第20話 ただの石じゃない
風魔法の検証中。
暴走しないでね、タリル先生!
ちょっとだけ悲しい気分になったマルエル……
佐藤さんって誰だっけ?(´・ω・`)?
ぼんやり空を見上げる。
空が青いなー雲が白いなー……
あーなんだか久しぶりにゆっくり空を見あげた気がする。
──空の色は地球と同じだなぁー……皆どうしてるんだろうな
──うん。私たち事故死だものね。急だったし、誰とも話せなかったしねぇ……ちゃんとお別れしたかったかな……
地球での出来事をいろいろと思いだし、胸の奥がチクリとした。
意識がどんどん遡り、丸留・恵留の時まで戻っていく……
アールとして生まれてから5年、まだ前世の方が歴史が長いせいか、多くの記憶は地球での事の方が多い。
──近藤さん、責任感じてないかねぇ。俺、殉職扱いだろうしな。俺の判断ミスだったんだけど、あの人の事だから、あーだこーだ落ち込んだんだろうな……
──私も最期、佐藤さんが止めるのを振り切って出て行っちゃったんだよね。“自分がちゃんと止めておけば”とか思ってないかな……
不思議なことに、マルにはマルの、エルにはエルの記憶があって、二人の記憶が交じることはない。
どうなってるんだろうか?
アールとしての“記憶”は全て共有している。
電源を切るようにしてラボに籠っている時の意識は別次元にいるのか、独立している。
でもアールとして戻った時に感覚とともに一緒に“記憶”として共有される。
だが、感情は別なのだ。共有した“記憶”を“知った”時に各々が感情を持つことになる。
同じ出来事を記憶するのに、共感することもあれば、正反対の感情を持つこともあるのだ。
──ほんと俺たちってどうなってるんだろうな
──わかんないよね……どうなってるかはわからないけど、私はマルが居てくれて良かったなーって思うんだけど
──うん、そうだな。……今はな~まだ5歳だしな~……ま、先の事はなるようになるさな。とりあえず、そろそろ残ったお仕事を片付けますか!
目をぎゅっと閉じ、過去からスライドするように意識を今に持ってくる。
パッと目をあけ覚醒させた。
「よし!」
パチンと両手で頬を叩き、気合いを入れた。
「モフ!おいで」
両手をパッと広げ、モフを呼んだ。
もふもふに癒されたい。
「なんだ!」
と言いながらテトテト寄ってきた。
ひょいっと抱き上げ、ぎゅっと抱きしめた。
「モフ~~」
ああ、ほんと癒される。
これも精霊パワーなのかな?
「クエッ!」
と変な声で鳴いた……
「アール様、そろそろ休憩も終わりにしましょうか?」
俺の雰囲気から察したのか、タリルがそう言ってきた。
「はい。もうダイジョーブです」
マスクをつけ直しつつ頷き、モフを頭に乗せて立ち上がった。
皆でテーブルの上をきれいにし、後片付けをした。持ってきていたものをバッグに詰め、トムソンに渡した。
ふと気づくと、タリルがニコニコとこちらを見ていた。
「?」
モフに手を添えて支えながら、小首を傾げた。
──何かな?タリル先生ってば妙ににこやかじゃない?
──そうだな。精霊に会えて嬉しいんじゃないか?
「ふふ。そうしていると、アール様とモフさんは、お人形さんがぬいぐるみを乗せているようですね!大変お可愛らしい」
ニコニコ顔はそっちの意味だった。
──ああ!アールとモフのコラボレーションが微笑ましかったんだな。なるほどなるほど。まぁ、普通はそうだよな
──そうね。かわいい×カワイイだもんね。可愛いが溢れてるのね
──まぁ、アールだからな。見とれるのも仕方ないか
「はい!モフはへんなかおするけど、カワイイです!」
にこにこと頭の上のモフを撫でた。
ふふん、謙遜という言葉くらい俺も知ってますよ?
自分が究極カワイイ事は知っているが、そんなことはおくびにも出さない。否定も肯定もしない。さらりと笑顔でかわすのだ。
そして、タリルの前ではエルキャラで通しておく。
エルと変わってもすぐまた変わることになるだろうから、俺がエルを演じることにした。あーややこしい。
──それにしてもタリルまでアールにやられるとはね……末恐ろしいよな
──そうだね~。ナルコスだけだよね~アールをかわいいって思わないの。きっと全部マルのせいね!うん
──なんでだろうな?俺はいつもこんなに愛くるしいのに
──え?ナルコスに対してはあまり愛くるしくは無いんじゃないかな?“生意気”ってポロっと本音はいてたし
──おかしいな?そこも含めてカワイイんじゃないのか?だってアールだぞ?
「アール様はほんとうに……では、ここは片付けてしまいましょうか。ディタッチ」
ザァーっとテーブルとイスを元の土に戻した。ほんと土魔法って便利だなー!始めに習っておいて正解だったよ。な!エル!
