第2話 エルフの里
※書き直しました
ゆるーく続いていく予定です。読んでいただけると嬉しいです。
感想などいただけるとやる気が出ます。よろしくお願いします。
「アール様はほんとにお可愛らしいですねぇ」
乳母のリリスがマルティネス・アール・エルフリッドを腕に抱きながらほめそやかす。
‘’このお子は本当に美しい。あやしながらでも、ついうっとりしてしまうわ‘’
エルフ族は見目麗しい者が多いけれども、この子はまた格別に美しい。
透き通るかのようなつるつるの白い肌。すっと通った鼻筋に、形のよい愛らしいピンクの唇。長いまつげに縁取られた濃い影の落ちる瞳は、片方が金色で片方が銀色の非常に珍しいオッドアイだ。髪の色は月夜の闇のように、艶やかな黒色だった。このような髪色を持つものは今まで会ったことがなかった。
将来どれ程美しくなるであろう、まごうことなき麗人に育つに違いない。
──ふふん、神様のご加護があるのよ?当然じゃない。でもさぁ黒髪ってやっぱり私たちのせいよね?他に黒髪の人っていないもん
──まぁな。俺もちょっと青とか緑とかオレンジとかファンタジーな髪色が良かったなぁって思うけど。まぁこっちでは逆に珍しいから特別感あっていいんじゃね?
脳内会話に花を咲かせる。
「ですが……性別が定まらないのは、いかがなものかと……」
ふーっとため息をついた。
「そうねぇリリス、私も驚いているのよ?まさか男の子から女の子になっちゃうなんてねぇ」
頬に手を当て、こちらもほぅとため息をついた。
──しょうがないじゃんねー。好きでこうなった訳じゃないし!
──だよなー。俺たちのせいじゃないもんなー。犬神様が中途半端な転生させるからだよな!
「んぶっうぅぅぅぅー」
抗議しようにも出るのは言葉にならないうなり声だけだった。
アールが産まれたエルフリッド家は、エルフの里の族長の家系だった。今はアリステアが領主をしている。
父アリステアは逞しく精悍で、厳しいが誰にでも平等な性格をしており、皆から尊敬されている穏やかな人物だ。
母エリザベートはおっとりした性格で、あまり物事に動じない。たおやかな見た目と違った、肝っ玉母さんだった。
そのエルフリッド家に待望の跡継ぎが誕生した。
それがマルでありエルである、マルティネス・アール・エルフリッドだった。
アールの身体ははじめ、男の子だった。
確かにかわいいヤツがちゃんと股間にちょこんとついていた!
これでエルフリッド家も安泰!と思いきや、翌日にはなんと、ソレが消失したのだった!
リリスは本気で何処かに落としたのかとパニックになり、母に訴えた。
そのまた翌日にはかわいいヤツは何事もなかったかのように復活した。
前例のない、消失と復活を繰り返すかわいいヤツに、周りの人たちの戸惑いは、いかばくか計り知れなかったであろう。
だが、特に体調が悪くなるわけでもなく、アール自身は玉のように美しく、元気に育っていった。
半年たった今では、周りで世話をする者たちも慣れてきたもので、この子はそういう体質なのだと納得したのだった。
いずれ成長と共に、どちらかの性に落ち着くのだろうとの楽観的見解だった。
そういういきさつがあり、はじめ“マルティネス”と男名で呼ばれていたアールだったが、消失した際の事を考えたのか、いつの間にか“アール”とどちらともとれるミドルネームで呼ばれるようになったのだった。
──俺は“マルティネス”で良かったんだけどな。略して“マル”だし
──あら、私は“エルフリッド”から“エル”と呼ばれたかったわ。そう考えたら、まぁ“アール”は妥当なとこじゃない?
