第11話 ウルウルするのは反則ですか?
なんでもない日常から色んな事を吸収していく。子どもっていいよね!
がんばれーマルエルー
(*´∀`*)尸"
ジャマぴよを頭に乗せ、部屋に戻る。
途中バトラーに会った。
「バトラー!ボク、いつもとちがうようにみえない?」
ふふんと頭を見せた。
どう?精霊が頭に乗ってるんだよ?すごくない?
「違うように……ですか?」
じっと見つめられた。
一生懸命いつもと違うところをさがしているようだった。
──あれ?見えてないのかな?
──そんな感じね。なんだか不思議だわ。自分たちにはこんなにはっきり見えてるのに
ジャマぴよは俺の頭の上で、ちんまい足をパタパタして、小さくピヨピヨなにかを歌いながらバトラーを見ている。
「そういえば少し大人っぽくなられたような……?」
ほんの今さっき会ったよね?
無理矢理答えを絞り出そうとしてしているよね?
そんな一瞬で大人にはならないと思います。
「ありがとー!ちょっと、きいてみただけ」
バトラーをいじめる気はない。
これでわかった。ジャマぴよはやっぱり魔力が強くないと見えないのだ。
どの程度あれば見えるのかはわからないが。
「あ、そうだ、バトラー!さいほーどーぐがほしいんだけど。どこにあるかわかる?」
「はい?裁縫道具ですか?申し訳ありません。大工道具ならばわかるのですが……リリスが管理しておりますので……」
申し訳なさそうにあせあせしている。
そんなに焦らなくても……バトラーをいじめるつもりはないんだけどな。
「わかった。リリスにきくよ。リリスはどこ?」
「ワタクシがリリスに聞いてお持ちいたします。アール様はお部屋でお待ち下さい」
さっとそう言って、頭を下げた。
「わかった。おねがいするね!」
バトラーが役に立ちたそうにしているので、あえてお願いしてみた。
たいていの事は自分で出来るのだが、あえてひとの仕事に口出しはしない。
出来るからと言って、何にでも口を出すのは結局は信頼関係を崩すことになるんだよな。
バトラーは出来る男なので、この重大な仕事を任せることにした。
──なによ、たかが裁縫道具を探して持ってくるだけじゃない
──いやいや、理由も言わずリリスから裁縫道具を持ってくるのはなかなか難易度が高いぞ。きっと根掘り葉掘り聞かれて、結局はリリスが持ってくるとみた
──そんなものかしら。まぁ確かにあの二人、妙に張り合ってるところあるわよね。
突然ペシッと頭をはたかれた。
「ポシェット!早くなおして!」
ジャマぴよがペシペシ頭を叩いてきた。
全く痛くない。むしろモフモフが当たって心地よい。
「はいはい」
急いで部屋に戻った。
魔法のポシェットをじっくり観察した。
全体的にボロボロだが、やはりこの小さな穴が中身が落ちる原因だと思われる。
なら穴を塞げばいいはずなんだけど……
──こういうのはエルの仕事だよな!エル、任せた
──はーい
「ジャマぴよ、これっていつから持ってるの?」
まずはこのポシェットがどういうモノなのか、どう修繕すればいいのか、情報を知ることからね。
「気付いたら持ってた!生まれた時から?生まれた……いつ……?」
??な顔をしている。
愛嬌のある顔が変な寄り目になって笑いを誘う。
──ぶふっふふふふ、オモシロイ顔!ヤバい!ツボにはまるっ!くくくく
──ちょっと!笑わないでよ!こっちまで笑えるでしょっ
「ふー、わかった。ジャマぴよと同じで、不思議アイテムなんだね。このまま修繕して大丈夫かな?中身は出した方がいい?」
「全部出したらこの屋敷が埋まる!出す?」
ポシェットに翼を突っ込んだ!
「いや、出さないよ!?家が潰れちゃうんでしょう?」
焦ってポシェットを奪った!
──恐ろしいな、この鳥!やっぱり見かけ通り鳥頭なのか!?なんとなく気付いてたけど。後先考えなさすぎだろう
──まぁまぁちゃんと出すかどうか聞いてきたじゃない
「うーん、普通のモノじゃないみたいだけど、とりあえず普通に塞いでみようか」
こうしてみるとただのボロボロポシェットだった。
「早く!」
ピヨピヨ鳴いて、パタパタうろうろしている。踊っているみたいだった。
コンコンコン、とドアが叩かれた。
──お!?ナイスなタイミングだな!リリスとみた!
