第48話 魔木
アールに悪気はないの。
楽しく楽に生きたいだけなの。気持ち悪いのを排除しようとしただけなんだ。
がんばれーマルエルー。
美少女の膝枕……モフモフのモフモフモフ……普通に癒されるわ。
アールはゆっくりと手から魔力を流した。
……どれどれ……あ……結構、深い…………は!?いやいやいや、深い深い深い!深すぎる!てか、長い!デカい!どんどん大きくなる!何これ!?
──ちょお、エル!なんかこれ、変じゃない…………か…………?
──ええ?何これ……?何かに……繋がってる……?ん…………ちょっと…………マル…………おかしいよ……
「タリルせんせー…………」
思わず助けを求めた。
二人を教えていたタリルが、ハッとしたように慌ててアールの側に来た。ミーサーちゃんもとことことこちらに寄ってきた。
「はい、どうしました?」
「タリルせんせー……これ……てが、はなれません……」
そう、手が吸い付いたように離れないのだ!
何かが吸いとられるていくようで……なんか……さっきからクラクラする……
「!!それは!?ミー!サー!下がりなさい!!アール様、頭を向こうに向けて!」
バッとタリルがタクトを振り上げた。
『燃えさかる…………』
詠唱をはじめた!?
え、何?何が起こってるんだ!?
タリルってば何する気だ!?
「タリルせんせー……?」
ブワッとタリルのタクトが赤く光った。振り下ろすと同時に、
『フラマロー!』
バシュッっとタクトの先からでっかい火の塊が現れた瞬間、それが細く矢のような形になり若木に向かいゴォーっと音をたてながら飛んでいった。
「うわぁっ!!」
若木はブワッと炎をあげ、燃えた。
握っていた手に熱が伝わる!!
「━━━いっ!?」
燃える!!燃えてしまう!!
──きゃーーーー!!
──うぉーーーー!?やべぇ!!
『アイスムールス!』
タリルの声が響いた。
と、カチンと目の前に炎を隔てるように壁が出来た。
握っていた手も同時に氷った。
──あ、熱くない。え?でも……これ……凍傷ならないか?
──…………冷たくはないよね?
──そういえば……確かに。え?感覚死んだ?
「アール様!こちらへ!」
さぁーっと氷が霧散したと思ったら、グンッとタリルに身体を引かれた。
べりっと音がして、燃えかすのような若木から手が離れた。
……うわぁ……目が……回るぅ~~~!
「アール様、大丈夫ですか?」
「「アール!」」
三人とも、青い顔でアールを心配そうに見た。
タリルはそのままアールを抱え、大木の根本に運び、てきぱきと二人に指示を出した。
「サティアス、ここに座って。アール様、頭をここに乗せてください……そうです。ミティアスはここに手を置いて」
サーちゃんがアールの頭を膝にのせ、額に手を置いた。ミーちゃんがお腹に手を当てた。
「二人とも……先程教えたとおり魔力は扱えますね?」
「「はい」」
二人がこくりと頷いた。
ぼんやりした頭でタリルを見た。
タリルは先程の若木の方に行き、タクトを若木の根本へ向け、また何やら詠唱を唱えると、タクトの先から真っ赤な炎が表れた。
続けて何やらまた詠唱を唱えた!
すると、真っ赤な炎を包むように眩いばかりの白い光が表れ、渦巻きのような、蛇のような形をかたどった。
『デフラーグ』
そう言ったとたんに渦巻きの光が真っ黒な若木を包み、蛇のように土の中に潜っていった。
「……なに……?あれ……」
ズオーンッ!グラグラッグラーーー!
地響きのように地面が揺れ、土の中で何かが爆発したようにヌォーーーッと盛り上がった!
そのてっぺんから噴水のように光が飛び出し、当たり一面に散っていった!
「きゃ!」「ひゃっ!」「ぴよ!」
サーちゃんが頭に抱きついた!
ミーちゃんがお腹に抱きついた!
モフが上から落ちてきた。
ズゴゴゴゴゴォ…………
盛り上がっていた土が音をたてて元の高さに戻っていった……
「………………ミーちゃん、サーちゃん、だいじょーぶ?」
──……ほんとに何だったの?今の……
──わからん……でも、楽になったぜ
──そうだね……マル、代わる?
──……いや、やったの俺だし
「大丈夫!」「アールは?」
「うん、らくになったよ。ありがとう、ミーちゃんサーちゃん」
「アール様、起きられますか?」
そう言い、タリルがアールの側に来て背中を支えるように起こした。
……うん、すっかり動けるようになってる。ほんとに何だったのだろうか?