俺たちは転生した際、前世の記憶が残っていた。
そして、脳内で会話する事ができた。
もともとエルとは視線で会話できるくらい通じるものがあったので、その辺は問題ない。
話し合いの結果二人の脳内に亜空間を作りだした。
そこではアールが見ているものが映像のようにモニターに写しだされたりするのだった。まぁ、脳内の空間なので好きにできるわけだ。オレたちはソコをラボと呼んでいる。
この脳内会話でアールの主導権を決めたりする。今はまだ寝ているだけなので、何日か交代でアールになっている。
それで分かったことなのだが、俺の意識がアールの時はヤツが現れて、エルの意識がアールの時は消失するのだ。
面白いなー。
何故こんな実験みたいな事をしているかというと、エル曰く、スローライフのためだそうだ。
ひとつの身体に二人の意識というのは将来的にどうかという問題がでてきて、スローライフに支障がでるという。
その対策として、まずは己を知ることから始めたいそうだ。
ので、日替わりでアレコレやってみた結果なのだが、身体が変化する以外、特に変わったことないんだよなー。
普通の赤ちゃんだよ。
──研究職だったエルはそこら辺妥協しないよなー?
──だって、どうなるかわかんないじゃない
そうなのよね。
私はスローライフがしたい。マルはハーレムライフがしたい。
希望が正反対じゃない!?
性別だって違うしさ!
どうやって折り合いつけるか妥協点を見つける為には、とにかく情報を得て、実験・研究ですよね?
ふんす!
どうせ今は寝て食べて動いて排泄して、また寝て食べて……の繰り返しだもん。
産まれて半年、身体は順調に育っている。お座りやハイハイも出来るようになり、普通なら目が離せない時期だと思う。
でも私たちには前世の知識があって、何が危険かはよく分かっている。
馬鹿な事はしないはず!私がいなくたって変なことしないよね?ね?マル?
──ねぇ、アールの意識はマルに任せていい?しばらくラボに籠りたい。赤ちゃん飽きた……げふんげふん!なんかモヤモヤしたものがわかりそうな気がするのよね~!いいよね?いいよね?
──お前~、赤ん坊のふりがめんどくさくなったな?まぁな、エルは前世でもボランティアで散々赤ん坊の面倒見てたし。まぁいいや、お兄ちゃん頑張ってやってやるよ
──サンキューさすがマル!集中したいからしばらくよろしくね。何か特別な事があったら録画しといてくれる?
──ああ、わかった。じゃあな
パチッと電源を落とす感覚でお互いの意識を切り離した…。
「ち──ち──」
突然アールが何を訴えるようにくずりだしました。
「あらあら、さっきまでご機嫌さんだったのにねー。オムツですか~?」
さっと乳母のリリスがやってきて、そう言いながら私からアールを奪ってしまいました。
うん、分かっています。リリスは乳母としてのお仕事を全うしてるだけですものね。……でもね、私だって母なのです!そろそろアールちゃんのお世話をしたいのです!
私が換えます!と声をかけようとしたら、てきぱきとリリスが準備をしてしまいました。
ああ、私また出遅れてしまいました……。
「はーい、オムツ換えますねー。キレイキレイしましょうねー。あら?」
リリスが何かを見つけたようです。
「奥様、アール様が男の子にお成りですよ」
あらまあ!かわいい子が復活してるではありませんか!
「あらぁ~ほんとねぇ~。しばらく女の子だったものね~。ママはこのまま女の子になるのかな?って思っていたのよ?ふふ、違ったのね~!アールちゃんは今日は男の子の気分なのかな?」
スッキリしてご機嫌なのか、アールちゃんがきゃっきゃっと笑っています。ああ、かわいらしいこと!
リリスから受け取り、膝に抱っこしてゆらゆらとゆらしながらあやしました。
きゃきゃきゃっと笑ってくれました!
なんて愛らしいのかしら!
「んまぁ〜〜」
最近動きも活発になって目が離せないとリリスも言っていたけれど、 表情も豊かになって、愛らしさも磨きがかかって参りましたね~!
「あら?今アール様はママと言われたのでは?」
キラキラした目でリリスがこちらを見ています。
「え?」
まぁ!あまりの可愛らしさに目を奪われて、私とした事が気付きませんでした!
「アールちゃん?ママって言ってくれたの?」
私もキラキラした目でアールちゃんを見つめてしまいました。
アールちゃんは、輝くばかりの美しい瞳で私の目をじっと見つめ返し、
「んまぁ───」
にっこり笑顔付きで言いました!!
きゃあ───────!これは!もしかして?
「あらあらまぁまぁ!やっぱりママって呼んでくれてるの?」
思わずぷにっとほっぺたを優しく摘まんでしまいます!
「んまぁまぁ!」
きゃきゃきゃっと私の手をバンバン叩きました!