「アール様、リリスです。裁縫道具をお持ちしました。入ってもよろしいですか?」
──ほらな!俺の勝ちだ
──別に勝負なんかしてなくない?どっちでもいいよ!
「いーよー入ってー」
カチャッとドアがあき、リリスが入ってきた。その後ろからバトラーが恭しく裁縫道具を持って入ってきた!
──なるほど、そうきたか。両人の面目躍如だな。やるなバトラー
──なんなの?うちの大人たち……そんなにアールの頼みって重要事項なわけ?たかが裁縫道具でうちの侍女頭と執事が揃って持ってくるなんて
──リリスはともかく、バトラーに頼むことはあまりないからな。張りきっちゃったんだろ。バトラーもアール信者かな?
──えー違うでしょー。バトラーはアリステア信者だと思ってるんだけど
「ありがとう、リリス、バトラー」
裁縫道具を受け取り、二人にお礼を言った。
「ではワタクシは失礼します」
バトラーが満足そうに微笑み、部屋を出ていった。
ん?リリスが残ってる。なぜ?
にこにこしているが、目が笑ってない。
ちょっと怖い。
あれ?怒ってる?
「あのーリリス?」
「アール様、何か破かれたのですか?ならこのリリスが修繕いたしますよ?バトラーは家の修繕をする者なのですから」
ゴゴゴゴゴと音が聞こえそうな笑顔だった。
普段のリリスの優しい笑顔ではなかった。
──ひぇー!怒ってる!他人の領域に足を踏み込ませるな!ってなってる!怖い!
──ちがうコレ! “アール”が頼んだからだよ!推しが自分の知らないところで浮気したみたいな?
──どっちにしろ怖えーよ!早くナルコスとくっつけないと!
──それとこれとは違うと思う
「……ごめんねぇリリスゥー。リリスがいそがしそうだったからバトラーにたのんじゃったんだ」
必殺ウルウル目攻撃!!
説明しよう!
ウルウル目攻撃とは、うるうるした瞳で上目遣いに相手の目を見つめることだゾ!そのまんまだ!
「あらあら、そうだったんですね。私の方こそ申し訳ありません。アール様が気を使ってくださってたのに気づかずに」
慌ててよってきて目線を合わせるようにしゃがんだ。
効果はバツグンだ!
「さいほーじぶんでおぼえようとおもって。リリス、おしえてくれる?」
必殺かわいくおねだりポーズver.1!
首を傾げ、唇の前で手を合わせて相手の目をみつめるゾ!
「!!もちろんでございます!アール様!」
目からハートが飛び出しそうな勢いで承諾した!
効果はバツグンだ!
──ふふ、私の手にかかればこんなものよ
──あざとい。あざといのに逆らえないというこの事実。アールは詐欺師になれるな
「あのね、このポシェットなんだけど……」
ポシェットを見せた。
そう、不思議な事にジャマぴよから受け取った時に魔力が下がったのか、実体化したのだ。
一見普通のボロボロのポシェットに見える。
「……まぁ、ずいぶんボロボロですね。まずは洗ってから修繕いたしましょうか」
そう提案してくるも、精霊の持ち物をむやみに触らせるわけにはいかない。
「あ!うん、でもボクがあらうよ!トモダチからあずかったんだ」
ここは正直に言っておく。
「あら、アール様にお友達ですか?どなたです?今度リリスにもご紹介ください」
キラッと目が光った。
そうきたか。そうくるよね?リリスだもん。
「うん、あのね、トリさんなの。トリさんがボロボロのポシェットでないてたから、かわいそうだなってあずかったの!」
どう?このメルヘンな展開!ほんとの事だけどね?
