第22話 暇だから健康診断
新しい魔法を開発して浮かれ気味のマルエルです
(*´∀`)♪
色んなことをやってみたいお年頃なので、これからも何かしら開発していこうかなー。
馬車の中のお話。
ガタゴトガタゴト……
やっぱり馬車はよく揺れる。
同じ道を帰っていってるのだから当たり前だった。
だがしかし!
俺は学習したのだ。
馬車に乗り込む前に自分にキュアリングをかけた。酔い止めとしてだ。
これが効を奏して酔ってないんだな!
素晴らしい!
ただ……モフも居ないし暇だな…。
モフは馬に乗りに行ってしまった。俺も行きたかった。
タリルもナルコスも物思いに耽っているようで、何も話そうとしない。
──エル、暇なんだけど
──そうね。しりとりでもする?
──でた、究極の暇潰しだ。もっとこう……何かないか?
──何かと言われてもねぇ。新しい魔術でも考える?
──そうだな……俺としては……
「アール様」
タリルが突然声をかけた。
「はい!?」
思わずビクッとしてしまった。物思いに耽っているとばかり思っていたが。
「アール様のキュアリングのやり方を私に伝授していただいてよろしいでしょうか?」
どうやら新しい魔法のことを考えていたようだった。
「それは……えーと、まだみかんせーなので……」
そうなのだ。
タリルが実験体になってくれたけど、結果がまだ分からない。
こんな中途半端で人に教えるなんてしていいものだろうか?
──ダメだよ。結果がわかんないんだもん。まだダメ
──おう、お前がそう言うならやめとくか。あ、でも酔い止めは効いてるぞ?こっちを教えればいいんじゃないか?やり方は同じだし
──そうね命に関わる訳じゃないから……いいわ!
「ボクがタリルせんせーにやったのはおしえられません!でも、さっきじぶんにかけたキュアリングはおしえられます!」
自分にかけるキュアリングならいいだろう。
「はい、ありがとうございます。充分にございます」
ホッとしたようににっこり笑って頭を下げた。
こほんと咳払いをした。
「では、とくべつじゅぎょーです!」
タリルの真似だ。
「はい」
タリルが面白そうに背筋を伸ばした。
ナルコスも興味深そうに様子を見ている。
「ボクはいきのばしゃでよってしまいました。なので、かえりはよいたくありませんでした。そこで!」
パンと、思い付いた!とばかりに両手を合わせた。
「じぶんにキュアリングをかけることにしました。なぜヒーリングじゃなくてキュアリングかというと……なぜだとおもいますか?タリルせんせー?」
「……ヒーリングは外から治療するもので、キュアリングは自身の自然治癒力を利用するものだから、ですか?」
おお!さすがタリルだ!よく覚えている。
「はい!そのとおりです!ボクのかんがえたキュアリングは、よぼうにもむいているんです。もちろんちりょーにもなるんですが、それならヒーリングでもかまわないでしょ?」
それにヒーリングは即効性でキュアリングは遅効性という特徴もある。対処法はヒーリングに任せて、予防やリハビリや体質改善はキュアリングになるのだろう。
「ええ、そうですね。慣れていますし、使い勝手が悪い訳ではないので……」
ふむ、と顎に手を当てた。
「でも、のりものよいとかはヒーリングでなおしても、またよったりしますよね?そういうときにやくだつのがキュアリングです!」
えへん!と腰に手を当て、胸を張った。
「なるほど、なるほど」
感心したように笑いながら頷いた。
「それで、ぐたいてきにはですね、こう“なおれ~”っていうきもちをかためて、まりょくのながれのうえにのせておくんです。ゆっくりとけだすようにして……」
身ぶり手振りで説明するがうまく伝えられているのだろうか?
「…………なるほど……」
うーん?って顔をしている。
あれ?これ、うまく伝わってないよね?
うーん、どうしようかな。
アールだとうまく説明するのが難しいんだよな。だって5歳なんだもん。
人体模型でもあればいいんだけど……絵でも描くか?
