第64話 母のぬくもり
お久しぶりです!
ご覧いただきありがとうございます。
この、小説は長編予定です。
ずいぶん間があいたりするのに気長に付き合っていただけて、本当にありがたいと思っております。このまま終わりまでお付き合いいただけると幸いです……。
アールはまだまだ子供です……。
「アール、朝だぞ。朝練に行くぴよ!」
モフが小枝でペシペシと叩きながらそう言った。
「……モフ、おはよ」
嫌な夢をみたせいか、なかなか寝付けず、結局明け方うとうとして、二度寝してしまった。
ぎゅっと毛玉を抱きしめた。
何となく頭がぼんやりしている。
──マル、とうとう朝が来たね
──ああ、今日が勝負だな。よし、パンツ新しいのに替えとくか!
──は?何でよ?
──勝負と言えば、パンツだろ?
──いや、それ状況が違いすぎない!?今日のはそういう勝負じゃないと思う
──そうか?俺は大きな出動の時はいつも替えてたけどなぁ~。自分に何かあって脱がされた時にボロパン見られんの嫌だろ?
──何故脱がされる前提!?
──要救助対象の蘇生のために服剥ぐ事なんて、ざらにあるんだぞ?
──ま、まぁレスキュー丸留ならそうかもだけども!アールが服を剥がれる訳ないじゃん
──そうかぁ?
「当たり前でしょ!」
思わず大声で突っ込んでしまった。
「びよ!何がぴよ!?」
抱きしめられていたモフが突然の大声にビクッとして毛が逆立った。モフモフだ。
「あ、ごめん、こっちの話」
ほんと、マル相手に真面目になるの、バカらしくなる。
起き上がり、うーんと伸びをした。
ま、いいか。このまま朝の支度して、ラジオ体操して朝練……はマルに任せよう。
「ミーサーはもう起きてるぴよ。行かないぴよか?」
「行く行く。顔洗ってくるね」
タオルを持ち、洗面所に向かった。
──そういや珍しくリリスが来ないな。いつもすぐ来るのに
──そうね。昨日母さんたも帰ってきたから遅くまで話し合ったのかも。そうよ!父さんも母さんも二人とも帰ってきたんだよね~会いたいな!部屋に乱入する?
──おいおい、それじゃ我慢のなら無い子どもみたいだろ?帰って来てんのは分かってるんだ。ここはどーんと構えて、よーし!部屋に突入するぞ!
──結局行くんじゃん!
顔を洗いタオルで拭き、髪を梳き、ヒモで結んだ。
身だしなみを整え、鏡に向かってにっこり笑った。
「うん、完璧」
目の下に隈でもできてるかと思ったけど、ツルツルピカピカのお肌に一点の曇りもなかった。
──ほんとアールってかわいい。リアルビスクドールみたい。これが自分の顔なんて不思議よね……
──でたよ、自画自賛。ほんと自分の顔好きだよな~俺はあんまり鏡とか見ないけど、エルはしょっちゅう見てるもんな
──たいていの人は可愛くてきれいなものは好きでしょ。マルだって、元カノ美人ばっかだったじゃん。雫さんなんてミスキャンパス候補だったし
──おまっ!?雫の事なんか思い出させんなよ!ああ~もう~ほら、さっさと部屋戻るぞ
部屋に戻るとモフが小枝をふよふよ振って素振り?をしていた。
「モフ、今からお母さんの部屋に挨拶しに行くんだけど、ついてくる?」
「朝練はしないぴよか?」
「まさか。挨拶したらすぐにするよ。昨夜会えなかったから顔が見たいんだ」
「そういうものぴよか?」
枝をゆらゆら揺らし、不思議そうに聞いた。
「うん、好きな人には早く会いたくならない?モフも、ボクとしばらく会えなかったら寂しくなって早く会いたくなるでしょ?」
「………………ぴよ……?」
またまた不思議そうに小首を傾げた。
……精霊には寂しいとかの感覚ないの?まぁ人間とは違うもんね……
「うーん……まぁ、今は分からなくてもいいよ。とにかく、お母さんの所に行って、お父さんの所に行って、ミーサーちゃんを誘って、朝練する。いい?」
「分かったぴよ!」
「よし、じゃあついておいで」
ひょいとモフを定位置(頭の上)に乗せ、エリザベートの部屋へと向かった。
エリザベートは既に起きていた。
昨夜寝ているアールの部屋を訪れ、健やかな寝息をたて、すやすや眠るアールが可愛くて可愛くて、思わず抱きしめて起こしそうになった。
アリステアに止められ、何とか思い止まったものの、興奮してあまり寝付けなかった。
ので、リリスに起こされる前に起きていたのだ。
鏡の前に座り、髪を梳いていると、コンコンコンとドアが鳴った。
「おはよーございます、ボクです。はいっていいですか?」
鈴を鳴らすような澄んだ可愛い声がした。
「アールちゃん!」
パッと立ち上がり、走らんばかりで扉にかけより、ガチャリと淑女らしからぬ勢いで開けた。
果たして、そこには──
「おほん、おかぁーさま、おはようございます。そしておかえりなさい!」
ぺこりと軽く頭をさげたあと、キラキラキラ~と輝くような笑顔を湛えた、愛するアールが佇んでいた!
