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ポンコツ王太子のモブ姉王女らしいけど、悪役令嬢が可哀想なので助けようと思います〜王女ルートがない!?なら作ればいいのよ!〜【WEB版】  作者: 諏訪ぺこ
第二章

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142.お転婆姫の帰還 3(ロイ視点)

 ライルが持ってきた袋の中には数個の小さな魔石が入ってきた。小さいとはいえ、どれも質のいい魔石だ。

 これを母上が持っていた、ということは全部自分で取ってきたんだろうなあ。カタージュの側にある森は大小様々な魔物が出る。母上にとってみればーーーー


「魔石取り放題、って感じね」


 急に後ろから声をかけられ、ビクリと体が震えた。振り返れば、穏やかな笑顔を浮かべたアマンダ・ロックウェル魔術師団長の姿が……

 そうか。彼女の息子、シャンテもルティアと一緒にラステアへ行っている。彼女が呼ばれないわけがない。


 そして彼女の後ろには夫である、ピコット・ロックウェル司法長官もいた。

 二人に気がついた父上が、二人に向かって頭を下げる。


「すまない、二人とも……」

「謝らないで、陛下。私はルティア姫もシャンテもアリシア嬢もみんな無事だと信じている。あの子達は機転の効く子よ。絶対に大丈夫。それに何といってもカーバニルがついているしね」

「君は、強いな。アマンダ」

「いやあね。貴方の学生時代はもっと色々あったでしょう?」


 色々、に含みを持たせて魔術師団長は笑う。そういえば、魔術師団長は母上と寮で同室だったと聞いた覚えがある。魔術に対して並々ならぬ思いを抱いている彼女と、魔石取り放題な母上。


 チラリとハウンド宰相を見れば、サッと視線を逸らされた。あ、絶対に何かあったな……アカデミーの学長や教授陣が僕に釘を刺すはずだ。

 僕が率先して何かをすることはないけれど、同じ血が流れてるものね。しかもとびっきりの問題児の血が二人分。


 そんなことを考えていると、父上はヒュース騎士団長に新しく作った追跡用の魔法石を渡す。そしてロビンには、クアドを介してレイドール領にいるお祖父様へ届けるようにいった。


 ロビンはすぐさま頷くと、パッと姿を消す。お祖父様の領の人達の方が先に着くだろうから、コレが正しい選択だ。そう、ほんの少しだけ騎士団長は不服そうな表情を見せたが……


 そして第四から第五騎士団の、特にルティアに恩義を感じている者達を選び、騎士団長を先頭にクリフィード領へ。

 クアドもロビンの手から離れ、レイドール領へ。これで、僕達にできることは何も無くなってしまった。


 あとはルティア達の無事を祈るばかり。


 ライルにはアッシュと一緒に、先に離宮に戻るようにいって帰らせる。ライルはもう少し居たそうにしていたが、フィルタード派が本当にルティアの命を狙ったのだとわかったら……きっとライルは傷つくだろう。


 今のライルは、前のライルとは違ってちゃんと人を思いやれる子だ。蚊帳の外に置かれて、嫌な気分にはなるだろうけど。それでも今はこの場にいない方がいい。

 何かあれば僕が教えてあげればいいわけだし。


 父上の執務室で、これからのことを考えているとバンッ!と勢いよく扉が開いた。思わず身構えると、ファーマン侯爵が息をきらせて入ってきたのだ。

 彼にとってもアリシア嬢の一大事。きっと心配で普段ならしない不作法をしてしまったに違いない。


 そう思っていたら、ファーマン侯爵が泣きながら父上に縋り付いてきた。


「陛下ああああっっっ……!!む、娘は無事ですううううう!!」

「そうなんだすまない、アリシア嬢は……は?」


 娘は無事なんですか?といわれたと思った父上は、おいおいと咽び泣く侯爵の肩を揺さぶり「今のは一体!?」と聞き返す。


「む、娘の……アリシアには一度だけ使える、通信用の魔術式が入った魔法石を持たせていたのです。その、ホームシックになったら使いなさい、と」

「通信用の魔術式?それはなんだ??」

「ふ、双子石を使った魔術式で、アリシアがその……映像を残せるのなら、音声も伝えられないかと。それでまだ一回だけしか使えないのですが、双子石を使えば向こうの音声をこちらに飛ばすことができるのです」

「な、なあんですってええええ!!それはっっ!!どんなっっ!!魔術式なんですっっ!!!!!」


 父上に加わり、魔術師団長までもが侯爵の肩を揺さぶる。そんなに肩を掴んで揺さぶったら気持ち悪くなるんじゃないかなあ。流石にその状態じゃまともに話もできやしない。

 僕は夫である司法長官に視線を移すと、呆然としている彼に目配せをする。奥さんをなんとかして、と。


「あ、はい!はい!!アマンダ!ちょっと落ち着きなさい!!」

「陛下もですよ!」


 司法長官とハウンド宰相によって引き剥がされた二人。僕は侯爵に水の入ったコップを手渡す。二人に揺さぶられ、ゲッソリとした侯爵は年齢よりも一気に老けたように見えた。


 こんな状態で質問するのは可哀想ではあるけど、ことは急を要する。僕は代表して侯爵に話しかけた。


「ええっと……それで、その通信できる石って?」

「ああ、その、ですね。多分、想像されているものとはちょっと違うんです。向こうから話をして、こちらが聞くだけ。要は伝言を残すような形のものです」

「伝言を残す……?」

「そうです。双方向で話せるものではありません。こちらはその双子石の片割れです。アリシアから今の状況を説明する伝言が入っております」

「何度も再生できるのかい?」


 父上の言葉に、あと一回再生したら壊れるでしょうな、と侯爵はいう。それぐらい負荷の掛かる魔術式らしい。

 そして正確な使い方としては、双子石を持った者同士で片方が話しかけ、それを相手が聞く。聞き終わったら、聞いていた方がまた話しかける。再生できるのは今の所、一回のみ。つまり話を聞いてる時と、その後一回ってことかな?


