第54話 不思議なバッグ
ちょっとカッコいい野菜たち。
ちゃんとお仕事してますよ!
これだけは手放せないんですっ!!(ウルバス)
離れに向かう途中、ウルバス達はアールと出くわした。
どうやら彼らを待っていたようだ。
「あ、ウルバスさん、あとでおへやをうかがいますね!ききたいこととかあるので……」
と、アールがたたっと寄ってきて声をかけた。
「あ、はい!畏まりました」
やはり向こうから来てくれた。
……どうやって取り入るか……
と、突然鋭い視線を感じた!
ドキッとしてそちらを振り向いた。
そこには無言で佇むガタイのいい男が立っていた。
「!!」
驚いた、人族じゃないか!
あれは……まさかここの従業員か?
「……アール様、あちらの方は……?」
もし従業員なら……深くエルフ達と関わる人族となればかなり貴重な人材だ。同じ人族として縁を結んでおかなければ!
「え?ああ、あのひとはボクのけんじゅつのせんせーです。ナルコスせんせー!」
と、その男を呼んだ。
剣術の先生だと!?
確かに猛者の雰囲気はある。だが、人族が?
ナルコスと呼ばれたその男が、ゆっくりこちらに近づいてきた。
その剣呑な雰囲気に圧され、一歩下がった。
ナルコスのその醸し出すオーラを感じたのか、近くにいた風ノ旅ビトが、さっとウルバスの前に立ちはだかった!
「ウルバスの旦那、下がっててくださいやし」
ケールがボソリと言った。
「……何だ?お前達は」
ナルコスが近づきつつ低い声で言った。
「俺たちはこの人の護衛として雇われてましてね。そんな殺気を放たれちゃ……困りますぜ」
ベジーがじっとナルコスを見つめ、言った。
「そうっすよ。自分等は武器も持ってないっすからね。そんなでっかい獲物をぶら下げてそんな顔で近寄られちゃ……」
ケールがナルコスの剣を警戒しながらすっと体を沈ませ、いつでも飛び出せるように構えた。
「…………別にどうこうするつもりはない。アールがそいつの所に行くつもりらしいから見ていただけだ。アール、行くならオレもついていくぞ」
ふっと殺気を緩め、アールを見て言った。
「…………わかりました。でも、ナルコスせんせー……もっとこう、にこやかにできませんか?おやのかたきじゃないんだから……」
「出来ん」
「……はは……はぁ……ウルバスさん、それじゃ、あとで」
ちょっと困った顔をして、アールがそそくさと去っていった。
完全に立ち去るのを待ってからウルバス達に向き直った。
「……ここで暴力沙汰を起こしたら、即刻退館してもらう。あんたらほんとに武器は持ってないだろうな?」
「当たり前だ。そんなもの持ってたら、ここに入れてもらえない。入る前に預けてある。身体検査もされた」
ベジーも警戒を緩め、そう言った。
「だが冒険者というのは何をするのかわからん。身を守る武器を隠し持っていてもおかしくない」
じっと推し測るように3人を見つめた。
ベジー達に後ろ暗い事はない。
その見定めようとする目を黙って見返した。
「……いいだろう。ウルバス、あんたのそのバックは何が入ってるんだ?」
と、突然ウルバスに矛先が向いた。
「はい!?」
「ずいぶん大切そうだが?」
「これは、私の商売道具です!私の生命線ですので、いつも肌身離さず持ってます。けして怪しいもんじゃありません」
「……アールが来る前に確認する。ただのバックに見えない」
「!!それは…………」
「何か不都合でも?」
「そういう訳では無いですが……商売上……」
「オレはあんたの商売に興味はない。怪しいものがないか確認するだけだ。それが出来ないのであればアールとも領主とも会わせない」
「……あんたにそんな権限あんの?」
ナルコスの高圧的な態度にアニスが反感を持ったのか、喧嘩腰にそう言った。
「領主の留守中はオレとタリルがここの護衛だ。だいたい領主もいないのにあんたらまで連れ込んだアールも問題だがな。タリルが何故許したのか……とにかく、見せろ」
「…………では、二人だけで」
「いいだろう。シェフィ、部屋に案内してくれ」
「…………はい。こちらでございます」
今まで石と化していたシェフィが再び案内をはじめた。
*****
「……で、これが今回お見せしようとしていた品々です」
テーブルの上にズラリと並べられた商品は文房具から食品まで様々だった。
「なるほどマジックアイテムとは便利なものだな」
そう、ウルバスが持っていたショルダーバッグは魔道具だった!