「まぁぁぁぁぁ鳥さんなのですね!なんってお可愛らしいぃぃぃぃ!」
くぅ──っとリリスが身悶えしながらアールの可愛さを噛み締めている。
──いや、事実だしね。そこでピョンピョン跳ねているグレーのモフモフなんだけどね。
──やっぱり見えてないんだな。ほんと不思議だ
「リリス、さっそくやりたいんだ。じゃあボクあらってくるね!」
「あ、はい。ご一緒しますね」
はっとリリスが我に返ったようで、慌ててついてきた。
「そうだ!とーさまたちの、はなしあいはおわった?」
「先程お茶を下げましたから、そろそろ終わる頃かと思いますが。行かれますか?」
「うーん、よばれるまでまつよ。まずはこのポシェットかな~」
廊下に出て洗面に向かう。この家は二階にも洗面もトイレもあるのだ。金持ちだよな。
石鹸水を作り、浸す。泥水のように水が濁った。押し洗いするが、中に何も入ってないように感じた。まさに不思議アイテムだ。
数回繰り返し、色がほとんどでなくなってから真水で洗い、タオルにくるんで叩いて水分を飛ばした。
「アール様お上手ですね。何処かで習われたのですか?」
前世ではほとんど身の回りのことは自分でやらされてた。おかげで早くから自立してたけどね。
「ほんで!」
言えるわけもないのでいつものごとく、本のおかげにする。本様々だね。
キレイに洗ったらあとは干すのだけど……
──ねぇ、マル。あなた確か風魔法使ったよね?
──ああ、自覚無いけどな。確かに木を倒しかかったのは風魔法だったな
──じゃあさ、このポシェット乾かすのできない?
──え?そんな繊細な……
──手伝うよ。やってみよう
──いきなりポシェットでやるのは怖いな。そうだ、この濡れたタオルでやってみよう
「リリス、さがって」
タオルが乾かせればポシェットだってできるだろう。
「アール様?」
タオルをテーブルに置き、タクトを……あ、引き出しに入れっぱなしだ。
しょうがないので右手を前に出した。
──あの時は確か、軽くなればいいと思ったんだ。重い剣をもっと軽く振れるようにと
魔力を身体に巡らせる。ゆっくり熱が回るように満たされていく。
──軽くなれ。羽のように……
──ストップ!マル!
──なんだよ?いい感じだったのに
──強すぎるよ。調整が難しいんだよ。羽じゃなくて、うーん、そうだ!フライパンは?
──フライパン!?
──そうそう、チャーハン作る時いい感じだったじゃない、うちのフライパン!重くもなく軽くもなく手に馴染んでてさ
──フライパンねぇ。やってみるか。よし、じゃあ……剣を持ってるつもりで、それがフライパンに変わる……んーなんかダサくないか?
──イメージしやすいでしょ?
──んーフライパンのように軽く……あ、出来た?
ブワッと風が吹いた。
タオルがふわっと舞い上がり、クルクル回ってからストンと落ちた。
そのタオルはすっかり乾いていた。
──あら、あっさり出来たじゃない。すごいね!マル!
「!?アール様!今……何を……」
リリスが目を輝かせ、プルプル震えている。
「ん、あのね、かぜでかわかないかなーとおもってやったらできたよ!」
えへん!とどや顔をして、胸をはった。
「ふわぁ!なんということ………アール様っ!さすがですわ!!」
キラキラとした ハートの飛び交う目で誉められた。
まぁね?俺たち神童だからね。
ふふんと笑って、今度は本番、ポシェットを置いた。
──よし、要領はわかった。……フライパン……
ブワッと風が吹き、ポシェットが風にのり、くるくるっと回ってストンと落ちた。
触ってみると、乾いていた。
テッテレー大成功!
──よし!風魔法マスターした気がする。今度は木を倒したりしないぞ!こう……イメージが大切だな!
──でしょ?魔法ってさ、イメージをいかに実体化するかって感じなんだよね。
「やったーできたよ!リリス!これですぐ、ぬうことできるよね?トリさん、まってるとおもうんだ」
「はい、アール様。鳥さんに急いで返してあげましょうね」
にっこにこで身を捩り、うねうねしている。
萌え死ぬんじゃなかろうか?
ちょっと心配だ。
部屋に戻り、裁縫道具を出し、普通に縫うことにした。
──エル、交代。俺、裁縫なんて出来ないぞ
──はいはーい。やれば結構楽しいんだけどね
リリスから教わらなくても出来るのだけど、いきなり出来るのも変なので、黙って教わった。
だけど、流石リリス、縫い目がとてもきれいで細かい。
私は主にミシンを使ってたから、手縫いだと目が少し乱れるのだけど、リリスのは一定で、まるでミシンをかけたように揃っていた。
穴を塞ぎ、今度はほつれた部分を修繕していく。修繕した部分の糸目が目立つので、そこにリリスが作ったワッペンを縫い付けていった。
小一時間ほどで完成した!
