第5話 近藤さんってダレ
日曜日更新予定でしたが、長くなりそうなので更新してみました。
ラジオ体操ってラジオじゃないよね。
え?近藤さん?ダレ?それ。
(´・д・`)
※改稿しました(9/22)
朝日が窓から差し込んでいる。
チチチチと、鳥の鳴き声が聞こえてきた。
気持ちの良い日差しに自然と目が覚めた。
「ん──よく寝たぁ──!」
ぐ──っと手を伸ばし、身体を伸ばした。
──おはよう、マル
──おう、おはよ
コンコンコンとドアが鳴る。
「おはようございます。アール様」
リリスだ。ナイスタイミングだな。
「おはよーリリス!」
ベッドから降り、朝日を浴びながらラジオ体操をする。
心の中で音楽を奏でる。
チャン、チャラ、チャンチャラチャンチャン、チャン、チャーラチャーン~
完璧に空で覚えている。
これは前世からの朝の日課だった。
初めはリリスに変な顔をされていたが、今では当たり前の光景になっている。
ベッドメイキングをするリリスを見ながら、フンフンと身体を動かす。
「アール様、今日は剣術のお稽古ですね。よくお休みになられましたか?」
「うん、いっぱいねたー」
本当にぐっすり寝た。
魔力の使いすぎで、なんとなくだるかったのが嘘のように絶好調だった。
まぁ主にエルが担当してたからな。
「ようございました。お着替えお手伝いいたしましょうか?こちらのお洋服はボタンが後ろになってますので……」
「だいじょーぶ。ひとりでできるよー」
「ふふ。かしこまりました。アール様は。何でもお一人でやりたがるお年頃ですものね」
「できるもん」
むむむ、信用されてないな?
「ほら」
ぽぽいっと寝まきをぬいで、服を着た。
あれ?だめじゃん。手が短すぎて背中のボタンに届かない。
「くっ……」
何とか止めようとじたばたしたが、どうにも上手く届かない。
──あのさー、前と後ろ逆にして、ボタン止めてから回せばいいんじゃないの?
──おお!その手があったか!
くるっと回し、ボタンをとめ、元に戻した。
「きれました!」
ふふんとどや顔をした!
「お上手ですわ、アール様」
うふふふふと笑いながらリリスが誉めてくれた。
今日は待ちに待った剣術の稽古だ。
教えてくれるのは、タリル先生と同様、剣術では第一人者のナルコス先生という人だ。
──ああ!めっちゃ楽しみだぁ!体調も絶好調だし、魔術ん時みたく誉められまくるぜ!
──まぁ、ガンバレ~
──なんだよ、その、気の無い応援は
──だってさぁ、あんまり興味無いし。私はラボで効率よく魔法を使えないか考えとくよ
──このオタクめ…
──褒め言葉と受け取っとくね!
……はっ!まぁ見とけよ。エルには負けないからな?花丸もらってやる
朝食を終え、部屋に戻り、準備をする。
父さんから買ってもらった訓練用の木剣を眺めて、鏡の前でなんとなくポーズをとってみた。
ふふん。なかなか様になってるんじゃないか?剣道くらいしかしたこと無いから、イマイチよくわからんけどな。
──まぁ変に癖が無い方がいいんじゃないの?アールの運動神経は抜群だし、マルならすぐできるよ~ガンバレ~
──だから、気の無い応援はいらねぇ!ほんと興味無いだろ?
──人にはそれぞれ向き不向きがありましてですねぇ?マル、適材適所って知ってる?私は魔術担当いたしますです、はい
──はいはい。あーそうだ。気になったんだけどさ、俺らの魔力ってどうなってんの?
──どうなってるって?何が?
──いや、だってさ、昨日さんざん魔力使って、エルは寝ちまうくらい疲れてただろ?でも俺は別にあんまり感じなかったんだよな。同じ身体なのにおかしくないか?アールの魔力ってどうなってるんだ?
──え?疲れなかったの?
──いや、なんとなくだるいってのはあったけど、その程度だな
──そうだったんだ。うーんじゃそれも課題だなぁ
──またやること増えたな。ま、エルならやれるさ~ガンバレ~
──何よ?その、気の無い応援は……
ぶつくさ言うエルをしり目に、鏡に向かって今度は上段の構えをとる。
鏡の前で脳内会議すると、一人で鏡に向かって話しかけている、危ないやつに見える気がする……。
ふと気配を感じて窓の外を見ると、一頭の馬がこちらへ向かって来ていた。
お!ナルコス先生か!?
ほどなく、リーンと玄関のベルが鳴った。
きっとそうだ!
