第19話 ピクニック!
ちょっと休憩ね!
馬車が辛かったの……
アールは今度もっといいものを誰かに開発してもらおうと決心しました。ふんす!
自分では作らないよ?人の仕事は取りません!アイディアだけね。
ピクニック行きたいなぁ……山登りに行きたくなりました……
(´- `*)
「あ!ボクおちゃセットもってきてます!とりにいってきますね」
リリスが持たせてくれた荷物は馬車の中に置いてきている。
あれにはクッキーとお茶と、モフ用にコンソメスープが入った水筒等、ピクニックセットが一式入っているはずだ。
──そういやモフは?
「アール様!わたしが取りに行って参ります。馬車に置いてあるのですよね?」
すっかり居たことを忘れていたトムソンが言った!
そう言えばいたよ、この人……どこから沸いて出たのだろうか……あれ?最初から居たっけ?うわ~影が薄すぎて存在を忘れていた。
「……じゃあトムソンおねがいします」
忘れてた事は微塵も感じさせず、にっこり笑ってお願いした。
「はい、かしこまりました」
トムソンが恭しく礼をして、ささっと取りに行ってくれた。
ふー、なんとか一息つけそうだな。
椅子に座り、ほーっとため息をついた。
タリルはじっと木の方を見ている。何かを感じているんだろうか?
ナルコスは腕を組んで目を瞑っている。
寝てんの?
そういやモフだよ、モフ。
アイツ何処に行ったんだ?
確かさっきまではタリルの側で、んーぱっ!とトトロよろしく活躍してたはずなのに、いつの間にかいなくなっていた。
キョロキョロ辺りを見回したが見当たらない。
本当に何処に行ったんだろう?
……そう言えば、出会ったのもここだったし、父さんに早く修復しろと催促していた。
この広場はもともと石の精霊の住処だった所なのかもしれない。
もしかして、別れも言わず、自分の居た場所に戻ったのだろうか?
そこで、ハッと気づいた。
──そうだよ。モフって、よく考えたらペットじゃなかったよ。ただたんに遊びに来てただけじゃなかったっけ?
──そう、だったかな?なんだかすっかり家族な気分だったんだけどな……そうよね、契約してるわけでも無いんだもの、好きな時にやって来て、好きな時に出ていく……気まぐれな精霊だったわね
──ああ、俺たちにモフを拘束する権利は、無い
──勝手に居なくなったからって、寂しくなるのは、こちらの勝手って事なのかな?
──そうだな。一緒に住む約束をした訳でもないし……でも……
モフの姿が見当たらない事で、ちょっとしんみりしてしまった。今のところ唯一の友達なのだ。
「お待たせいたしました」
トムソンがショルダーバッグを持ってきてくれた。大切そうに渡してくれた。
この男、見た目は平凡で影が薄いが、仕事は丁寧にやるタイプのようだ。
「ありがと」
ニコッと笑い、受け取った。
「どういたしまして、です」
トムソンが照れながら少し離れたところに下がっていった。
受け取ったバックをパカッとあけ、リリスが用意してくれたお茶セットを取り出した。ナプキンが数枚、お皿が4枚、コップが3つと、袋に分けられたクッキーが4つ。それと……
「あったあった、コレだ」
まぁでも、モフが出ていくのは今じゃないゾ?
「おーい!モフー!コンソメスープだよ~!はやくこないと、ボクがのんじゃうよ~!」
おもむろにコンソメスープの入った水筒を掲げ、大きな声で叫んだ!
とたんに、
ガサガサガサガサ!ゴソゴソゴソゴソ!
と、近くの草陰から音がした。
コレ、キイタコトアル。
「ジャマしてやる!スープ飲むのジャマしてやる!」
叫びながら、びょーん!とアールめがけてグレーのモフモフが飛び出してきた!
コレ、ミタコトアル!!
「モフ~~~!!」
飛び付いてきたモフモフをギューッと抱きしめ、もきゅもきゅした。
──あーんモフ~~癒しのモフモフ~
──ふっ!絶対寄ってくると思ったよ
うん、やっぱり大好物のコンソメスープを見逃しはしなかったな!
「モフ、どこいってたの?」
よしよしなでなでしながら聞いた。
「石探してた!キレイな石、ここに多い!さっき魔力一杯になったから、またキレイな石見つかる!」
??意味がわからないが、あちこち石探しをしてたのか。それで見当たらなかったんだな。
「そっか、みつかった?」
キラキラッとモフの目が光った。かわいい。
「コレ、みつけた!」
キレイな、キラキラした虹色に輝く石を見せてくれた。
「うわ、ほんとにきれいだね」
え?コレ、石か?何かの宝石じゃないだろうか?
「ねぇモフ。ちょっとみせてもらっていい?すぐかえすよ」
必殺かわいくおねだりポーズver.1!
首を傾げ、唇の前で手を合わせて相手の目をみつめるゾ!
