第37話 大人ってめんどくさい
モフのモフモフとミーサーちゃんのふわふわが癒しです(*´ー`*)
おとーさんが帰って来るのが待ち遠しいような怖いような……
がんばれ~マルエルミーサー!
しーんと部屋が静まり返ってしまった。
ミーサーちゃんの心臓の音が、聞こえそうなくらいドキドキしている。
黙ってテーブルを見ていたミーちゃんがふと顔を上げてタリルを見た。
『……ごめんなさい。騙すつもりはありませんでした』
ペコリと頭を下げた。
『あの時はとにかく怖くて、ハーピーって分かったら、捕まえられるんじゃないかって……どんな種族でもいいってなってたから、あたしたちの村を襲ったリザードマンや人族も、もしかしたら領に入ってるんじゃないかって思ったんです』
サーちゃんが頭を下げた。
「タリルせんせー!!ミーサーちゃんはっ」
「アール様、お静かに願います」
クッと有無を言わさぬ視線で遮られた。
「……でも!」
思わず立ち上がろうとした。
「アール、今タリルは二人の話を聞いているんだろう。お前は座っていろ」
グッとナルコスに肩を抑えられた。
ギッとナルコスを睨んだ。
──もう!何なのよ、この二人!腹立つ!
──落ち着けエル、まだ何もしてないぞ。話を聞いてるだけだ
──そうだけど、タリル先生のあの威圧感は何なの?怖いわよ!
──ああ、そうだな。だけどお前が怒鳴ったところでタリルには効果ないぞ?何も変わらない。今は成り行きを見守ろう
──そんなこと……分かってるわよ!
苛立ち紛れにドンッと椅子に乱暴に座った。
『嘘はダメってわかってたけど……』
『私がサーちゃんに言いました。秘密ごっこしようって……誰かが気づくまで、ハーフエルフのふりをしようって』
二人が当時の事を思い出したのか、俯きながらゆっくりそう言った。
「お二人に悪気が無いことは、先ほどのアール様との会話から存じております」
タリルがこくりと頷いた。
「そーですよ!ミーサーちゃんは、なにもわるくないです!」
黙ってなんていられない!私が守らないと!
ミーサーちゃんは何も言えないで震えてるんだよ?
「……アール様、悪気があるかないかと言うのではなく、入領審査の際、規定の項目にあるのですよ【虚偽の申告をした場合、領地から追放とする】という項目がね」
────うそでしょう…………?
「……それは…………でも……」
全然知らなかった。
……それは……そうか。
申請書類に嘘を書かれては、受け入れられないのはわかる。詐欺のし放題って事になってしまう。
そういう悪い人もいるかもしれないのだから。だけど……
「それは、あくいのあるウソでしょ?ミーサーちゃんのはしかたなかったんです!」
「……アール様、嘘というものは、ほとんどの場合、仕方なくつくものですよ。ですので、それがどんなものであれ、【虚偽の申告】に対しては一律領外追放となるんです。入領の際の規定すら守らせられないような領では、困りますからね」
ミーちゃんとサーちゃんが真っ青な顔になって一言もしゃべらない。
かわいそうに……。
守ってあげようって誓ったばかりなのに、もう出来なくなってしまう!
「──おかしいです!!そんなのおかしい!」
バンッとテーブルを叩き、タリルに食ってかかった!
ググッと痛くなるほど拳を握りしめた。
──どうして!?領民を守るために規定があるんでしょう?そりゃミーサーちゃんが間違ってたかもしれないけど……たった5歳かそこらの傷ついた子どもだよ!?怖かっただけじゃない!!
──ああ、そうだよな。その通りだ!……でもなエル、タリルは間違った事は言ってないんだよ
──うるさいよ、マル!なんでマルはそんなに冷静なのよ!?そんな子どもも守れないような規定なんて、丸めてどぶに捨てたらいいのよ!!
──エル、ちょっと替われ
──は?なんでよ!
──いいから、お前は少し休め
ぐわっと文句を言うエルを押し退けた。
ぎゅっと強く目をつむり、スーハーと深呼吸をして、そっと目を開けた。
ゆっくりと手を開き、赤くなった掌から痛みが伝わるのを感じた。
よし、大丈夫、アールは俺だ!
