第57話 異次元への扉?
不穏分子はあちこちにいるようね……。
まぁ、アールたちはのほほんと楽しんでるけどね!
子供は好奇心のまま遊ぶのがお仕事よね!
「あ、それ、さっきのおちゃとはちがうんですか?」
香りがさっきとはちがう。ミント?レモン?そんな爽やかな感じだ。
「えぇ、アール様は嗅覚も鋭いのですね!はい、こちらは去年から流通させておりまして……」
ウルバスがニコニコとまたお茶の説明をしてくれた。
チラッと鞄を見たら、モフは入り口付近でガサゴソしているみたいだった。
『ナルコス先生、モフ、入れなかったんじゃないかな?ガサゴソしてるだけみたい』
『ああ、じゃあやはりウルバスの言ってた生き物は入れないってのは本当……か……!?』
『え!?あ、モフ!!』
なんと、モフが今度は無理やり入ろうとして鞄を大きく開けた!
──ちょおっと、あれ、ヤバくない?開けすぎだよ。破けちゃわないかな?
──だよな。どうする?ウルバスに言う……たって、何て言やいいんだよ?
『ナルコス先生、どうしましょう?あれじゃ鞄をダメにするかも』
『ああ、あれはかなり高価なものだ。破られてはかなわん。俺が気を引くからお前はモフを回収しろ』
『分かりました』
ナルコスは部屋を見回した。先ほど見せてもらっていた商品はまだ奥のテーブルに並べて置いてあった。
マジックバックとは反対のテーブルだ。
「ウルバス、先ほど見せてもらった中に、ペーパーナイフがあったな。見せてもるえるか?」
「!もちろんでございます。少々お待ち下さい」
と言って、ウルバスが席を立ち、奥のテーブルに向かった。
『よし、今だ。行け』
アールはさっと立ち上がり、滑るようにモフの元に行った。
鞄を大きく開け、頭を突っ込もうとしているが、見えない壁に阻まれているようだ。
ジタバタしているモフを小さな声で呼んだ。
「モフ……」
モフがニョッとこちらを向いた。その顔は腑に落ちないって感じの変な顔だった。
思わず吹き出しそうになったが、グッと我慢した。
「ふふ……美味しいお茶菓子があるよ。あげるから、おいで」
小さく囁き、おいでおいでをした。
「お茶、菓子?何だソレ?旨いのか」
「砂糖菓子だよ。甘くて見た目もキレイなんだ。ほら、いくよ」
むいっと両手を広げ、さぁおいで!とにっこり笑った。
びょーん!っと胸に跳び込んできた。
モフ~~やっぱりかわいいなぁ~。
「モフってば何やってるんだよ。あの鞄は生き物は入れないんだってさ。モフも生き物枠だったんだね」
グリグリとふわふわの頭に頬擦りしながら、ささっと席に戻った。
ナルコスが立ち上がり、身体でこちらを隠していたおかげで問題なくモフを回収できた。
『ナルコス先生、回収できました』
『よし……そいつ、大人しくさせておけよ』
「ウルバス、他にナイフはあるか?」
そう言ってナルコスはマジックバッグを手にするように促した。
「はい、ございますよ。少々お待ち下さい」
何事もなくウルバスが鞄を手にしていた。
良かった。見つかんなかったね。それにしても何でモフは中に入ろうとしたんだろ?