「……ん」
首を傾けながら、ぽいっと手のひらにのせてくれた。
やったゾ!貸してくれたゾ!
やっぱりアールのおねだりは聖霊にも効くらしい。
「ふふ、ありがと。ほんとにきれいだねー。あのーこれって、なにかのほーせきでしょうか?」
手のひらのキラキラした石をタリルに見せた。
タリルが目を真ん丸にしてこちらを凝視している。ナルコスも眉間にシワを寄せ、じっとこちらを見つめていた。
──え?俺、何かやらかしたか?めっちゃ変な目で見られてるんだけど?
──わかんない。ん?あ……そういえば……あのさぁ、モフって今見えてないんじゃなかった?
──……ああ?……ああ……うん、これはやらかしたやつだな
説明を求めるかのような二組の目に見つめられている。
パチパチッと目を瞬いた。
「せーれーからあずかりました!」
てへぺろ!
「……精霊から預かった……なるほど、先程から一人で何の小芝居をされているのかと思っていましたが、精霊とお話されていたのですね?」
タリルも結構キツイな!そんな風に思ってたのか?
そんなこと一人でしてたら、ただの痛いヤツじゃん!
「はい!あさ、おはなししたせーれーのモフです!モフは、イシがダイスキなんです」
もしかしてこの石も見えてないのか?
「……あの、このイシはみえますか?」
キラキラ光る石を、両手のひらで一度包み込み、ゆっくり開いて二人に見せた。
ゆらっと石が揺れたように見えた。
パアッと光ったような気がした。
「!!見えます!急に現れました!」
タリルがガタンッと席を立ち、かぶりつく勢いで手のひらの上の石を見た。
「よかった。しばいではないでしょう?」
いきなり小芝居するようなヤツだと思われたくはないからな。
「ええ!ええ!はっきり見えますとも!それにしても……コレは……」
じっとキラキラ光る石を見ている。
「コレは触っても大丈夫なのでしょうか?その精霊の………………アール様、そろそろご紹介頂けないでしょうか?私だけその精霊さんにお会いした事が無いのですが?」
ゆっくり顔をあげ、真正面から見つめられた。口元は笑っていたが、目は真剣だった。
そうだったな。この人はまだモフに会ってなかったんだった。
変な人だけど、優秀なのには違いないし、これからも先生としてお世話になる(エルが)予定だ。
ちゃんと紹介しておいた方がいい気がする。
「モフ、すがた、みせてあげてくれる?」
モフをちょんとテーブルに乗せ、タリルの方を向かせて、そう頼んだ。
「……コイツ魔力高い!一度見せたら、見つかるかも知れない!」
「え、そうなんだ……ん?べつにそれでもよくない?」
見つかったらまずいのだろうか?見えたところで特に何も問題は無い気がする。
「ジャマ出来なくなる!」
ピヨっと胸を張った。
「あ、そういう……んーなるほど……」
そっかぁ、趣味だもんなぁ。
──なぁエル、どう思う?
──うーん、でもタリル先生にだけ姿を現さないってのもかわいそうだよね。こんなに会いたがっているのに
──だよな……
「ねぇ、モフ。コンソメスープとボクのぶんのクッキーもあげるから、おねがい」
ぱふんと頭を撫でた。
と、突然モフが、グリンと首を水平に180度回させて、こっちを見た!
「ぎゃっ!!」
思わず声をあげてしまった!
──ひぃぃぃ!こわっ!ホラーだホラー!あ、鳥だから普通か?いや、でも顔が怖い!
ベロって長い舌が出てるのも怖っ!
──わかった!フクロウなのよ、モフはキツツキじゃなくてフクロウなんじゃない!?
──いや、それも違うだろ!?あ~びっくりした……プチパニックになったよ
こちらをみる目が、石を見つけた時のようにキラーンと光っている。舌がくるくるっと巻いて嘴に戻った。吹き戻しみたいだな。
「……いっぱい?」
「うん、そうだ、せんせーのぶんのクッキーもあげる!」
手を大きく広げた。家に帰ったら、バケツいっぱいあげちゃうよ?
ちょっと変な顔で悩んでいたと思ったが、
「しょうがない!見せてやる!」
そう言ってタリルを見た。
ゆらっと一瞬モフの境界線が曖昧になった。
「おお!」
タリルが驚いた声をあげた。
「ピヨはジャマぴよ、石の精霊だ!名前はモフだ!」
どーん!と胸を張り、ピヨピヨ鳴きながら自己紹介した。
身体を大きく見せようとしたのか、翼を広げ羽毛を逆立たせている。
モフさ加減がいつもの1・5倍くらいになった!
