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第51話 商人ウルバス

ワッカは和牛。アッカは米牛。オッカは豪牛。法則はわかったかな?


和牛って柔らかくて美味しいよね。

アメリカ牛って噛みごたえあるよね。

オーストラリア牛ってホルモン投与とか気にしてたりするよね。


焼き肉行きたい……

「これ、おいしーです」

ワッカのステーキをもきゅもきゅと咀嚼し、ゴクンっと飲み込んでから言った。


「ええ、本当に」

相変わらずタリルは笑みを浮かべたまま相づちをうっている。


でも、なんだか店内が静かだ。なんだろな~この違和感。まぁ考えても仕方ないか。


「旨いぴよ!」

モフも旨そうに食べている。


はたから見たら空中で食べ物が消滅しているように見えるだろうが気にしない。

ミーサーちゃんは黙々と食べていた。



──うーん、デリシャス!肉汁がジュワーってなって、うまっ!


──ほんと、マルが言ったみたいに和牛に似てるね。脂肪部分が甘いわ。柔らかくって……癖になりそう~



「…………私は時々アール様が本当に神童ではないかと思う時があります」

と、突然タリルが言った。


「ええ?てれますね……」

まぁ、今まで何回も言われてるけどな。何で急に?


「神に愛されているのは確かですが、神童には過酷な運命が待つとも言われています。周りが放っておかないからでしょうね……」


……なんだろう?真面目な話しか?

いや、こんなレストランでする話しじゃないだろ。


「……ボクはふつーのエルフです。ボクのゆめはスローなライフなので、かこくとか、ナイとおもいます」


「──ふふ……ええ、そうですね。私の考え過ぎですね。歳を重ねるとどうも心配性になるようです。杞憂でしたね。……うん」

目を瞑り、下を向いた。

ふっと顔をあげた時はいつものタリルに戻っていた。


「では、アール様のスローなライフとやらの為に私もお手伝いさせていただきましょうか。昔、あなたのお父様とはじめてレストランに行った時の事なのですが……聞きたいですか?」


「!!はい!おねがいします!」


アールは何やら面白そうな話に耳を傾けた。




「では、こちらがメニューになります。お決まりになりましたらお呼びください」

そう言って店員が下がっていった。


四人組につられレストランに入ったがやはり中は雰囲気のよい明るい店だった。

なんとはなしについ彼らを、というかあの少女を探してしまった。

目立つので直ぐに分かった。彼らは窓際に案内されたようだ。


……これではワシが子供好きに思われるぞ。断じてそんなのではないんだが…………そうだ、これは絵画に感銘を受けたときと同じだ。

一挙手一投足(いっきょしゅいっとうそく)まで目に焼き付いてしまうほど印象的なのだ。


あの少女が注文しようと顔をあげた。

途端に店員が飛んでいった。どうやらあの店員もあの子から目が離せなかったようだ。

だが、あの店員も別に子供好きという訳でもないのだろう。


よく見ると店内のあちこちから彼らは視線を浴びていた。

ヒソヒソと話し合う声がして、全体的にざわめいているのだ。


「旦那、ウルバスの旦那!どうしやした?たのまねぇんすか?」

ケールに言われ、我に返った。


「あ?いや、そうか、君のとこからは見えんのだな」


「は?なんすか?」


「いや、ワシはこのワッカのステーキにする」


「ああ!ここの名物らしいっすね!すみません、店員さん!」


「はい、少々お待ち下さい」

そう返事をした店員は、いそいそとあの少女の所へワッカのステーキを運んでいた。


……おかしくないか?さっき注文したような……なるほど、厨房が超特急で仕事をしたか……


「お待たせいたしました。何にしましょう?」

先程の店員がなんだか嬉しそうにしている。

やはり、あの一行は店員に影響を与える存在なのか?


「ああ、このワッカのステーキと……」

ケールが注文するのを待ち、店員に聞いてみた。


「君、あの人達は有名なのかね?」

と、彼らに視線を送った。

店内の様子を見るに、どうもただあの子の美しさだけを語っている訳ではなさそうだったのだ。


「お客さん……ああ、旅の方ですね。ええ、もちろんです。ここら辺りで彼を知らない人はいないですよ!」


「ほう!聞いても良いかな?」


「ええ、別に隠しているわけではないですから。あの男性はタリル・シルヴィオーラさんといって、ご領主様の片腕です。ほんとにすごい魔導師で、皆の尊敬の対象なんです」


領主の片腕!?まさかこんな所で会えるとはっ!


「では、あの子ども達は?」


「あの双子の少女は分かりませんが……あの黒髪の少女……じゃなくて、少年は、おそらく領主様のご子息ですね!噂では天使のごとくお綺麗で、神童と謳われるほど聡明な方だと聞いてましたが……まさか噂通りとは……」


領主の息子だと!!いや、あれが息子!?娘ではないのか?


「そうか……ありがとう」


ぺこりと頭を下げ店員が去っていった。


これはもう、運命ではないか?

着いたその日にまさか領主の片腕と息子に会えるとは!

もちろん領主本人ではないので取引の話は出来ない。だが、彼らと知り合いになっておけば事が運びやすいにちがいない。


よし!食事が終わったら彼らに声をかける。

飲みに……は無理か。

こういうこともあろうかと鞄の中には色々な物を入れてある。その中から何か……。


「お待たせいたしました。ワッカのステーキです」


「おお、旨そうだ」

「よっしゃ喰うぞ!」

「月に感謝を」


良い匂いのするワッカのステーキを“風ノ旅ビト”が早速食べ始めた。自身も急に腹が空いてきた。


「……そうだな。ワシも食べるとするか」

とりあえず方針は決まったので目の前の食事をすることにした。


四人とも久しぶりに食べるまともな食事に、いつの間にか無言で食べていたのだった……。



*****



せっかく作っておいた昼食が無駄になってしまった。

いや、 正確には夕飯に回せばいいだけなので無駄ではない。


「……お祭りの時は仕方なかったけど、普段から外食なんて。タリルさんはアール様を不良にする気かしら?」

ぶつくさと文句をたれた。


急に仕事がなくなったので、皆で一息ついていたのだが……。


「あら、いいじゃない。アール様だってずっと同じ味よりたまには違うものだって食べたいわよ」

シェフィが紅茶を飲みながら言った。


「そうですねー飽きちゃいますもんね~。お洒落なお店で華やかにしたい時だってあります」

うんうんと頷きながらエイナがシェフィに相づちを打った。


「──は?何、それ。私の料理がダサくて地味だとでも言いたいの?」

ゴォオオオオオっとリリスの背後に燃え上がる炎が見えた気がした!


「……バカ……」

ビルマがボソリと呟いた。


「ち、違いますぅ~~!リ、リリスさんのお料理はおいしいです!ただ、ほら、いつも健康食だと、ジャンクフードが食べたくなるっていうか、そういうのあるじゃないですか!」

エイナが焦って言い訳をはじめた。


「──は?何それ。私の料理が年寄り臭いとでも言いたいの?」


ゴゴゴゴゴーッとさらに火に油を注いでしまった!?


「ち……違いますってばぁーー!うえーん、シェフィさーん、助けてぇ~~~!」


「あなたねぇ……」

はぁーっとシェフィがため息をついた。


「……ほんとバカ、考えなし、直情的」

ビルマの毒舌が炸裂した。


ぎゃいぎゃいとメイド室は今日も賑やかだった。

ウルバスは商人。ちょっと小心者だけど、頑張ります!

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