「───アールちゃんっ!!」
ガバァッと思いっきり抱きついた。
「アールちゃん、会いたかったわぁ!アールちゃ~~~~~ん!」
ぎゅーーっと抱きしめ、スリスリスリスリーーっと頬を擦り寄せ、チュッチュッチュッチュッと、舐めんばかりのキスの嵐を降らせ、抱擁を交わしたのであった!
「ちょぉお、か、かーさまっ……く、くるしぃ……」
──ぐぁあああ!相変わらずこの人はぁ~~!
──くっあ、愛が……苦しい……ぜ……
「アールちゃん。元気そうで良かったわぁ~!ほんとにほんとにぃ~~~!はぁーーーー」
「……かーさまも、おげんきそうで……よかったです…………」
頬擦りされながら、じわーっと心があたたかくなる。
いろんな事がありすぎて、とても長い間会わなかった気がした。
「……おかーさま……ボク、がんばったんだよ……」
父さんと別れたあとの事を思い出した。
二人が居なくなって、本当は不安と寂しさが押し寄せた。
それでも心配かけたくなかったし、大人としての記憶があったから、駄々をこねることは出来なかった。
「ええ、ええ、アリステアから聞いてるわ。タリル先生からも山のようなお手紙をいただいたのよ。あなたがどれ程素晴らしい活躍をしてるか……そうだわ、あなた女の子を招待したって聞いたわよ?」
「うん、そうだよ。とってもいいコたちなんだ。あとでしょーかいするね!」
「そうなのね。楽しみにしているわ。ああ、でも私のアールちゃんが女の子のお友だちを連れてくるなんて……私の手を離れるようで……嬉しいような寂しいような……」
「かーさま!」
きゅっとエリザベートに抱きついた。
──もう~~~母さんったらかわいいな~!
──ああ、もうほんと、嫁にしたいぜ。ライバルは親父か
──それはエディプスコンプレックスって言ってね……
──ジョークだから。本気じゃないから
「ふふ、アールちゃん、嬉しいがいっぱいよ。これからもこうしてくれたら寂しいなんて吹き飛んじゃうわ」
よしよしと背中をなで、チュッと額にキスをした。
しばらくそのまま抱っこされていたが、父さんへの挨拶も、朝練もまだな事を思い出した。
「あ、かーさま。ボクそろそろいかないと。ナルコスせんせーに、あさのくんれんするようにいわれてるんだ」
「まぁ、そうなのね。ふふ、では行ってらっしゃい、愛しいアールちゃん。怪我しないようにね」
「うん。かーさまも、もうすこしやすんでて。あんまりねてなさそうだよ?」
目敏いながらも小首を傾げそういうアールは、とってもとっても可愛かった。
「ええ、あなたの笑顔を見たらほっとしたもの。もう少し休んでから下に降りる事にするわね」
「うん、じゃ、いってきます!」
エリザベートからそっと離れ、ドアを出て、後ろ手でドアを閉めた。
──よし、父さんの所へ行くか
──うん……なんだかドキドキするわね
──まぁ、な。だけどまだミーサーちゃんの事には触れないでおこう
──そうだね。いらぬ争いになりたくないもん
──ああ、その通り
「……ただの挨拶ね……」
気合いを入れ、父さんの部屋へと向かった。
家族大好きアール。
ミーサーちゃんも、アールにとって、もはや家族枠。