「ふぁーほんとにべんりですねー」
思った事がスルッと言葉に出た。
そうなのだ。やはり5歳児だからか、反射的に考えたことが口から出てしまう事が多い。
子どもだからか、考えると同時に行動してしまう。
やらかすのはコレが問題なんだと思う。
「そうですね。では次回は“生活向上土魔法”特集にしましょうか」
「はい!」
がんばれよ、エル!我らが生活をより豊かにより便利にするために!
──ハイハイ
──ハイ!は1回! はっきりと!
──ハイ!って、何でよ!
「では、ナルコス先生、アール様、先日の剣術の時に起こった出来事をお教え願えますか?」
にこっと笑って催促された。
思わずナルコスと顔を見合わせた。
まぁな。話を逸らせるとは思ってなかったよ。
ナルコスが黙って持ってきていた木剣を渡してきた。
やるのか?やっちゃうのか?出来るだろうか?
「……オレはアールに素振りをさせていた。アール、やってみろ」
「はい」
先日と同じように木剣を構え、意識を集中する。
空気抵抗を減らすため、真っ直ぐにシュッと振り上げ、さらに重力が乗るようにヒュン!と振り下ろした。
それを何度か繰り返した……
いつの間にか無心で振っていた。
ちょっと腕が疲れてきたころに、パン!とナルコスが手を打った。
「やめ!」
ハァハァと息が切れていた。マスクがつらいっ!単純作業を繰り返すうちに本気になってたみたいだ。
チラッとナルコスを見たら、満足そうに笑っていた。
コイツ……Sだ!俺が今日の筋トレ忘れてたからって……必要以上にやらせたな!?
ハァハァと息を整えているうちに、ナルコスが話を進めていた。
「アールは何だかごちゃごちゃ言っていたが、試したい事があると言い出した。オレは詳しい事は聞かずにとりあえず試させた。ちゃんと聞くべきだったと、指導者として反省している」
こちらを見て、続きを話すようにと視線で先を促してきた。
「ボクはチカラがたりないので、ケンがかるくなったらいいなとおもいました」
ブンっと剣を振り上げ、おろした。
「それで、このあいだタリルせんせーにおそわった、マリョクをめぐらせるやりかたをおもいだしました」
またブンっと剣を振り上げ、おろした。
「カラダにマリョクをめぐらせて、こんどはそれがケンにのるように……ケンがかるくなったらいいなって……かぜのようにきりさけって」
身体に集中する。中に暖かい何かが沸いているのが分かる。それを身体中に巡らせる。
昨日よりスムーズだった。
今は手に取るように流れがわかった。
それを木剣に乗せていく。
フライパン……
バッと振りかぶった。軽い!風が剣を巻くように流れた。
ヒュンッ!と振り下ろした!
ブワッっと風が起こり、ザアッと剣筋に添うように真っ直ぐ木に向かって草が割れていく!
パン!っと軽い音がして、木に風の塊のようなものがぶつかった。
木は少し揺れ、ハラリと一枚の葉を落とした。
──うん!いい感じに操れたぞ!暴走させた時の再現には程遠いけど、こんなもんだろ!
──うまいうまい!ほんと完璧に操れてるね!もっと強くしようとすると出来るの?
──ああ、多分。フライパンじゃなくて巨大ハンマーとか思い浮かべたら、スゴいのが出来そうだなー。どうなるか怖いからやらないけど
どや!?とナルコスとタリルを見た。
「…………あの……?」
二人ともアールを凝視していた。
ナルコスは、操れるなら、なぜ昨日暴走させた?という疑いの目で。
タリルは、教えてもいない風魔法を詠唱もなしで完璧に操った俺に、驚いているかのような目で。
──暴走させてもダメ、操ってもダメって……どうすりゃ良かったのかねぇ?
──……別に怒られてないよ?駄目って事じゃないんじゃない?
──そうかもだけど、無言で見つめられたら、やらかしたかな?って思うじゃん。何か言って欲しいよな~
しばし無言で見つめられた。
居心地悪いんですけど?
ふ、そんなに熱い目でじっと見つめてたら、お二人さんがアールに惚れたのかと思うぞ?
突然、パン!パン!パン!パン!とタリルが手を叩いた。
ビクッとした。
「素晴らしい!!素晴らしすぎますよ!アール様!!」
拍手をしながらゆっくり近づいてきた。
目は……あ、大丈夫っぽい。
真剣な目だが、冷静な部分が残っている?