ばっと部屋を飛び出し、急いで廊下に出た。階段を降り、玄関に向かうが、既に執事のバトラーが対応していた。
「ようこそおいでくださいましたナルコス様」
バトラーの声が聞こえた。
やはりナルコスだ!
父さんからナルコスは一流の剣士だと聞いているが、詳しい事は教えてくれなかった。
タリル先生の時もそうだったが、名前と教わる項目しか教えてくれない。
余計な情報に捕らわれず、自分の目で確かめろって事なんだろう。
どんな達人なのか、うずうずしてバトラーの後ろで待ち構え、紹介されるのを待った。
「はじめまして。ナルコス・ガルセクです」
そう言って入ってきたのは、茶色い髪で顔に傷があり、左右の両方に剣を携えるガタイの良い人族の男だった!
──おい、エルフじゃないぞ!
──ほんとだ。この世界では初めて人族に会ったね!
なんと、驚いたことにナルコスは人族だったのだ!
エルフはあまり人族との交流を好まない者が多い。
何故かとリリスに問うた時、それは100年ほど前にあった戦争が原因だと言っていた。詳しくはもっと大きくなってからだと言われ、教えてくれなかったが、今でもあまり仲がいいとは言い難いはずだった。
俺たち元人族としてはなんとなく寂しいと思っていたが、まさか、ここで人族に会うとは!
父さんすごいぞ!いくら第一人者とは言え、因習を破ってアールの先生にするなんて、なかなか出来る事じゃない。
前世でじーさんばーさんに育てられたから、そういうしがらみとか、超面倒くさいって事はよく知ってる。
うちの父さん、マジでナイス!!
バトラーと挨拶し、改めてナルコスがアールの方をじっと見つめてきた。
その目が何を意味するかはわからない。
ので、こちらから挨拶する事にした。
挨拶、これ、大事!
「はじめまして!ボクがせーとのマルティネス・アール・エルフリッドです。アールとよんでください。よろしくおねがいします!」
ペコリと頭を下げて挨拶した。
ナルコスはちょっと面食らったみたいに目を見開いたが、ふっと笑って挨拶してくれた。
「……はじめまして。オレが君に剣術を教える事になったナルコス・ガルセクだ。こちらこそよろしく」
右手を差し出してきた。
おお!なんか地球っぽいぞ!
差し出された手を握り、ブンブン振った。
「はい!おねがいします!」
コクリと頷きながらも鋭い瞳を向けられた。
「まずは体力を見てみたい。木剣をもってきたようだが、今は必要ない。預かっておこう」
ぬっと手を出してきた。
「……はい」
マジか 、残念だ。
せっかく持ってきたのに。
体力はバッチりあるんだけどな。まぁ、この人は知らないから仕方ないけど……しぶしぶ渡した。
「なんだ、不満そうだな?」
じっとこちらを見る目が何かを見極めようとしているようで、居心地が悪い。
こういう輩に嘘をつくのはあまり良い策ではないのは知っている。
「……ふまんというか……ざんねんです。せっかくおとーさまが、かってくれたので」
「ああ、そういう事か。大丈夫だ、何も取り上げる気はない。後でちゃんと返す。体力次第では剣を渡すさ。では行こうか」
そう言って連れだって庭に出た。
「よろしくおねがいします!」
ペコリと頭を下げた。
「よろしく。よし、ではまず向こうの木まで走って戻ってこい。用意、はじめ!」
パンっと手をならされ、いきなり始められた。
なんか調子狂う!
ダッと走って木にタッチして元のところに戻った。
だいたい往復で50メートルくらいだろう。かかったのは6、7秒ってとこかな。
「ふむ、なかなか速いな。それに息切れもなしか……いいじゃないか」
まぁね。エルには体力バカみたく言われるけど、ちゃんと頭も使ってるからな?
「ありがとーございます」
頭をさげようとすると、
「いちいち礼はいらん。次、同じ事を10回繰り返せ。用意、はじめ!」
パンっと手を叩かれた。
またいきなりかよ!こいつスパルタだな!ほんまもんの体育会系だ!あ、当たり前か。
走りながら思った。
レスキュー時代思い出す。
あの鬼畜の近藤さんを思い出すぜ!
こいつもきっと、鬼畜にちがいない!
なんだか自分が前世に戻ったかのように必死で走った!訓練中の地獄のインターバルが頭をかすめた。
はぁはぁ息を切らしながら10週走って元のところに戻った。
「……よし、では次は腕立て伏せ30回!用意……」
ちょっと待てや!休ませろ!