「タリルせんせー!」
バッと手を挙げた。
「──……はい、アール様……どうぞ……」
突然の挙手に戸惑いながらも、いつものように許可を出した。
「タリルせんせーが、ミーサーちゃんのみもとほしょーにんになってください」
タリルは法律の事を言ってるのだ。
ならばその規定に則り、出来ることをしていくしかない。
これだけ多種族の者たちが領で生活していくには、おそらく厳しい領律があるんだろう。
俺は公務員だったから、そういう超面倒臭い規定があるだろう事は想像できる。
……エルは、ある意味箱入り娘だ。
オタクだったし、世間から距離をおいていた。リケジョを突っ走り、一流会社の研究員になったエルは、世間擦れしていない。
頭は良く勉強は出来たけど、どこか浮き世離れしていた。同世代の友達は少なく、好きなものに囲まれ、見たいものだけ見て大人になった。いわば純粋培養された善玉菌みたいなもんだな。
それで良いと思っていた。
エルを傷つける者から出来る限り俺が守っていたんだから。
……エルは引きこもりピュアだもんなぁ……ここはマルさんの出番だろ
「────私が……身元保証人、ですか?」
タリルがすごく意外な事を言われた、というような顔で目を丸くしていた。
「そーです。ちゃんとおはなしはきいてたんでしょ?だったらミーサーちゃんがわるいこじゃないってわかってるはずですよね?」
畳み掛けるように言う。
「ええ、それはそう思いましたが……。ですが私はお二人の言っている事が全て本当だとの確証は得られていません」
今話している相手がだんだん変なものに変わっていっているような、そんな者を見るようにアールから目を逸らさない。
確証がない?それはそうだろう、アールだって二人から聞いただけだ。
「ふたりがウソつくわけないとおもいます。あんなウソ、いみないので」
それでもパスで繋がった時のあの心の叫びに、偽りは無かった。
ミーサーちゃんが嘘をついているとは到底思えない。
「それは……分かりかねますね……」
まだ見つめられている。
何かを試すようなその視線に対抗心が芽生えてきた。
ほんと、この人も疑り深いよな……。
エルが切れるのはわかるけど……。
「だったらボクがほしょーにんになります!ボクはミーサーちゃんをしんじます。ミーサーちゃんがなにかわるいことしたら、ボクがバツをうけるよ!」
未成年が保証人になれないだろうことは百も承知だ。でも、そうでも言わなけりゃ考えてももらえないかもしれない。
子どもの戯言で終わらせたくはない。
「ミーサーちゃんをしんようしなくてもいいです。でも、タリルせんせーは、りょーしゅのむすこもしんようできませんか?」
威圧を込め、脅すようにそう言った。
アールは正真正銘領主の子どもだ。
雇われてる者の立場からみたら、いくら子どもでも、アールを軽くみることは出来ないだろう。
タリルは古いエルフなんだから、余計に……。
「……アール様」
じっと見ていた目がゆらっと揺れたかと思うと、すっと下を向いた。
困ったように、頭に手をやり、ふーっとため息をついた。
前世の職場でも“この手間いらなくない?もっと臨機応変にいこう”と訴えても、なかなか煩雑な手続きで思うように事が運ばなかったことが多々あった。
めんどくさかったよな……ほんと……。
そんなつまらない規制で、助けられる者も助けられない、そんな事態は消防時代での経験でもう十分だ。
「……とにかく今は御領主様が帰られるのをお待ち致しましょう。私からも口添えしておきます。どうなさるかは……御領主様次第です」
しばらく目をつむっていたが、何かを決めたかのようにこちらを向いてそう言った。
「……わかりました」
これ以上話しても埒があかない。
しばらく無言で、タリルと見つめあった。
お互いに譲れない何かがあった。
だが、根負けしたのか、ふっと気が抜けたようにタリルの方から視線を逸らせ、大きく深呼吸をしてからミーサーちゃんの方を向いた。
「ミーちゃんさん、サーちゃんさん、事実確認だけさせていただきますね。ミーちゃんさんはミティアス・キュアノエイデス、サーちゃんさんはサティアス・キュアノエイデス。お二人は滅んだハーピー族エイデス領の領主キルリアン・キュアノエイデスの双子のご息女で間違いないですか?」
──へ?
「はい」
「そうです」
──ええ、マジで!?領主の娘だったの!?
「ではお二人の証言を元に、エイデス領消失事件の事実確認をしていきます。こちらも領主案件となりますので、しばらくお二人を監視下に置かせていただきます」
「はい」
「わかりました」
──おい!エル!この二人って……
──うん、なんか色々聞きたい事だらけだよね
──ああ、後で聞くか。なぁ、監視下って事は誰か見張りがつくって事だろ?じゃあいっそここに居ればいいんじゃねぇ?
──そうだよ!ミーサーちゃんだってその方が安心だよ!
「はい、タリルせんせー!」
挙手!
「…………はい……アール様……どうぞ」
またか、って珍しくちょっと嫌そうな顔をした。
「ふたりはここにいればいーとおもいます!ボクがかんしします。ボクはりょーしゅだいこうなので!」
ドヤ顔で訴えた。
「………………アール様……わかりました……。ナルコス先生、ご協力願えますか?」
諦めたようにナルコスに向かってそう言った。
「オレは何をすればいい?」
黙って事の成り行きを見ていたナルコスだったが、流石にここで知らんぷりは出来ないだろう。
「この二人……いえ、三人プラス一匹の監視と保護をお願いしたい」
ん?三人って、アールも含まれてる?一匹……モフか……別に俺たちはミーサーちゃんの逃走を手伝ったりはしないぞ?