いっちゃってる感じはしないな。
ナルコスも分かっているのか、遮るような事はしなかった。
「先日は木を倒す程の勢いで風魔法を放ったのですよね?でも今は完璧にコントロールしていたように思えますよ。アール様」
ニコッと笑って、見定めるような目で見てきた。
「カンペキ……かはわかりません!」
多分出来てると思うけどな。
「……そうですか……でも、きちんとコントロール出来ていましたよ?アール様は、1を教えれば10を知る、の手本のような方なのですね……素晴らしいです」
うんうん頷きつつ、ふうーと感慨深げにため息をはいた。
「今後はその事を念頭におきながら、お教えさせていただきますね……。ナルコス先生、後ほどお話があります。お時間いただけますか?」
ナルコスを振り返り、そう頼んだ。
「……ああ、承知した」
タリルの落ち着いた様子に何かを感じたのか、ナルコスが申し出を快諾した。
「さて!では広場の修復も終わりましたし、風魔法の検証も終わりました!そろそろお屋敷に戻りましょうか」
──なんだか拍子抜けだな。あっさり終わりそうだぞ?
──うん。もっとこう……しつこく根掘り葉掘り聞かれるのかと思ったわ……なんだか逆に怖い気がするのは、私だけでしょうか!?
──あー、うーん……ナルコスと話し合うみたいだし?何かしらやる気なのは確かだろうけどなぁ
「そうですね、かえりましょう!」
うん、面倒なことはいつものように大人に任せることにする。もしかしたら父さん案件になるかもしれないしな。ここで悩んでも仕方ない!
「モフ~かえるよ~!」
休憩が終わったら即効で石を探しに行ってしまったモフを呼んだ。
ガサガサバサッと何処からともなく現れたモフは、両手?に石を持っていた。
ピヨピヨ歌いながら嬉しそうに寄ってきた。
「コレ、いっぱい見つけた!」
抱えた石をぱぁっと見せてくれた。
「わー!すごいねぇ!」
先程の虹色に光る石はなかったが、それでも色とりどりの石がキレイだった。
「おお、これはまた質のいい魔石ですね!」
とタリルが言った。
「ませき?」
へーそんな物だったのか!ただのキレイな石じゃなかった!俺の拾った白い石はキレイなただの石だったけど……
「はい。これは魔石です。魔道具を動かしたり魔力を増幅させたり、色々な用途で使われていますよ。ナルコス先生の剣にも嵌めてあるのではないですか?」
ナルコスを見ながらそう言った。
「へー、そうなんですね!」
知らなかった。
「ナルコスせんせー!けんをみせてください!もってみたいです!」
むいっと手を出し、剣を見せてくれるようお願いした。
じっと見て少し考えていたが、カチャッと剣を持ち、こちらに差し出してくれた。
「重いぞ?」
「はい、きをつます!」
両手でそっと受けとった。
ナルコスが手を離した瞬間、ズシン!っと一気に重い負荷がかかった!
「おっと!」
ぎゅっと両腕で抱き止めた。
──おっも!?めっちゃ重っ!鉄の塊だ!木剣なんて比じゃないな、これ!よくこんなの振り回せるなー。さすが一流の剣士だ
──あ、ここに石が嵌まってるよ!どんな効果があるのかな?
──おお、ほんとだ!あ、いっぱいついてるじゃん!うぉぉーこういう、いかにもファンタジーって感じ、わくわくするぜ!
「あの、これ、なんのマセキですか?どんなこうかがあるんでしょうか?なんだかこれって……たのしいですね!」
わくわくきらきらした目で質問した。
そんな俺にあてられたのか、俺が両手でやっと抱えていた剣の柄を持ち、ひょいと取り上げ、
「ああ、この魔石は……」
と、熱心に一つずつ説明してくれた。
魔石にはいろんな効果があるらしいのだが、ナルコスの剣はナルコス仕様なので、他の者が持ってもその効果は発動しないらしい。
オリジナルっていいよな!
俺も木剣じゃなくて、はやく自分の剣が欲しいと思った。
俺とナルコスが一通り盛り上がり、少し落ち着いた頃合いを見計らったように、タリルがコホンと咳払いした。
「そろそろよろしいでしょうか?」
ハッとした。
そうだった。タリルもいたんだった。
エルキャラ忘れてた……すまん、エル……
「はい!おまたせしまし……た?」
声をかけたタリルの方を振り向くと、なんと、タリルがモフを抱っこしていた!
あれ?いつの間にそんな仲良くなったんだ?
元々タリルは精霊に並々ならぬ関心があったけど……まさかアールからタリルに乗り換えた?
「モフ……おいで……」
手を広げ、呼んだ。
タリルの手からピョンと飛び降り、ぴょんぴょん跳んできた。
「おうち、帰るのか?」
こちらを見上げるモフの頭をクリクリする。
「……うん。モフも帰るだろ?俺たちと」
顔をびろーんと横に伸ばし、変な顔にした。
「帰る!クッキー食べる!」
ぺローンとながーい舌でベロンと手を舐められた!
「うげっ、モフ~舐めるなよ~」
ぱっと手を離し、ひょいと掴んで頭の上に乗せた。
「せんせーがた、かえりましょうか!」
タリルがモフを手懐けた!?
いやいやきっと何か裏があるはず。
でもね~モフだからね~鳥頭だからね~
がんばれ~マルエル~!




