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07.金色を纏う魔法

 


 図書室での微笑みから数日後、遂に魔法の指導が始まった。

 今までの退屈が嘘のように、ヴォルドーフ様は私の予定を埋めていった。


 魔法の勉強を始めて5日後。

 早足で魔法の基礎中の基礎を私に叩き込むと、ヴォルドーフ様は殊更爽やかに微笑んで言った。


「この国の者は魔術学校に入学すると様々な講義や実践を経て、それぞれの魔法を習得します。

 魔法の成り立ちや原理原則、歴史…しかし、リリーは既に良い歳です。今からそんな無駄な事を勉強していてはいくら時間があっても足りません。

 全てすっ飛ばして、実戦練習のみ行っていきましょう。」


 なんだか年齢を弄られている気がする。

 思いの外、ヴォルドーフ様はデリカシーの無い人なのかも知れない。


「…まずは、そうですね。浮遊魔法から始めましょうか。」



 ヴォルドーフ様御指南の元、多種多様のありとあらゆる魔法に触れた。


 まず、ヴォルドーフ様がお手本となる魔法を遣い、それを私が真似る。これを来る日も来る日も繰り返した。


 紙を飛ばしてみたり、ティーカップをりんごに変身させてみたり。

 光を呼出し、火をくねらせ、水を操り、風を吹かせた。

 ヴォルドーフ様に対して攻撃の魔法を使ってみた事もあれば、逆に魔法を防御したこともある。


 そう言えば、『学ぶ』という言葉は『真似る』と同じ語源からきているとか…なんてどうでも良い事を考えているとヴォルドーフ様からの注意が飛ぶ。


「リリー、集中出来ていますか?魔法が乱れていますよ。」


「は、はい。」


 …すこし机を焦がしてしまった。





 1ヶ月の魔法の実戦練習で分かった事がある。

 私は火に関わる魔法が全くダメだ。力のコントロールが上手く出来ず、良く小さな火事や爆発を起こしていた。


「リリー、魔法を制御するのも必要な技術ですよ。」


 ヴォルドーフ様にはそう口を酸っぱくして言われたが、火の魔法に関してはなかなかそれが難しい。


 代わりに面白いように上手く使えたのは、防衛魔法と怪我や傷などを治す癒しの魔法だった。

 ヴォルドーフ様がそれなりの力を込めて繰り出した魔法の攻撃からもしっかりと身を護れたし、傷んでいる花や怪我をした猫、侍女のちょっとした切り傷も魔法で跡もなく綺麗に治す事が出来た。

 癒しの魔法は使うと辺り一面が金色に輝く不思議な魔法だった。


 これには初歩中の初歩、薪に火を起こそうとして小さな爆発を起こしかけた私に呆れ顔をしていたヴォルドーフ様も、満足気な表情で褒めてくれた。


「防衛魔法はかなり広い範囲を防御する事が出来ていますし、特筆すべきは癒しの魔法ですね。

 この魔法は魔術学校で上位の成績だった者でも数人しか使えない高等魔法なんですよ。それに加えてリリーの癒しの魔法は他の者が行うよりも格段に効能が高いですね。傷が綺麗に消えています。」


 ヴォルドーフ様は大きな溜息を吐いた。


「あとは火の魔法も多少なりとも出来れば、リリーは優等生なのですが。

 まぁ、これだけ一つの魔法に特化出来るのもある意味才能ですね。」


 やっぱり魔法に関わる所ではデリカシーがない。


「さあ、もう一度やってみましょう。」


『…癒せ』


 先程、怪我をして道端に蹲っていた小鳥を見つけたので、手を当て集中をする。

 すると金色の眩い光が小鳥を包み込む。薄絹が金色に輝くような様はとても幻想的で美しいものだった。

 そして再び光がゆっくり引いていくとすっかりと傷が消えていた。

 小鳥が見間違えかの様に元気よく宙を飛び回った。


「良く出来ましたね。」


 その様子を見たヴォルドーフ様は手を叩き、嬉しそうにしていた。


「さて、今日はこの位にしておきましょうか。」


 その一言を合図に2人で片付けを始める。


「ヴォルドーフ様、癒しの魔法はきっと沢山の人達を救いますよね?

