第53話 エルフリッド舘
エルフって、ほんとに美形揃い。
ウルバスさん興奮気味?
やらかすのはアールのお仕事です!
一足先にウルバス一行が泊まりにくるとの連絡を受けたバトラーとリリスは、前例に無いことに驚愕した。
領主不在のこの舘に、ミーサーだけでなく、また新たに他人を泊める!?しかも人族!
タリルがそんな事をするなど二人とも信じられない思いだったが、それがアールの言い出した事だと分かり、妙に納得したのだった。
“アール様ならやりかねない”
とにかく受け入れの準備を整える為、エルフリッド領で働く全員が広間に集められた。
何事かと皆が見守る中、執事のバトラーから爆弾発言が落とされた。
「皆、今連絡があって人族の4人組が我等が舘に宿泊する事になった」
その言葉に皆は騒然とした!
「は?人族!?」
「え?嘘でしょう?」
ざわざわとした声が広間にさざ波のように広がった。
「ご領主様の代行であられるアール様からのお達しだ。皆、アール様に恥をかかせないように頑張って準備してくれ」
その言葉に騒がしかった従業員たちが、静かに耳を傾けた。そう、皆の心が一つになったのだ!
“アール様ならやりかねない”と。
「部屋は離れを使う。あまり時間がない、トムソン、各部署を周り、事の経緯を後でアリステア様にお渡しできるようとりまとめる事。他の従業員はリリス長の指示に従い、離れの準備をしてくれ。4人の中に女性もいるとの事なので、そこも考慮するように。では早速準備にとりかかろう!」
パンッと手を叩き、スタートの合図とした。
「「「「「はい!」」」」」
優秀な従業員たちは、素早く行動するのだった……。
「アールのやつ……」
俄に屋敷内が騒がしくなった。
ナルコスはそろそろ町へ出掛けるつもりだった。
だが、リリスから連絡が入ったのだ。
「アール様から“人族の4人組を泊める事になったのでよろしく”との事です」と。
何がよろしくなのか分からないが、アリステアが居ないのに、よくまぁこれだけ騒ぎを起こさせるものだと、ある意味感心させられる。
一緒にいたタリルは止めなかったのか?
いや、あの男はアールに心酔しているように思える。結局なんでも受け入れるのだろう。
“人族をエルフリッド舘に泊める”
その意味が果たして分かってるのだろうか?
自分も人族だが、雇われるだけで頭の硬いエルフから反対の嵐だった。
それをこの舘に宿泊させるのだ。何日になるのか分からないが……トラブルしか思い付かない。
……タリルがいるから大丈夫か?いや、どんなやつらか分からない。オレも泊まった方がいいか……アリステアが戻ったら家に帰るつもりだったが……そいつらが泊まる間はいた方が……
ハタと気づいた。
アールの“よろしく”とは、つまりトラブル防止のために4人組が滞在中はオレに護衛になれと言うことか。
「あいつ……」
タリルは他に仕事があり、べったりエルフリッド舘に居る訳にはいかない。だがオレはここがメインで他に特に重要な仕事がある訳ではない。
「…………オレも従業員にするつもりか?」
何だか外堀が埋められていっている気がする。
体質を変えられ、実験にも付き合わされるはめになった。
アールには伝えてないが、明らかに体調がおかしい。体を巡る変な気の流れを感じる。おそらくこれが魔力というやつなのではないか?
普通人族で自分の魔力を感じるなど無いのに。アールの言うように、なんだか普通の人族から一線を画した者になりつつあるようで気持ち悪い。
加えて妙にリリスを推してくる。
デートの約束までさせられた。
何を考えているのか、アールの本心は分からない。5歳児のする事にいちいち意味を見いだす必要は無いのかも知れない。
だが、なんとなく自分を取り込もうと網を張り巡らされてる気がするのだ。
……このままずっとアールの面倒をみさせられる気がする……
ふるふると頭を振った。
まだ起こってもいないことで頭を悩ませるのは馬鹿らしい。
とりあえずその人族4人組とやらが危険でないか確認してから出掛けることにした。
徐に剣を抜き、じっと刀身を見つめた。
いざというときのためにも手入れは欠かせない。
道具を取り出し、磨くことにした。
*****
「あちらがエルフリッド舘です」
遠くからでも分かる、立派な屋敷が見えた。
大きな木が立ち並んでいた。
その中にシーロンでは見かけない一際大きく、不思議な形の木があった。
「……あれは?」
「あれは、麒麟樹という魔木です。あれ自体意志があるのか、認めた者が世話をする限り普通の木と変わりません。ですが敵認識した場合、周りの木々を操り、敵を排除するために攻撃すると言われています。と言っても私はあの木が動いた所は見たことが無いので、お守りみたいなものですね」
「なるほど」
さすが魔力の強いエルフの里だった。
魔木であればシーロンで見るわけない。育たないのだから。
「ほー」「すげぇ……」「なんか……不思議」
“風ノ旅ビト”達も見たことが無い?
どうやらこの麒麟樹は魔境の森でも珍しいのかもしれない。
「へーそうだったんですね!」
え?君も知らなかったの?
ここに住んでる領主の息子なんだよね?
……なんだか不思議な子だ。
その外見の美しさに惑わされがちだが、侮れないと肌で感じている。
──うん……金の匂いがぷんぷんするんだよなぁ~ふっふっふっ
ウルバスは小心者だが、儲けの為なら大胆にも狡猾にもなる。アールからは儲け話の匂いがする。もちろん領主が取引相手になるが、こっちからもいい話が舞い込んでくる予感がするのだった。
──このお坊っちゃまは味方につけないとな……そうだ、飛行船の模型があった。あれで……
「お帰りなさいませ。アール様。皆様。どうぞ馬はこちらに」
はっと気づくと、もう目の前まで来ていた!
「うん、ただいま!おきゃくさまをおつれしました」
「はい。お聞きしております。いらっしゃいませ、ウルバス様、“風ノ旅ビト”のご一行様」
壮年の紳士然とした男がペコリと頭を下げた。
「──はい。お世話になります。急なことでご迷惑をおかけしますがよろしくお願いします」
ウルバスも頭を下げそう言った。
「「「「お願いします」」」」
風ノ旅ビトもウルバスに続いた。
馬を預け、玄関へと向かった。
ギィーっと重低音を響かせドアが開けられると、そこには、
「「お帰りなさいませ」」「「お帰りなさいませ」」
ずらりと美しいエルフ達が並んでいた。
「ただいま!リリス~ワッカのステーキたべたよ!」
「アール様、お帰りなさいませ。美味しかったですか?」
スッと薄いピンクの髪をした、美しくも愛らしエルフが出て来てアールの荷物を受け取っていた。
次々とエルフ達が横につき、荷物を受け取っていく。風ノ旅ビトは武器を外すように促されていた。
「ウルバス様、お荷物お預かり致します」
いつの間にか自分の横にも眼鏡をかけた美人のメイドが立っていた。
「あ、あぁありがとう。ではお願いします」
と言って、担いでいたリュックを渡した。
「……そちらはよろしいのですか?」
と言って、ウルバスのショルダーバックを見た。
「これは……ええ、大丈夫です」
これには命といっていい商売道具が入っている。肌身離さず持っていなければ落ち着かない。
「畏まりました。ではお部屋にご案内させていただきます」
シェフィはそのバックを警戒しつつもウルバスたちを離れへと連れていった。
領主さんいないのにねぇ……ほんとに大丈夫?