「モフ~~!!もふもふ~~!!」
思わず後ろからぎゅーっと抱きつき、顔を擦りつけ、グリグリした。
「ぐけっ!」
首がキュッとなったのか、ベロンっと舌が出て、変な声で鳴いた。
「タリルせんせー!このフワフワのモフモフのとりが、イシのせーれーです!ボクのオトモダチです」
一端石をモフのポシェットに戻し、ぐいっと抱き上げて、自分の頭の上にちょこんと座らせた。
「……はい、そのようですね……驚きました。まさかこんなにはっきりと自我を持ち、積極的に人と意志疎通をとる精霊がいるなんて……」
タリルが真剣な顔で俺とモフを見比べている。
モフの上で視線が止まり、右手を胸の位置で斜めに当てた。
「こんにちはモフさん。私は魔導師のタリル・シルヴィオーラと申します。以後お見知りおきを」
ペコリと頭を下げた。こちらの挨拶の礼のようだった。
「お前、タリル!魔力強い、覚えた!」
じっとタリルを見ていたが、ビシッと翼で指差し(?)確認した。
「はい、ありがとうございます」
ニコニコ嬉しそうに笑いながら頷いている。
良かったね!これで仲間外れではなくなった。
「お前は?」
ぐりんっと、今度はナルコスを見た。
「……ナルコス・ガルセクだ。剣士をしている」
自分に話をふられると思ってなかったのか、一瞬たじろいたように身構えた。
「お前、ナルコス!博物館でデートする!知ってた!」
ビシッと翼で指差し確認した。
リリスとね!
そう言えばナルコスとは会ってるけど、ちゃんと自己紹介はしてなかったな。
「なんで覚え方がそれなんだ!」
不本意だと言うように嫌そうな顔をした。
はは!タリルとは違う扱いだね。
うん、剣士全く関係ないや!
「まぁまぁ、ナルコスせんせー。モフはかしこいでしょ?すごいねーえらいねーモフ~」
鳥頭なのにちゃんと覚えれて偉いぞ!
3歩進んだら忘れるかもしれないけど。
とにかくこれで隠し事が一つ減った。
なんだか心の重荷が少し軽くなった気がした。
「モフさんは……」
タリルが熱心にモフに話しかけている。
モフも別に嫌がってる風でも無いのでそのまま任せることにした。
──イタズラには気をつけなよ、タリルせんせー。
心の中で呟いた。
タリルの興味が全部モフに移った所でお茶の用意をすることにした。
──さっきクッキーは全部モフにあげるって言ってなかった?
──いや、全部とは言ってないぞ?一袋5枚ずつ入ってたから……14枚はモフにやって、俺たちは甘いのと甘くないのの1枚ずつでいいだろ。
ナプキンを4枚敷き、その上に簡易な皿を並べ、モフに14枚、残りに2枚ずつ乗せた。
モフの場所にコンソメスープの入った水筒を置いた。
お茶の入った水筒を取り出し、並べたコップに注いでいく。柑橘系のいい香りがフワッと広がった。
野外での食事の用意は慣れたもんだ。
現場では立ったまま食事をする事も多かった。こうしてまともにテーブルと椅子で用意するのはあまりなかったけどな。
あっという間にお茶会の準備が出来た。
「じゅんびができました。モフはここだよ」
ぺしぺしとコンソメスープの入った水筒のある場所を叩いた。
「ピヨ?クッキー!食べる!」
シュタッと瞬間移動的速さで席に着いた。
「はい、ではどうぞ、めしあがれ」
ニコッと笑って、はい、どうぞと両手を広げた。
「ありがとうございます。おやおやずいぶん手際がよろしいですね。よく外で食べられるのですか?」
タリルが何気に聞いてきた。
「はじめてです!……リリスのみようみまねですね!」
危ない危ない。また“本で”と言うところだったよ。ナルコスに疑われてる上にタリルにまで疑われたら、前世の事までバレそうだ。
納得したのかしてないのかわからないが、なるほどと頷きながら食べ始めた。
──うん、やっぱりリリスのクッキーは旨いな!お茶と合う
──チョコレートがあればもっといいのになぁ。あとアイスクリーム食べたい 。シュークリームでもいい
──俺はポテチとか煎餅がいいなぁ。あ、ポテチは作れるんじゃないか?今度リリスに頼んでみよう。モフも気にいると思うぞ
チラとモフを見ると、無心でコンソメスープを飲んで(舐めて)いた。
嘴を水筒に突っ込んでるから、ながーい舌は見えない。うん、その方がかわいいな。
タリルがその様子を凝視している。
ナルコスは黙ってお茶を飲んでいる。
俺はどこからか聞こえてくる鳥の声を聞きながら、ほわーっとお茶とクッキーをいただいた。
──陽光が降り注ぎ、爽やかな風が広場を吹き抜ける。清浄な空気に包まれ、心と身体が癒されていくようだった……
──……平和だねー……
──ほんとにねー
束の間の平穏な一時を過ごした。
外出先での心の洗浄って必要だよね。
森のマイナスイオンに包まれてリフレッシュしたマルエル。
まだお仕事残ってるよ、マル!