136.ただいま!そして行ってきます!! 2
ちょっとビクビクしながら、お父様とロイ兄様の待つ部屋に向かう。もしや部屋に入って即見破られ、怒られるなんてことになったら……怒られるのは覚悟しているけれど、それでも会って即怒られるのだけは避けたい。
グルグルと色々なことを考えつつ客間の前に立つ。ロビンがチラリと私に視線をよこし、はあ、とため息を吐くとコンコンと扉を叩いた。
中から返事があり、ロビンが扉を開ける。
そこにいたのはお父様と兄様、それにハウンド宰相様とロックウェル魔術師団長、ヒュース騎士団長だった。
なかなかなメンバーが揃い踏みである。私、みんなの前で怒られるのか……ちょっとヤダなぁ。でも仕方ないのだ。怒られることしてるもの。
憂鬱な気持ちを抑えながら、みんなの後ろをついて行く。
「お連れしました」
「ご苦労さま、ロビン」
お父様の言葉にロビンは軽く頭を下げると、コンラッド様を席へと案内する。そして私達はコンラッド様の後ろに立つ。でもみんな私の方を見ない。あれれ?とちょっと拍子抜けしていると、兄様の後ろでロビンが口元に手を当てると横にスッと引いた。
つまり、何も喋るな、と……
でも喋らないと聞きたいことは聞けない。しかしそのジェスチャーに気がついたコンラッド様は、私にチラリと視線を向けると小さく頷く。
私が聞きたいことはコンラッド様も知ってはいるけれど……代わりに聞くという意味だろうか?ひとまずは大人しくしていることにした。
バレずに知りたいことだけを知れるのなら、それに越したことはない。そんな風に考えていると、先に声を発したのはコンラッド様だった。
「こんな遅くに時間をとっていただいて申し訳ない」
「いや、こちらこそ、故クリフィード侯爵の葬儀では大変申し訳なかった」
そういってお父様は頭を下げる。ドエクス伯爵達の行為で、お父様が頭を下げる事態になった。これは公式の場ではないけれど、本来ならば公式に謝らねばならない事態でもあるのだ。他国から来た弔問客を馬鹿にしたのだから。
それがなんだか悲しいし、腹立たしい。ドエクス伯爵達は裏でこんなことがあったと知らないのだ。彼らの行動で、一国の主人が頭を下げる。それがどれほどの事か理解すらしていないだろう。
もっとも理解していたら、あんな行動はしないだろうけど!
そして頭を下げたお父様に対して、コンラッド様は気にしないで欲しいと返す。それに重ね重ね申し訳ないとお父様は頭を下げた。
「国内の貴族すら上手く御せず恥ずかしい限りだ」
「いえ、我々もまあ……ちょっとお灸を据えてしまいましたしね」
「お灸、ですか?」
「ええ。もしかしたら、彼らが戻ってきた時に報告が上がるかもしれません。我々に暴力を振るわれた、と。正確にはカイゼル髭をチョビ髭にしただけなのですが」
「カイゼル髭をチョビ髭に……?」
お父様はキョトンとした表情を見せる。でも魔術師団長は堪えきれなかったのか、プッと吹き出した。だって想像したら面白いものね。立派なお髭がチョビ髭になったところは。ドエクス伯爵は絶対にあの髭を整えるのに時間かけていたと思うし!
「我が国の将軍が、その……詳細はファーマン侯爵から伺って欲しいのですが、剣舞を披露しまして。その際にチョン、と」
「そ、れは……いい薬になったでしょうね!大層腕の立つ将軍を抱えてらして羨ましい限りです」
「お褒め頂き恐縮です」
そういってカティア将軍は頭を下げる。確かにあの剣舞は見事だった。もしも機会があればお父様にも見てもらいたい。自分のことではないけれど、今は私のお姉様(仮)なのだし!とても嬉しく感じる。
一人で浮かれていると、お父様の視線が将軍から私に移った。ドキッとしたけれど、お父様は「妹さんですか?」と将軍に聞いただけだった。
それに対して将軍もそうです、と答える。でも隣でその受け答えを聞いていた兄様は、私をマジマジと見てきた。
そして暫く見ていたかと思うと、スッと視線を逸らし……後ろにいたロビンを見る。ロビンは兄様の視線に小さく頷いた。その瞬間、兄様は苦ーい笑いを浮かべたのだ。あ、これは怒られる。怒られるな!?
だってあの表情は兄様が怒る前の顔だもの!!でもお父様は私だとは気が付かなかった。つまりは私だとわかるのは、身近にいた人だけなのかも?
