれたのです。何がしか情報を持ち帰ってこられるはず。それを確認してから、考えることにいたしましょう?」

「……はい」


 ユリアナさんの言葉に力無く頷く。確かにその通りだ。今は情報が少ない。悪いことだっていくらでも考えついてしまう。

 でもそれよりも、残された私たちに出来ることをしなければいけない。今は兎に角、ルティア様のフリをしているリーナちゃんの補助をしなければ!


「ルティア様、部屋に戻りましょうか」

「『そうね』」


 言葉少なに頷くリーナちゃんと一緒に、あてがわれている部屋へと戻る。一緒に先生とシャンテくんもついてきて、部屋の中に入ると皆一様にため息を吐いた。


 部屋の中は私、リーナちゃん、ユリアナさん、シャンテくん、そして先生の5人だけ。それ以外の人は今は人払いをして下げている。どこに目があるかわからない、それはラステア国の中でも同じだから。今は必要最小限で乗り切るしかない。


「……や、やっぱりこう、胃がキリキリしてきますね」

「そうなのよねぇ。いくら王弟殿下が一緒だっていっても、何がしかあったらアタシたちの首が飛ぶだけじゃ済まないじゃない?」


 シャンテくんの言葉に、先生が何とも恐ろしいことをいいだす。バレたら怒られるぐらいだと思っていたけど、それだけじゃ済まないとか?

 しかも何かあったら首が飛ぶって……ゲーム開始時より前に死ぬとか嫌すぎる!!私は恐る恐る手をあげ、先生に質問してしまう。


「あ、あの……やっぱり不味い感じですかね?」

「今の状況が不味くないと思うわけぇ?」

「……お、思いません」

「でしょう?ま、姫殿下の身に不測の事態が起こることはないと祈りましょう?それ以外はもう何もできないもの。もう行っちゃったわけだし」

「はい……」


 なんだか私まで胃がキリキリしてきた。まだルティア様が旅立ってから大して時間も経っていないのに。私、ちゃんと乗り切れるかなあ……




 ***


 ルティア様がファティシアに戻って数日。

 今のところは順調に誤魔化せている。多分。


 私とリーナちゃんは一日置きくらいでランカナ女王陛下に呼ばれ、お茶を共にしていた。これは陛下からの心配り。

 下手に部屋に籠っているわけにもいかず、かといっていつも通りのルティア様の振る舞いをするには少し難しい。人が亡くなる、とはそういうことなのだ。


 そして今日も陛下から誘われて、私とリーナちゃんはお茶をいただいている。侍女は退がっており、部屋の中には私たち三人だけ。

 陛下自らお茶を入れてくださって、リーナちゃんはソワソワとどこか落ち着かない様子だ。


「ふふふ、そのように固くならずとも良い。これに慣れねば影なぞ務まらんえ?」

「も、申し訳ありません」


 リーナちゃんは無理矢理笑顔を作って見せる。なんとも歪な笑い方に陛下はコロコロと笑いだす。普段から表情筋が死んでるリーナちゃんにはルティア様のような笑い方は難しいみたいだ。頑張って特訓してるんだけどね。


「さて、アリシアよ。其方ももう少し肩の力を抜きやれ。リーナにうつるでな」

「え、あ、はいっ!」


 陛下の言葉に今度は自分が驚いてしまった。そうか。緊張ってうつるもんね……私が肩の力を抜けなければ、本来従者でしかないリーナちゃんは尚更緊張する。私は自分の両頬をペチンと叩き、それから深呼吸をひとつ。私が手助けできることは多くない。ならば与えられた役目ぐらいちゃんとできなくてどうするのか!


「はい!もう大丈夫です!!」

「そうよの。子供は元気が一番よ」

「わ、私も、頑張ります……!!」


 リーナちゃんは両手をグーにしてファイティングポーズをとる。あの手の動きはどの世界でも共通なんだな、と見当違いなことを考えながらお茶に手を伸ばした。

 ふわりと柔らかな香り。前世で飲んだ白桃烏龍茶によく似ている。


「……このお茶、桃の香りがします」

「ああ、それは茶葉に桃の香料を混ぜておるからの」

「ラステア国は色々な種類のお茶がありますよね?やっぱり葉っぱの種類もたくさんあるんですか?」

「いいや。元々は一つの茶葉から、それを焙煎していく過程で手をくわえておる」

「もしかして、緑茶とかもありますか……?」

「よく知っておるのう?あれは冷茶にして飲むな」


 緑茶……!!緑茶がある!!ってことは玄米茶とかもあるのかな!?抹茶は!!ほうじ茶は!!

 聞きたいことはたくさんあるけれど、流石に陛下を質問攻めにするわけにはいかない。それぐらいの分別は、ある。だって一応、貴族の令嬢だもの。物凄く聞きたいけど!聞きたいけど!!


 そして私はーーーーどーしても堪えきれずに聞いてしまった。


「あ、あのう……もしかして、ラステア国にはお米もありますか?」

「こめ、とな?」

「は、はい!籾殻に包まれてて、脱穀して中身を水で洗って、更に水を入れて炊くんです!!」

「こめ、か……ふむ。麦や蕎麦はあるが、こめというのは……察するに、穀物なのであろう?」

「そうです。ない、ですかね……?秋になると稲穂がこう、黄金色になって垂れるんです」


 話ながら、陛下からの反応がよくないことに気がついた。蕎麦があるのに、お米ないとかある!?そこは日本人が作ってるゲームなんだから存在して欲しい。切実に。お酒だって作れるよ……??


 陛下は暫く考え込み、それからパンパンと手を叩いた。すぐに飛んできた侍女に耳打ちすると、その侍女はまた何処かに行ってしまう。


「少し待たれや。もしかしたらアリシアのいうこめなるものがあるやもしれん」

「と、言いますと?」

「扱いに困って、今は龍たちの主食になっている穀物がある。龍たちも好んで食べるゆえ、作らせてはいるが……その見た目が其方のいうこめと似ておるのだ」


 龍のご飯……いや、ご飯だしいいのか?と思いつつ、私はドキドキしながらその穀物が届けられるのをまった。


いつもご覧いただきありがとうございます。

152話からは少しの間、お留守番組の話になります。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 3日で1話から152話まで面白すぎて一気見してしまいました! 悪役令嬢転生ものはいくつか見てましたので 大体そんな感じで何気なく見ようと。(漫画化されてたので) 琴線に触れまくりで面白すぎ…
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