 私がもしも『漆黒の君』で無かったらこの魔法で人々を助けて、なおかつ生計を立てられるようになりますか?」


 片付けの手を止めずに尋ねてみた。

 半分本気で半分冗談。どうやったらこの世界で自立して生きて行けるだろうか。考えてみた結果、自分の得意な魔法を活かしたいと思ったのだった。


「フム…リリーは『癒者(いしゃ)』を志そうと思っているのですね?それには薬学や薬草学も学ばなくてはなりませんね。

 リリーがその気なら私も支援しましょう。」


 先に片付けを終えたヴォルドーフ様がお茶を淹れてくれた。


「ありがとうございます。

 ところで魔法はどんな傷や病気にも効くんでしょうか?」


「外傷には魔法が効きますが、病気等の内科は先程も言った魔法薬学の分野ですね。また、魔法で受けた外傷は癒しの魔法でも比較的治り難いです。

 リリー、甘い物はお好きですか?」


 そうなると確かに薬学の知識は必要になるな、と納得した。俄然、薬学や薬草学への興味が湧いて来た。


「はい。とても好きです。」


 ヴォルドーフ様が砂糖菓子を差出してくれた。

 甘い物は練習で疲れた身体に染みた。


「あとは、それから…亡くなった人を蘇らせる魔法はこの世に存在していません。残念ながら。」


 ヴォルドーフ様も砂糖菓子を1つ口にいれて微笑む。

 でも、その笑顔はどこか物悲しい空気を纏っているように感じた。




 ここ数週間、魔法の御指南が続いていたが、今日はヴォルドーフ様に終日ご予定があるとの事だったので久しぶりに図書室に向かう。


 魔法を習い始めてから、知りたい事がどんどん膨らんでいたので、授業のない時は書物で勉強する事にした。元々本を読むのは好きだったので、借りて来た本もすぐ読破してしまうので頻繁に通いたい。

『癒しの魔法入門』や『魔法薬学 初級編』『初学者向 薬草学』…合計4〜5冊の本を見繕って来て、ホクホクで王宮へ戻る。

 今日も大変麗しい『目の保養』さんを近くの棚でお見かけして、眼福を満たせたのもホクホクの1つだ。



 王宮への帰り道、従者と庭園の前を通りかかる。

 いつもは脇を抜けるだけだけど最近は大変気候が良く、今日もとても気持ちの良い日だ。

 頬を撫でる風が爽やかで心地良い。


 図書室で上がったテンションも相まって何となく庭園をお散歩しながら帰ることにした。

 後でまた、グレースがお散歩に行こうと誘ってくるかもしれないが、その時はまた来れば良い。


 庭園の中は今日も色彩豊かな花々に溢れていた。

 ローズブレイド自慢の薔薇の蕾も膨らみ、芳しい香りに辺りは包まれていた。


 近くに1人の庭師がいるのが見えた。

 生垣の下に座り込んでいる男性の肌は、常に屋外で働く者らしく日焼けしていた。


「薔薇の花もそろそろですね。」


 仕事の邪魔をしない様に少し離れた所から庭師に声をかける。すると庭師は慌てた様に立ち上がり、お辞儀をした。そして取り繕うような笑顔をみせる。


「はい。もうそろそろ、咲き揃うでしょう。

 国中の者たちが、まだかまだかと待ちわびております。」


 庭師とはその後2、3言葉を交わして別れた。

 しかし、広大な庭園は迷路のようで侍従の案内なしには迷ってしまいそうだった。


 庭園の中を進むと1人の御令嬢とその侍従や侍女の姿があった。

 すれ違う際に足を止めてお辞儀をすると、相手もお辞儀を返してくれた。


 これまた美しいその人は、鮮やかな珍しい刺繍がなされたドレスを着ていた。

 張りのある褐色の肌を持ち、スタイルがとても良い。出る所はしっかりと出て、それ以外の場所は引き締まった理想的な体つきをしていた。

 顔立ちもとても艶美だ。殿方達を相当数骨抜きにして来ただろうと簡単に推測出来た。


 美しい人は私達が来た道の方角へ進んで行くようだった。道を曲がり姿が見えなくなったところで、ほうと息を吐く。

 どうしてこうもローズブレイドの人々は美形揃いなのだろうか。




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