きゃあぁぁ───────!!!!
きたわぁ────!これぇ────!!!!
「アールちゃぁーん!ママですよぉ~~」
アールちゃんの柔らかなほっぺに唇を押し付け、ちゅっちゅっと何度もキスしてしまいます!
かわいい!かわいい!かわいい!
私、子どもがこんなにも可愛らしく愛おしいだなんて、知りませんでした。
もう!旦那様にもお知らせしなくてはっ!
「リリス、アリステアを呼んできてちょうだい。今の時間だと書斎にいらっしゃると思うわ。アールちゃんのこんなに可愛らしい様子が見れないなんて、人生の損失です!」
ぜひアリステアにも見せたいです!
「かしこまりました奥様。今知らせに参りますね」
リリスまでウキウキしてアリステアを呼びに行ってくれました。
「アールちゃーん!ママねぇ、早く元気になりますねぇ!アールちゃんとお散歩行きたいですもんねぇ~~」
そうですわ、いつまでも伏せってはいられませんね。どんな手を使ってでも、早く回復させましょう!
「まんまぁー?」
キラキラと輝くお目々で見つめてくる愛しい我が子に、頬擦りしながら早く元気になることを誓ったのでした。
コンコンコン!と、ドアを叩いた。
「失礼いたします奥様。旦那様がおこしです」
リリスが訪問を告げた。
「エリザベート!アールが喋ったって?」
リリスから聞いた話ではアールがいきなり“ママ”と喋ったらしい。
本当だとしたらとても早い初語だ。
まだ産まれて半年だ。
やっとハイハイが出来るくらいだろうに。
まさか意味のある言葉がもう話せるのか?
「アリステア!そうなのよ~!私のことをじっと見て、“ママ”って呼んでくれたのよ~」
こぼれ落ちそうなほどの満面の笑みでそう告げた。
「ほう……。僕にも聞かせてもらえるかい?」
アールを抱くエリザベートの隣に腰を降ろし、半信半疑で聞いてみた。
「ふふ、アールちゃーん、私は誰ですかぁー?」
チュッと額にキスをしてエリザベートがアールを見つめた。
アールはじぃっとエリザベートを見つめた。
ニコッと笑い、エリザベートの膝をパンパンと叩いて、
「まんま!」
と言った!
すごい!ほんとに喋った!
そして、こちらをじぃっと見つめ、またニコッと笑って、僕の手を叩き、
「ぱっぱ!」
と言った!!
「きゃあ────!!アールちゃ──ん!すごいわぁぁ!!」
エリザベートが狂喜乱舞し、舐めまわさんばかりにアールにチュッチュッしている。
「──────!!!!」
「ふふふふ、嬉しいでしょう?アリステアパパ……」
エリザベートが、驚き感動している僕の膝に、徐ろにアールを乗せてきた。
「…………ああ」
まさか自分まで「パパ」と呼ばれるとは思わなかった……。
……じーんと胸が熱くなった。
「……この子はほんとに聡い子だね。普通の子ではないと思っていたけど……」
見た目は非常に珍しい金銀のオッドアイを持ち、見たこともない輝くばかりの黒髪で、とても美しい。
さらに、性別が変わるという、何とも不思議性質を持つ子だった。
だが、とても元気だ。
……まさか、半年で言葉を話すようになるとは
抱き上げ、高い高いをする。
きゃきゃっと喜んでいる。
わずか産まれて半年で、こうも意志疎通が出来るとは思わなかった。
金と銀の美しい瞳を見つめる。
「アール、君は天才かもしれないね。君がいれば里は安泰だ」
うちの子は天才かもしれない。
本気でそう思うアリステアだった。
きゃっきゃっ言いながらアールは思った。
──いやいや、俺、前世の知識持ってるだけなんで。ちょっとサービスしただけで天才って、あんたら親バカだよな。まぁほっこりするからいいけどね……
ふっと赤ちゃんらしからぬニヒルな笑顔をチラリと見せたのだが、二人は気づかなかった。
赤ちゃんマルエル。
エルはもともと研究者肌の引きこもりなので、幼少期はマルが基本になります。
エルはそのうち、超絶美少女として登場する予定、は未定……。
コメントいただけると嬉しいです!