第8話 オレ、バクスイチュウ
閑話休題。
大人たちの思惑です。
アールに関わった人たちはカルチャーショックだよね。
( ゜Д゜)
*少し手直ししました
バトラーにナルコスの訪問と滞在を知らせて、俺たちは一端部屋に戻った。
木剣を立て掛け、靴を脱いでベッドに転がった。
別に疲れていた訳ではなかったはずなのに、転がった途端、どっと眠気に襲われた。目を瞑り今日の事を思い出す。
──今日も色々あったよな。スパルタされて、ジャマぴよに出会って、風魔法使って木を折りかけて……あーなんか、やっぱり疲れたのか?
──アールは5歳だもんね。魔力とは別のフィジカルな疲れは休まないと取れないよ。どうせする事ないし、休んだら?
──……………そうする、か……
コンコンコン、ドアを叩いたが返事がない。
「アール様、リリスです。ナルコス様とご一緒におやつはいかがですか?今日はシフォンケーキを焼いたんですよ?」
そう声をかけた。
もう一度ドアを叩くがやはり返事はなかった。
「アール様?入りますよ?」
そっとドアを開けると、スヤスヤとベッドで寝ているアールがいた。
「あらあらまぁまぁ。なんてお可愛らしい……」
布団も掛けずにスースー寝ているアールは5歳児らしくあどけなく、地上に降りた天使のようだった。
「楽しみにしていた剣術のお稽古でしたものね、張り切りすぎてお疲れになられましたか……?」
眠るアールに話しかけながら、毛布を掛けてあげた。
寝顔を見ながら思いを馳せた。
小さい頃からとても利発で、エルフリッド家では神童と呼ばれていた。
5歳までは世間に出されていないので、皆は賢いらしいとの噂でしかアール様を知らなかった。
誕生日会の後から里の者がアール様を知ることになった。
まず目につくのは艶々と月の闇夜のように美しく流れる黒髪だ。
珍しい金と銀のオッドアイを縁取る睫毛は濃く陰を落とし、吸い込まれるようにキラキラと輝いている。
その美しい外見だけでも十分に人目を引くが、本当に注目すべきなのは中身だと思っている。
知識欲が強く、努力も惜しまず、驚くほど理解力がある。
誰に対しても丁寧で、わがままも言わず、本当に優しい性格をしている。
「アール様は本当に5歳のお子さまなのですかねぇ?」
頭を撫でながらそう話しかけた。
こうしてアールに触れられるのは乳母である、自分の特権だった。
リリスには、時々アールがものすごく我慢しているように思えるのだった。
泣きたい時や怒って暴れたい時だってあるだろうに、そんな姿は生まれてこのかた一度も見たことがない。
ご両親ともにとてもお忙しい方たちなので、甘えたい時に甘えられない時もあったはずだ。
それなのに、高熱がでて苦しい時でも、一言も辛いとすら言わなかった。
本当は乳母である私ではなく、エリザベート様に甘えたかっただろうに。
「あまり寝過ぎるとかえって体調を崩しますからね。半時ほどしましたら、起こしに来ますからね」
愛しい我が子にするように額にキスを落とし、そっとその場を離れた。
「申し訳ありません、ナルコス様。アール様は休んでおられました。きっとお疲れになられたのでしょう。剣術を楽しみにされていましたから……はしゃぎすぎたのかしら?」
ふふっと笑い、そう言いながら、侍女のリリスがお茶を淹れてくれた。
リリスの淹れてくれるお茶はとても美味しかった。
「ああ、すまんな。どうしてもご両親と話さなければならないことがあって。突然お邪魔してしまった」
ケーキとお茶を用意してくれ、アールと一緒にいただく事になっていた。
「リリスさんはアール君の乳母だと聞いたが、アール君はどんなお子さんでしたか?」
なんだか不思議な少年だった。見た目は天使のようにかわいらしい。もともとエルフという種族は美しい者が多いが、あんな髪と瞳を持つものには会った事がなかった。
だが、中身が……掴み所がないのだ。どうしても年相応の5歳児とは思えない。
「アール様はお小さい頃からとても聡明でした。好き嫌いもなさらず、ぐずったりする事もほとんどありませんでしたよ。本当に育てやすいお子でした。ですが……」
リリスがそこで言葉を切った。
やはり何かあるのか?
「あまりにもお利口で、本当にこの子は人間なのかしら?と思うこともございますね」
「……なるほど」
確かに本当に5歳なのかと思うほどしっかりしている部分はある。
あんなことができるのだから、魔力量の多さも人並み外れている気がする。自分が少ないからそう思うのかもしれないが……。
魔術の勉強は始めたばかりだと言っていた。
始めたばかりの子どもがあんなに使いこなせるものなのか?
しかも2体同時に土人形を作っていた。
魔術を理解していないと、あんな事は出来ないはずだ。
それに、あの剣の振り方。とても初心者の5歳児とは思えないほど芯が通っていた。試すといって、いきなり巨木を倒すほどの風魔法を付与するなど、あり得ないだろうと思う。
アールに関しては、今まで自分が教えてきた者たちと、あまりにも常識が違いすぎる。
このままオレが指南役でいいのか?
広場の惨状も含め、もう一度きちんと両親と話さなければならない。
バトラーから、ナルコス先生が話があるそうで、家で帰りを待っているとの連絡があった。
今日はアールの剣術の稽古だった。
何かあったのだろうか?
ナルコス・ガルセクをアールの剣術指南役に選んだのは、僕の独断だった。
人族である彼を採用するにあたって、周りは難色を示した。
実力的にはなんの問題もないのに、彼が人族だという理由のみで反対されたのだ。
彼らの気持ちもわからなくはない。100年戦争の時、人族のエルフへの迫害は酷かった。人族に対し好意的な気持ちを持てるはずがないのは理解できる。
だが、エルフ側も黙ってみていた訳ではないのだ。
戦争というものはそういうものだ。どちらが悪いと一概に言えるものではない。
第一ナルコスにとっては自分が生まれる遥か昔の100年戦争など、全く関係のない出来事だった。
過去に捕らわれていては前に進めない。
人族には“温故知新”という諺があるそうだ。
歴史から学び新しいことに挑戦するという意味らしい。いい言葉だと思う。
これからの時代を担うアールに、そんな過去の遺物を押し付ける気はさらさらなかった。
それに……人族の科学というやつは目覚ましい物がある。
魔力をあまり持たない人族は、それを補うように魔道具を発達させてきた。けして軽くみていい種族ではないのだ。
反して魔力を多くもつエルフはそれに驕り、長寿であることにあぐらをかき、周りの変遷に無関心だった。
このままでは緩やかに衰退していくのではないか。
その懸念がずっと頭にあった。
自分が領主になったからには、この停滞してしまっている里に、なんとか生命の息吹を吹き込もうと努力してきたのだ。
幸いにも子供たちは増えてきており、他種族の者たちの受け入れも実行している。子供たちにはエルフだけの限られた世界ではない、新しい世界を見せてやりたい。
アールにはアールの人生がある。
そう思うものの、あまりにも良くできた息子(娘?)に期待を寄せてしまうのは親としては仕方のないことだろう。
本人の望むままに、最高の師を選べたと思っていたのだが……
……アールがなにかしでかすとは思えないんだがな?
ナルコスの話はいったい何なのか?
仕事を早めに切り上げて帰宅の途についた。
がんばれーマルエルー
がんばれー近藤さん1号ー
がんばれーお父さん!(っ`・ω・´)っ