一見普通のバックだが、中には相当な量の物が入れられる。しかもバックの見た目や重さは変わらない。
「こちらは私しか使え無いようにしていますが、物が物なので手に入れようと企む輩はおるのです。ですからこの事はご内密に」
「言ったろう?オレはあんたの商売には興味がないし、誰かに言うつもりもない。危険がないか確認したかっただけだ。本当にその中に生物は入れられないのだな?」
「はい。何故か生物は弾いてしまうのです。実際どうしてなのか、基準はどうなっているのかはわからないのですが、私の商売にはそれで十分です」
「……この花をそのバックに入れてみてくれ」
そう言って花瓶に入ってあった切り花を渡した。
「あ、はい」
それはすんなりバックに吸い込まれていった。
「──入るじゃないか」
「あ!それはそう……でも苗は入らないのです!その、私も基準はよく分からんのですよ!」
しまった!
いや、でも生物を弾くのは嘘じゃない……ここで信じてもらわなければこうしてはるばる来た意味がない!!
「ずいぶんいい加減だな」
呆れたようにウルバスを睨んだ。
「!そ、そうだ!あの、生き物……例えば犬とか猫とか鳥とか……飼ってませんか?」
「────いない」
一瞬モフの事が頭に浮かんだ。いや、あれは鳥じゃなかった。鳥に似た変な生き物だ。
「ん?呼んだか?」
と、突然どこからともなく目の前にモフがヒョコッと現れた!
「なっ!?お前!」
思わず声が出た!
ハッとしてウルバスを見た。
「?あの?何か……?」
ウルバスが面食らったみたいに目を見開いてナルコスを見た。
「──………………なんでもない……」
どうしてここにモフが……近くにアールがいるのか?
……どうやらウルバスにはモフが見えてないようだが……邪魔でしかない!
「どうした、ナルコス。ピヨを呼んだろ?」
パタパタと目の前を跳んだりはねたりしている。ピョンピョンウロウロ纏わりついてきた!
「…………っ……」
ここでコイツの相手をしたら一人で何かやっている頭のおかしいやつだ。
分かっているが…………。
「……その、私は商売以外はこのバックを使う気はなくて……ですから…………」
ウルバスが何か言い訳めいた事を言っている。
だが、モフが自分の顔を横に引っ張り、ペロペロ舌を出しながら、ビョーンビョーンと目の前まで飛び跳ねて視界を塞ぐ。全く話に集中出来ない。
これは……アールの差し金か?
「──分かった、ウルバス。あんたの事は注意しておくが、害をなそうとしてる訳じゃなさそうだ。変なことにそのバックを使うなよ」
これ以上コイツに邪魔されては、変な行動をとりそうだ。
くそっ、掴んで何処かに放り投げてやりたいっ!
「どうした?ナルコス?ピヨを掴まないのか?」
その気持ちを見透かしたようにピヨピヨ鳴きながらゴロゴロとウルバスの周りを転がり出した。
──こいつ……勝ち誇ったような顔でこちらを見てくる……
「ええ!もちろんでございます!」
ホッとしたようにウルバスが安堵のため息をついた。
「いいだろう」
ウルバスに向かい、こくりと頷いた。
頭の上に乗ってきたモフが真似をしてこくりと頷いているのが気配で分かった。
──くそっ……さっさと追い払いたい!
思わず腕に力が入るのをかろうじてやり過ごし、背を向け、部屋から出ていった。
モフーかわいいねぇ~、でも気をつけて!
ソイツは本気で消そうとしてくるヤツだよ!