後で聞いてみよう。
「ウルバスさん。ボクにもカタログとかあったらみせてもらえますか?」
そうそう、カタログが見たかったんだ。
モフを膝にのせ、こっそりモフにお茶菓子をあげながら聞いた。
「!!はい!もちろんでございます」
ウルバスは喜色満面の笑みでさっとカタログを取り出した。
「アール!これ甘いぞ」
モフは足をパタパタさせながら、嬉しそうに茶菓子を食べていた……。
******
アリステアたちは、途中、休憩のため寄った地図にない村で思わぬ歓待を受けていた。
そのため、大幅に帰宅時間が遅れていた。のだが……
「こんな機会はめったにござらんから、どうしても話してみたくてつい引き留めてしもうたが……御領主様はお急ぎじゃったかのう?」
この村の代表者であるドルクというかなり高齢のエルフが言った。
「──いや、大丈夫です。まさかこんな村があったとは、私もまだまだ知らない事が多いようです」
「いやいや、わし等の事は知らんで当たり前じゃよ。ひっそり暮らしておるでの~」
そう、この村は地図にはのっていない小さな集落だった。住んでいるのは身寄りのない年老いたエルフのみだ。何故町に行かないのか尋ねたところ、自分達は今の変化について行けないからだとの事だった。
「……ご不便はありませんか?」
自分がしてきた急速な改革の余波を、こんな形で目にするとは思っていなかった。
年配者を蔑ろにする気は無かったのだが、結果的には切り捨てている現状にジレンマを感じた。
だからと言って、この流れを止める気はアリステアには無かった。やりかけた事を途中で止める方がよほど酷い結果になるだろう。
「いやいや、町の暮らしは快適じゃったぞ?わし等は好きでここにおるんじゃ、不便など言っておられんわ」
はっはっはっ!と快活に笑うシワだらけのエルフを不思議な気持ちで眺めた。
エリザベートも従者の者も一様に歓待を受け、ニコニコと歓談している。
この老人は恨み言を言う訳ではなく、ただ若い時に経験した出来事を面白おかしく話すだけだった。
「──あなたは私を恨んではおられないみたいだ。あえてこの暮らしをなされている本音をお聞きしても?」
「…………わしは、流行り病で幼き日に両親を亡くしての、身寄りが無かった。父親の弟に引き取られたはいいが、エルフなぞ自分の事しか考えん連中が多い。放置されておったわ。まぁ、それでか、わしも自分の事だけを考えて生きてきた。戦争の時も関わらんように逃げ、なーんもしとらん」
くっはっはっと笑った。
「じゃが……あんさん、領主になって直ぐに色々しとったろ?」
「……それは……」
水道工事を始めたことか?あるいは孤児院の設立のことか?税金を上げたことか?心当たりがありすぎるが……。
「……町は徐々に変わっていき、わしは思ったんじゃ、今までとは違う、自分等古い人間はここにおらん方が良いとな」
「どうしてです?」
「そうじゃなぁ……エルフっちゅうのは変化を好まん。わしはその代表みたいなもので、変化を好まんやつらが集まってきての……やれ古の伝統を軽んじてるじゃの、森の天罰が下るじゃの……うるそうてな……」
「……あなた方は……では……」
「わしゃもう先が見えとるが、いつまでも変わらんエルフはわしと同じじゃ。先が見えとる。じゃからそやつらを連れてここに来た。昔の生活をしとるよ」
「────……」
「誤解なさるなよ?わしはあんさんの政策には賛同しとるんじゃ。色々幼い日の事を思い出したんじゃよ。あの頃あんさんみたいなヤツがおったなら、わしの両親もあっさり死ぬ事もなかったんじゃないかとのぉ」
笑いながら目を細め、ドルクが言った。
「じゃが、そうでないものもおる。この村はそんなやつらの避難所のようなものじゃ。心穏やかに過ごせるなら、それが一番じゃろ?」
「──私が……至らないせいですね……」
「かっかっか!領主じゃからといって何でも出来るわけじゃなかろう?まぁ、こんな連中もおるっちゅう事は忘れなさんな。わしらは穏健派じゃが、中には過激なやつらもおるで……」
「肝に命じておきます」
スッと胸に手を当て、頭を下げた。
「はっはっはっ!やぁ愉快愉快!御領主様から頭をさげられたぞい!おい!ロブ!わしゃすごいやつじゃろうが?」
「おめーは口だけじゃなかったか!」
ロブと呼ばれた老人が赤い顔で調子を合わせ杯を上げた。
そのまま宴会になり、夕闇が迫るまでそれは続けられたのだった……
「アリステア。難しい顔をなさってるわ」
テラスに出て涼んでいると、エリザベートがアリステアの隣に来た。
「まぁ……なんだ。色々あるなと思って」
「この村の人達は気さくで良い方ですわ」
ドルクは自分が何者でもないように言っていたが、これだけの人数を引き連れ、代表として村をまとめている。ただ者ではないはずだった。
「ここの村はね。だが……そうでない者達が集団になっていつの間にかこうやって地図にない村を作っている……そんな場所が他にもあるかもしれないと思うと……自分の力不足を感じるよ」
ふーっとため息をついた。
「アリステア……」
そっとアリステアの腕をとった。
「私はあなたみたいに未来を切り開く力は無いわ……でも、一緒に寄り添って歩くことは出来るのよ?」
エリザベートがそう言って腕を撫でた。
「……知ってるさ。だからと言って歩みを止める気はない。時には駆け出すかしれない。君も頑張ってついてきてくれ」
そう言って、額にキスをした。
「そろそろここを失礼しよう。暗くなってきたが急げば今日中には帰れるだろう。夜中になるかもしれないけどね……アールが待ってる」
「そうね、早く顔が見たいわ!お暇ごいをしましょう」
そう言って手を握りあい、皆のいる村長の家に向かった。
色々背負っちゃってるお父さんは大変だね。お母さんは伴走者。二人はいいコンビなんだよねぇ。
そんな二人+アール信者のリリスに育てられ、アールはすくすく成長しております。