 ちょうど手元に持っていない時に連絡が来たら、向こうの話を聞けなくなってしまうしね。それでは意味がない。


「そもそもが、その……まだ試作の段階でして。アリシアがいうには双方向で話せるようになるのが理想だと」

「双方向で……それができたら素晴らしいわ!!」

「確かに。だが良くそんなことを思いついたな?」

「アリシアは閃き力がすごいのです!!」


 親バカってこういう人をいうのだろう。嬉しそうに微笑む侯爵は、親バカという言葉がピッタリあっていた。それはそれとして、アリシア嬢の発想の元は多分、生まれる前の記憶なのかな?きっと彼女の生まれる前の世界はそれが普通だったのかもしれない。


 たまーに、ルティアにアレがあれば、とかコレがあれば……とか愚痴をいっているのを聞くしね。

 便利なものって、慣れるとないと困るし。ルティアも突拍子もないことをするけど、アリシア嬢も大概だと思う。彼女の方が自制心が高いけど。


「まあ、それは兎も角として……アリシア嬢の伝言を聞かせてください。ルティア達が無事なのか知りたいですし」

「あ、そうですな……ですがその、あまり気を落とされませぬよう」

「え?」

「聞いた限りでは、その……姫君は側にいらっしゃらないようなのです」


 侯爵の言葉に僕が思わず動揺すると、父上はそれでも再生してくれと侯爵に告げる。それに頷き、双子石の片割れに侯爵が魔力を流す。


 その石に残された言葉は、衝撃の事実だったーーーー




 ***


 双子石に残された言葉、それは八人の裏切り者と、一人の騎士の死。

 そしてルティアが毒によって倒れた者達を救い、自らが囮になってその場から逃げたということだった。


「聖属性……ルティア姫は、聖属性の持ち主だったんですね」

「アマンダ、黙っていたのは……」

「ええ、わかりますよ。私が研究対象にしようとすると思ったんでしょう?それぐらい理解できますとも!」


 父上の言葉に魔術師団長は肩を竦める。確かに魔術師団長がルティアの力を知ったら調べたがるだろう。普段だって魔力量の豊富さに、魔術師団に入ってくれたらいいのに〜と無茶なことをいっていたし。


 それよりも、ルティアが聖なる乙女の候補者になるとは……アリシア嬢の話では、ヒロインと呼ばれる少女がなるはず。現時点でのルティアの魔力量を考えると、ヒロインよりも多いのではなかろうか?


 まあ、実際にどれほどの魔力量があるかはわからないけれど。そうなると、ヒロインは候補者であっても聖なる乙女にはなれない。珍しい聖属性だし、必要なのは必要だけど、それでも王族で魔力量豊富なルティアを退けてまでなるかは疑問だ。


 そうなってくると話に齟齬が生まれるんじゃなかろうか?


「ロイ、どうした?疲れたかい?」

「え、あ……いえ。少し考えごとをしていただけです」

「考えごと?」

「ルティアが良く今まで黙っていたなあって……」

「ロイにもいっていなかったのかい?」

「はい。アリシア嬢とカーバニル先生の態度から察するに二人は知っていたようですけどね」


 僕はそういって誤魔化す。いや、まあ……本当にルティアが黙っていたことも驚きなんだけどね。

 そんな僕に父上は小さく笑った。


「ルティアは、もしもの時を考えたんだろうね」

「もしもの時、ですか?」

「あの子に聖属性があるとわかったのは、五年前の事故の時なんだ。あの時、ルティアに聖属性があるとわかった」

「ああ、そうか……狙われる可能性を考えたんですね」

「そうだ」


 父上は頷く。確かに王族の、三番目と呼ばれて見下されていたルティアに聖属性があるとわかったら……フィルタード派としては面白くないだろう。

 下手すれば命が狙われる可能性がある。いや、もしや……今回はそれで狙われたのだろうか?


「父上、もしかして……ルティアが聖属性持ちであることが漏れたのでは?」

「それはないな。当時の者達にはどうやって助かったのか、口外しないように魔術式をかけてある。そして聖属性があると知っているのは、僕とリカルドだけだ」

「ヒュース騎士団長も、ですか?」

「そうだ」


 そういって頷く父上に僕は小さな違和感を覚える。五年前の時も騎士団長は一緒にいた。そして、今回の小隊につく騎士の選抜は騎士団長がしている。

 文官の中にも裏切り者はいたといっていたけど、騎士にもいたのだ。寧ろ、騎士の方がメインだろう。


 ルティアを殺すのに。


 その小さな違和感は、ルティアの無事の知らせを聞いてもずっと残り続けていた。




いつもご覧いただきありがとうございます。


新しい魔術式。災害伝言サービスみたいなイメージです。

こっちは無事だよーって伝言残せるアレです。

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