「はい、だいじょーぶです。ハイ、タリルせんせー!」
分からない事は聞く。これ5歳児の基本だ。
元気よく手をあげた。
「はい、アール様」
タリルがちょっと苦が笑いしながら言った。
「いまのは、なんだったのですか?」
「はい。アレは“ピーラカンサ”という魔木の一つです。近くの魔力を集め、成長するのですが……まさかこの広場に生えるとは……ピーラカンサはもっと魔力の濃いところでしか育たないはずなのです。地上では1メートル程にしかなりませんが、地中では数十倍になるとも言われています……が、そうなるには100年はかかる、のですが……」
「へー。じゃあ100ねんまえからあったのかな?すごくおおきかったです」
「……それはあり得ません。ここにそこまでの魔力は……それにそうであれば私がもっと以前に気づいていたはずです……そうか……」
タリルがじっとアールを見つめた。
「おそらくですが……。先日からここに沢山の魔力が注がれています。まずアール様の土魔法に風魔法、続いて私の再生魔法。これらがピーラカンサに影響を与えたのかもしれませんね。そして今、アール様が触られた事により、直接魔力を奪い、急速に成長したものと思われます」
「なーるほど……」
──ちょっとぉ、なによぉ、結局マルのせいじゃない。やだもう!またやっちゃったわよ
──え?俺は、ほんのちょびっと極少々だけ魔力探査しただけ。抜けないから、どんだけ大きいのかなって……
──でもそれがダメだったんでしょ?
──元はと言えばモフが変な木があるっていうから……あれ?モフは?
キョロキョロと辺りを探した。さっきまで側にいたはず……いた。
「モフ~~~!」
「良かったな!気持ち悪いのが無くなった!」
「それはそうだけど。どーしてボクにやらせたの?」
「ん?ピヨは放置でも良かったぴよ。でもアールは嫌かと思ったからぴよ!」
「???ほうち?」
「アール様。魔木は地上で1メートル以上になり力をつけると実をつける為に魔力を持つ者を襲います。それがエルフの可能性も……モフさんほどであれば返り討ちになさるでしょうし、問題ないかもしれませんが」
「────なるほどぉ……」
──こわっ!!魔木こわっ!!
──うーん、やっぱり“魔”がつくものは何でも怖い世界だなぁ!まぁモフなりに気を使ってくれたってことか
「そっか、ありがと、モフ」
ぎゅっと抱きしめ……モフモフ……気持ちいい……。
「アレの実は旨いぞ!今度魔境の森に行ったら食べてみるといいぴよ!」
「へーそうなんだ。タリルせんせーこんど……」
「絶対駄目です!」
「アール、駄目!!」
「絶対ー!」
矢継ぎ早にすごい勢いで3人から止められた。
「……え?」
「アレの実は真っ赤で甘い香りを放ち一見食べられそうですが、猛毒です。一つ口にしただけで死に至る事もあります。しかもヒーリングもタトヒールも効かず、余計に悪化させるのです。絶対食べては駄目です!よろしいですね?」
タリルが真剣な顔で迫り、がっしりと肩をもち、そう言った。
後ろでミーサーちゃんがウンウンと、激しく上下に首を動かしている。
「……はい。たべません」
こくりと頷いた。
──ねぇ、モフってナチュラルにアールを殺しにかかってない?麻薬といい、二度目なんですけど?恐ろしい子……
──うーん、自分が食べられるものはアールでも食べられるって思うのかねぇ……モフの“旨いぞ”は信用しないことだな
──そうね、毒味役には向いてない鳥だわね
「モフも、もうたべちゃだめだよ」
麻薬花に続いて毒の実……悪食にも程がある。
世の中にはもっと旨いものが一杯あるんだ。コンソメとかクッキーとかもっと他にも沢山。
モフにはちゃんとしたものを食べさせてあげたい。
「びよ!?旨いのに!?」
目がびよーんって離れて変な顔になった。ぷぷっオモロ!
「うん。プリンのほうがおいしいよ。かえったら、おおきいプリンつくってもらおうね」
「プリン……あれは旨いぴよ!」
とたんにご機嫌になったモフを撫でながら思った。
もしかして、モフってとんでもない精霊……?
タリルの口ぶりから、今更ながら普通の精霊では無いような気がしたアールだった……。
知らないこと一杯。
プリン最強説勃発中。