お父様は普段忙しくて私達と一緒に過ごす時間が少ないし、宰相様も魔術師団長、騎士団長もそこまで頻繁に会うわけではない。
あ、ということは侍女長に会ったら一発でバレるわね。自分の離宮に戻るのだけはやめよう。正式に戻ってきた時に怒られるかもしれないけど!先延ばしにできることは先延ばしにしたいのだ。
「ーーーーそれで、何か理由があってこちらにいらしたのですよね?」
「ええ。実は故クリフィード侯爵にルティア姫が手紙を預けていたのです。その件で確認をしにきました」
「手紙、ですか?」
「はい。姫君から内容も伺っております」
「なるほど。そうでしたか」
お父様は頷くと、ふう、と小さく息を吐く。そして少し迷う素振りを見せ、トラット帝国のことも?と聞いてきた。
「私もその場におりましたので」
「そうでしたか……」
「姫君は、クリフィード侯爵に手紙を預けたことで、侯爵が命を狙われたのではないかと悩まれております」
「それは!いいえ、それはありません」
「ですが、事故か故意かはまだわかっていないのですよね?」
「それは……そうなのですが……」
そういってお父様はいい淀む。なんだか歯切れが悪い。いつもならもう少し、こう、ハッキリというのに。
コンラッド様もそれに気がついたのか、お父様に少し鋭い言葉を投げる。
「ーーーー何か、あったのでしょうか?」
「これは国難に関わること。散々お手を煩わせておいて、見なかったことにして欲しいとお願いするのはダメでしょうか?」
「見なかったこと、ですか……」
「はい。ですがルティアには、クリフィード侯爵が亡くなったのはルティアのせいではないと、伝えて欲しいのです」
「それで姫君が納得するでしょうか?」
その言葉に、お父様は首を振った。私だってそんな言葉では納得できない。クリフィード侯爵やクリフィード領の騎士達が何故死ななければならなかったのか?その理由を知りたいのだ。
「手紙は、陛下の手元に届いていると思って良いのですか?どなたが陛下に?」
「はい。ルティアからの手紙は確かに受け取っています。持ってきたのは、クリフィード領に向かう途中だった第四騎士団の者です」
「その者は、フィルタード派とは関係のない者でしょうか?」
「ええ。彼らは平民から騎士になった者達。そしてルティアに感謝している者がとても多いのです」
「姫君に?」
「ええ。ポーションの開発は、怪我の多い彼らの助けになりましたから」
どうしたって怪我をすれば貴族子弟の多い第一から第三騎士団が優先になる。でもポーションが一番最初に卸されたのは第四と第五騎士団だった。
理由は簡単。子供が作った物は信用できない。といわれたから。実際に量産したのは魔術師団にも関わらず、だ。
当時はなんで!と腹を立てたものだが、今となってみればフィルタード派の貴族子弟が反対したのだろうな、というのがわかる。
そのおかげ、というと変だが、第四と第五騎士団はポーションの恩恵を一番最初に受けられた。怪我をしても直ぐに治せる、それは王都の治安維持を担っている彼らにとってはとても助かることだったらしい。
どちらかというと第一から第三騎士団は、王族が地方へ視察に行く時や他国から要人が来た際の護衛。あとは王城の警備が主だ。貴族子弟で構成されている分、団の人数としてもそこまで多くはない。
第四と第五騎士団は王都の治安維持、それと地方で魔物が多く発生した際に遠征に行ったりする。人数の規模としては第一から第三の二倍ぐらい。
怪我をした時に順番待ちが発生すると、治療が間に合わず、怪我を理由に仕事を辞める騎士も出てくる。せっかく腕の良い騎士達が、離職せざる得ないのは国としても大きな損失だ。
それがポーションで解決した上に、子供が作ったからと敬遠した第一から第三は暫くポーションを使うことができなかった。これは人数が多い方へ優先的に卸したこともあるが、魔術師団長が「子供が作ったのは信用できないのでしょう?」と睨みを効かせたせいもある。
そのことで第四と第五騎士団の人達は胸がスカッとしたらしい。
まあ、きっと彼らも自分達を実験台にして!と最初は思ったかもしれないけどね。結果的に彼らの為になって、ポーションの有効性も証明できたのだからそれで十分だ。
そんな経緯があって、第四と第五騎士団の人達は私に対して友好的な態度で接してくれる。彼らなら多分、私がクリフィード侯爵に渡した手紙を勝手に見ることはないだろう。
「アイザック陛下、ルティア姫はいずれ真実を突き止めようとするでしょう。彼女はとても正義感の強い方です。隠し通せるとは思えません」
「そうですね。ですが、これは……父親としてのワガママですが、まだ少し子供のまま自由にいて欲しいのです」
「自由に、ですか?」
「あの子は王族として、その年齢よりもずっと自覚のある子です。ですが、それ故に視野を狭めてはいないかと」
「なるほど……」
「ラステア国への留学は、あの子にとって新しい視点を見つけることができるでしょう。ランカナ陛下はきっとあの子の良き手本になってくださる」
「姉が、ですか?いや、手本にするのは……ちょっとどうかなあ」
コンラッド様はそういってちょっと笑うと、お父様にこれ以上は聞かないと告げた。私はまだ聞きたいことがいっぱいあるが、きっとお父様は教えてくれないだろう。
そしてクリフィード侯爵の死は、この国にとって何か、何かあるのかもしれない。
そんな予感が、したのだーーーー
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