「えっと……いきものは、ちがながれてますよね?その、ちのながれにそって、まりょくもながれてるでしょう?」
これはタリルの魔力をじっくり探った時に確認している。
「魔力が血に沿って流れている……ですか」
真剣な顔をした。
「はい、ですので、そのながれにのせたら、かってに“なおれ~”がながれていくのでムリにめぐらせなくてもダイジョーブです」
畳み掛けるように続けた。
「それでのりものにようのは、みみのおくがげんいんなので、みみのおくにまりょくのかたまりをおく、つまりキュアリングするといいんですよ!そしたらジブンのながれでかってにそこでぐるぐるまわるので」
どう?とドヤ顔をした。
酔うのは三半規管が誤作動するからだからな。
つまり、キュアリングとは“治れ~”って気持ちの魔力の塊を、適切な場所に置くことだ。
わかってくれたかな?
「なるほど、つまり患部のそばで継続的に魔力を少しずつ勝手に巡らせる訳ですね。素晴らしいです。アール様!」
タリルがパチパチパチと拍手してくれた。
「ありがとーございます!」
んふふ!どうだ?
「……お前はやけに人の体に詳しいな。酔う原因が耳の奥にあるなんぞ、初めて聞いたぞ?どこでそんな知識を身に付けたんだ?」
横からナルコスがいらない突っ込みをしてきた!
げげげ!ヤバい!調子のりすぎたか?黙って見てると思いきや、ここで突っ込んできた!
いやいや、慌てるなよ、俺!
やはりここは、
「はい!ほんです!」
ふはははは!いつもの奥の手だ!
「……また本か。ぜひ俺にもその本を貸してくれ。今から、邸に戻った、その足で、すぐに」
一言一言切るように、念を押し、言われた。
ずいっと圧迫するように鋭い目で見られた。
前から疑われてるのに、拍車をかけてしまったらしい。
ヤバいよヤバいよ!
──どうするよ?エル……
──ほんとこの人、野生動物みたいに勘が鋭いのよね。そうね……あ、本って高いんじゃないかな?簡単には貸せない、エルフリッドの財産だからって断るのはどうだろう?
「はい!ホンはたかいのでかせません!」
腕でバッテンを作って貸し出しを拒否した。
「では見せてくれ。タリルも見たいだろう。丁度いい」
言うと思ったとニヤリと笑いながら迫ってきた。
ぎゃあ──まずい!これはまずい!
そんな本、有る訳ないじゃないか!
エル──!良い言い訳を──!!
──マル、交代
「……エルフリッドけのたいせつなほんですので、ほかのひとにはみせられません!もんがいふしゅつ(門外不出)の、きしょうぼん(希少本)なのでありまーす!」
ブッブーと大きくバッテンをする。絶対見せないよ?だってそんな物、はなから無いんだからねっ!
「…………なかなかしぶといな……」
ボソッとナルコスが不穏な事を呟いた。
「……しぶとい……?」
ナルコスが何かを暴こうとしている!?
──なんか、やっぱりこの人苦手だよ~嫌いとかじゃなくて……その内バレそうで怖いのよね
──まぁバレてもな~、荒唐無稽だし?信じるか信じないかはあなた次第です!
──ぷぷ、そっか、そうだね。私たちは私たちだもんね!二人でアールなんだから
そうだわ、そういえば
「ナルコスせんせーはどこかわるいところはないんですか?」
タリル先生だけ健康診断しちゃったし、ナルコスもしてあげないと不公平よね。
ぶっちゃけ馬車の中は暇で、マルが退屈しているからね!暇潰しに診てあげよう!
「いや……たぶん無いと思うが」
「みてあげましょーか?ボクはちいさなせんせーですので!」
トンとナルコスの膝に手を置いて、むにっと迫った。
「……いや……結構」
ナルコスが断ろうとしたが、被せるようにタリルが割って入ってきた。
「診ていただくといいですよ、ナルコス先生。アール様のお勉強にもなりますしね。あなたも教師なのですから、生徒の成長には力を貸すべきです。……ここはアール様のご好意に甘えるのがよろしいかと」
にこりと口だけ笑った。
なるほどぉ~お前も実験体になれと、暗にほのめかしているのね。
タリル先生ってばやっぱりマッドサイエンティストかも?
かわいい生徒の為なら周りをいくらでも利用する気なのね。
流石タリル先生だわ!うんうん!
──マル!交代しよう
──え?他人にやるキュアリングは教えないんじゃなかったのか?