「……わかった」
チラッとこちら(主にアール)を見て頷いた。
わかるのかよ。
何?そのなんかやらかすだろうっていう疑いの目は?
まぁ保護が目的……と思っておいてやろう。
──おい、ナルコスも泊まるみたいだぞ。ふふん、いいねぇ~大歓迎だ。なぁ、エル
──ええ……そうね……
──……エル?
「アール様もそれでよろしいか?」
「はい。だいじょーぶです。ほごかつどーよろしくおねがいします!ナルコスせんせー」
「保護活動って……なんだそれは……アール、お前な……」
ナルコスが拍子抜けして呆れたように言った。
「では、もう一度下で打ち合わせいたしましょう。いったん下がらせて頂きます。行きましょうかナルコス先生」
サッと立ち上がり、少し頭を下げ、退出の挨拶をして部屋から出ていった。
黙ってその背を見送っていると
「アール」
ナルコスが話しかけてきた。
「……はい……」
「タリルはああ言っているが悪いようにはしないと思うぞ」
「え?」
……ほんとかよ?
「お前の言っていることは十分理解していると思う……さっき応接室で突然泣き出した。お前たちと同調したんだろう。止めようにも止まらない、そんな感じだった」
「……そーなんですか?」
……やっぱりそうだったんだ。
「ああ。オレはパスが繋がってないからわからんが、タリルはお前たちの気持ちも本心も分かってるんだろう?……あいつがお前に軽蔑されるような行動をとるとは思えん」
ナルコスが決定事項のようにそう言った。
「……だといーんだけど。でもボク、きらわれたかも。おどすみたいなこといっちゃったし」
「それは無いだろう。あいつは頭の良いやつが好きだ……まぁ、お前は頭が良すぎて、5歳児とは思えないがな……」
チロッと俺を見て確信したように言われた。
「……タリルはお前の将来を見たいと言っていた。……オレも見てみたい。あの子たちと関わり、お前がどう成長していくのか。この先どうなるのか……面白そうだ」
ニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「へへ……てれますね」
まぁな、俺もどうなるのか……なんせエルと、二人でアールだもんな……予想がつかんわい。
「お前は貴族の子にしてはずいぶんマシだ。色々な意味で規格外で……まぁ……さすがアリステアの子だけはある」
スッとナルコスが立ち上がった。
──え?今、父さんを呼び捨てにした?
「あいつもお前と同じに頑固で無茶振りする奴だが、理不尽ではないさ。領主として、お前の父親として信用してやれ」
それだけ言うと踵を返し、また後でと軽く手を上げて行ってしまった。
──……なんか……また色々起こったな……
──うん……情報が多過ぎて……5歳児の脳ミソでは処理しきれない……ぐわんぐわんする……
「アールー」
「大丈夫?」
人形のように動かず静かに息を殺していた二人が、ダーッと走って寄ってきた。
「ミーちゃん、サーちゃん……あまりだいじょぶくないっぽい」
俺もエルも疲れた……。アールのキャパの限界だ……。今日は色々あり過ぎなのだ。
ごろんとお花畑に転がった。
ああ、いい匂いがする……。
お昼寝したのに、また眠くなってきた。
「……ふたりとも……おひるねごっこしよう……」
ポンポンと両隣に寝転ぶように地面を叩いた。
コロンと右にミーちゃんが、左にサーちゃんが転がり、くっついてきた。
ふわっと真っ白の羽が身体を覆うように両サイドから掛けられた。
ボフンと頭の上にも柔らかな感触がした。
「……モフ……」
どこからともなく現れたモフのモフモフだった。
「……ピヨも寝る」
くるんと、まるでおおきな毛糸玉みたいに丸くなってぴったり頭にくっついてきた。
「ふふ……あったかいな……」
二人のやわらかな羽毛と、モフのモフモフの何かで、身体がポカポカしてきた。
「アールー」
「ありがと」
きゅっと抱きつく二人も安心したように目をつむった。
──両手に花だな……いや、両手と頭に鳥か?これ……めっちゃ気持ちいい……
──うん……最高級の羽毛布団みたい……
花のいい香りと、ポカポカのふわふわに包まれ、ささくれた心もだんだん癒されていくのを感じた。
あっという間に睡魔に襲われ、三人と一匹、仲良く静かに眠った……
ナルコス泊まるってよ!( ̄▽ ̄)ふふふふふ。
何を仕掛けようか考え中。