「ちょっとまってください!」
バッと手をあげ、制止した。
さすがにしんどいわ!
「なんだ?」
「あの、……すこし……やすませてください」
「……ふん。止めるなら別に構わんが?」
「は?やめるとかいってないし!?ちょっときゅーけいほしいっていっただけですぅ!」
この、鬼!!アールはまだ5歳だっちゅうの!
あ!ヤバい!猫かぶりしてたのに、本性がバレちまう!しまった!
ちょっと驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑われた。
「……いいだろう。3分休憩だ」
くそぉー!なんかタリル先生と全然っ違う!
なんだよ?このスパルタは!!
は!いかんいかん、落ち着け、俺!
「……はい。ありがとう……」
「途中で礼はいらん。集中して休め」
ちくしょー。
息を整えるために、スーハースーハーと深呼吸しながらトントントンと足踏みをし、心臓の負担を減らす。
ふぅー。
この身体すごいな。もう息が整ってきた。
さすが犬神様のご加護だ。
もう一度すーはーと大きく深呼吸をして次に備えて心の準備をした。
「よし、では腕立て伏せ50回、はじめ!」
ちょぉっ!?なにげに増えてるぞ!?
ちくしょー!
もう何も言うまい!
黙って腕立て伏せをした。
あ、体重軽いから、結構楽勝だ。
今回はそう息も切れずに意外とすんなり終わった。
「ふぅー、おわりました」
立ち上がり、昔のように、手を後ろに組んで胸を張り報告した。
「……アール、お前は確か5歳だと聞いているが?」
「はい、そのとーりです」
「誰かに師事したことは?」
「マジュツはタリルせんせーにおしえてもらってます。あとはおとーさま、おかーさま、リリスくらいです」
「体力作りも剣術も誰にも教わってない?」
「はい」
「おかしな事だな?では何故腕立て伏せのやり方も息の整え方も熟練の兵士のようなんだ?」
やべっ!つい訓練時代を思い出して本気でやってたわ!
うわーなんかこいつ、見透かされてるみたいで怖いんですけど。どんどん墓穴を掘ってる気がする!
──エル!ヘルプミー!
──本で読んだ事にして。確かお父さんの本の中に『体力をつけるには ~初心者編~』の上下巻があった!
「それは……ホンでよみました!」
「本?」
「はい!とーさまのほんのなかに、『体力をつけるには ~』のホンがあったので!それをまねてみました」
──おい!なんか余計怪しくないか!?本みて真似るだけで出来るもんじゃないぞ!?
──そうかもしれないけど、この人アールの事を直接は知らないからさ!神童と呼ばれてるんだよ?そんなものかって思ってくれるかも!
「…………信じ難いがそういう事にしておいてやろう。オレはまだお前の事を知らんからな。……まぁいい。場所をかえよう」
そう言って踵を返し、馬小屋までてくてく歩いて行った。
──納得はしてないみたいだけど、とりあえずヨシとするか。
──なんかこの人鋭いよね?野生の勘?
──魔術は地球での経験なくて、本当に初めてだったから疑われなかったのかもな。体力作りなんて俺には日課だったからなぁ~
「馬に乗ったことは?」
こぶりの馬を俺にあてがいながら聞いてきた。
「あります」
昨日初めて乗っただけだけどな。
ナルコスがひらっと馬にのり、
「では、ついて来い」
と、言った。
「はい」
俺もひらりと馬に乗った。
うーん、なんか、デジャブ何ですけど。
これって昨日と同じコースを辿って行ってるよな?
つまり、あそこの広場に行くんじゃなかろうか?
昨日はポクポクのんびりだったが、今日はパカランパカランと速足だった。
あっという間に広場に着いた。
「降りろ」
言われるままに降りて、馬を木に繋いだ。よしよしと馬を撫でてやる。
ん?
ふと草陰を見ると、丸い石が落ちていた。
ア、コレ、ミタコト、アル。
ガサガサガサガサガサガサ
ア、コレ、キイタコト、アル。
──なんか音がするんですけど?すっごくデジャヴなんですけどー?
──ウン、ソウデスネ
めっちゃ気になるんですけど!!!!
これはもう確かめるしかない。
「あの!……もれそうなので、むこうでしてきていいですか?」
もじもじして聞いた。
漏らすぞ!いいのか!?
目に力を込めて訴えた!
ダメとは言うまい!?
──やだぁ!もう!他にもっといい言い訳考えなさいよ!
エルの声が頭に響いた。
ガサガサガサガサ♪
何が出るかな?何がでるかな?
ガンバレーマルエルー