──うん、だからマルがするんだよ。タリル先生に教える気は無いけど……タリル先生ならさっきの耳の説明だけで、答えにたどり着くかもだけどね
「ではナルコスせんせー!てをだしてください!」
ナルコスが黙って両手を出してきた。
その手を握り、魔力を巡らせた。
だが、ナルコスには魔力があまり無いからだろうか?タリルの時よりはっきりとは流れが見えない。
「うーん……」
一度手を離し考えた。
「せんせーはヒーリングしてもらう時ってどうしてますか?」
「俺はあまりヒーリングはかけてもらわないな。ポーションで賄ってる」
あ、ほんとの薬か!
なるほど、え?だったらますます血流でいいんじゃないか?薬か効くのだってそういうことだろう?
──エル、こういう場合、血管に魔力通すのでどうだろう?
──そうね、いいと思う。タリル先生タイプには同じ魔流で。ナルコスタイプには血流で。でも、こんなにも人によって違うものなのね
──そうだな。魔法ったって何でもかんでも出来る訳じゃ無いってことだ。こっちにはこっちの理があるんだな。よし、じゃあやってみるぞ!
「わかりました!」
もう一度手を握り直した。今度は血液の流れに沿って魔力を流す。
──おお!見えた。んーでも特に無いな。さすが若者だな。つまらん
──うーん、あ、でも、膝の辺りがもやっとしてない?右だけ……ぐるぐるではないけど
──確かになんとなくだけどモヤッとしてる
「せんせーは、ひざにおおきなけがしましたか?」
慢性的な病気の気配はしない。
だけどモヤが、強くモヤッとしたり、弱くモヤッとしたりと、波があるのだ。
たぶん長引いてる怪我かなんかじゃなかろうか?あるいは毒か?
「!よくわかったな。だがもう1月も前だぞ。一応治ってるはずだが……」
少しいい淀んだ。
やっぱり痛いとかでは無いんだろうけど、違和感はあるわけだ。
「どうもひきずってるかんじかします。ボクにまかせてください。キュアリングのみせどころですね」
よし!
ナルコスにも俺のキュアリングの有能さを思い知らせてあげよう。
「……ああ、よろしく……」
お?意外と素直じゃないか。いらないとか言いそうなのに。
未知の魔術をかけられるのが不安だったのか?ヒーリングよりもポーションを選ぶあたり、魔術にはあまり好意的ではないのかもしれない。
そうかそうか、よしよし、おじさんが優しくしてやるからな?
じわりと右の膝を撫でた。
──ちょっとマル!触り方がどこぞのセクハラオヤジみたいだよ!キモイ!
──意地悪されたから、ちょっとし返してやろうかと思ったんだよ!あ、でもアールにセクハラされたらご褒美か……
ぱっと手を離し、気合いを入れ直した。
「こほん。えーでは、いまからキュアリングします」
そう言って右膝にポンと手を置いた。
「キュアリング」
膝に流れる動脈の血管の上に“治れ~”の魔力の塊を置いた。
うまく魔力が血に溶けてくれるといいのだけど、魔力同士ではないからどうなるか?
こちらも要観察だな。
「きぶんはわるくないですか?」
額に手を当てて熱を測る。無い。
脈は……正常だな。呼吸も安定……と。
バイタルに異常なし!
「ナルコスせんせーもつぎのじゅぎょうのとき、またみせてください!ボクはちいさなおいしゃさんせんせーですから」
覗き込むように、にこりと笑いそう言った。
「……ああ、ありがとう」
ナルコスが気圧されたようにお礼を言った。
「どーいたしまして!」
うんうん、素直でよろしい!若者はそうでなくちゃね!
タリルがナルコスとのやりとりを面白そうに、ニコニコ笑って見ていた。
ちょこんと席に座り直し、ふーっと息を整えてから、窓から外を眺めた。
タリルもつかみどころが無い人だけど、悪い人ではないと思う。
この二人に秘密を話したらどうなるだろう?
父さんと母さん、それにリリスとバトラーは性別が変わるのは知っている。
でも前世の記憶があるとか、マルとエルでアールだとかは知らない。
別に言う必要がないし、いい男(女)には秘密があるものだからな?
そんな事を考えぼんやりと外を眺めていたら、いつの間にか町の中に入っていた。
なんのリスクもなしに万人に効くなんて、そんな都合のいい話なんてあるかーい!
人によって効きかたって違うよね?
魔法の世界には魔法の世界の理があるはず。きっと、たぶん。
だってそこで人が生きているんだからっ!
がんばれーマルエルー!