「やったー!できたよ!」
これでジャマぴよはもう石を落とさないですむはず。
縫うときに魔力を込めて縫ったので、なんとなくだけど特に問題無い気がする。うまくポシェットの表面と混じりあっている感覚があるのだ。
「こんなにはやくかわいくできたのは、リリスのおかげだよ!ありがとーリリス!」
お礼、これ、大事。
にっこり笑顔のおまけ付きだ。
「……アール様……どう、いたしまし、て」
ふらぁっとその場で顔を押さえ、へたりこんでしまった!
「リリス!だいじょーぶ!?」
慌てて肩を支えた。ポタッと赤いなにかが落ちた。
!!何!?血!!
「リリス!」
バッとリリスの顔を上げた!
──…………リリスさん?
──うん、鼻血だね。
「……だいじょーぶ?」
ティッシュを持ってきて渡してやる。興奮し過ぎじゃない?
今日のリリスはいつもより数倍アール病な気がするんだけど。笑顔だって見慣れてるはずなのにね。
「申し訳ございません。アール様の笑顔があまりにも萌え……いえ、眩しくて……」
今本音がちらっとでたよ?
アールが成長したらどうなるのやら。先が思いやられるよ。
「リリスは、ちょっとつかれてるんじゃないかな?」
そっと腰に手をやり、ドアの方に促した。
「おとーさまたちもおわってるかもしれないから、もういっていいよ。おだいじにね?ボクはもうだいじょーぶ。さいほーどうぐありがとーね」
これ以上居られて、また鼻血をだされても困る。ぐいぐい押して追いやった。
「はい、では後程。失礼しますね、アール様」
鼻血を出して恥ずかしかったのだろう、大人しく出ていった。
「ふうーージャマぴよ!出来たよ!」
「ぴよ──!!」
部屋の中をさんざん探検していたジャマぴよが、ピョンピョン跳ねてやってきた。やっぱり飛べないらしい。
「はい」
と、小さい翼にポシェットをのせてあげた。
「ぴよ~~~~~」
キラッキラッと目が輝き、嬉しそうに鳴いている。
じーっとポシェットを見て、アールの方を向いた。そしてまたポシェットを見た。
「穴、なくなった。キレイになってる。良い匂いする……花ついてる。鳥も……」
おもむろに肩にかけた。
「これ!ジャマぴよのポシェット!」
嬉しそうにパタパタと走り回ってピョンピョン跳ねている!
もう、きっと石は落ちない。
──かわいいな!
──うん、喜んでくれて良かったよ
「石!落ちない!なくさない!」
バサッとこっちに跳んできた。
モフーっとした感触に思わずぎゅーっと抱きしめた。
──うほぅ!モフモフモフモフ!!
──んはぁ!モフモフテンゴクか!?ここは!
グリグリと顔を押し付け、わしゃわしゃと思い切り羽毛の柔らかさを堪能する。
あー気持ちいい!
「口、あける!」
ぐいーっと邪魔だと言わんばかりに剥がすように押され、ジャマぴよが突然言った。
「口?あけるの?」
どういう意図だろう?
よくわわからないけど、あーんと口をあけてみた。
「やる」
ぽいっと白い何かを入れられた!
ごくっと一息で飲んでしまった!!
じわっと何かが身体の中にひろがり、一瞬で溶けてしまった感覚がした。
「ゲホッ!!何?これ!!」
ほんの少しだが、くらっとした。
「お礼!これで、お前、いつでも聖霊見えるし話せる!」
え?そんなマジックアイテムだったの!?
「ピヨ、邪魔するけど邪魔しない!」
「??よくわかんないけど、ありがとう!ボクたちトモダチでいいかな?」
「トモダチ?」
「そう、ジャマぴよはボクの初めてのトモダチになってくれる?」
「トモダチ……ピヨとお前がトモダチ……」
「嫌かな?」
必殺ウルウル目を発動しようとしたが、相手は聖霊だ。変な小細工は通用しないだろうと思う。
というより、本心でトモダチになってほしいんだもんね。
ふんす!と胸を張ってピヨーと一声鳴いた。
「なってやる!」
どやぁ!と変な寄り目な顔をしてこちらを見た。
──この顔!ツボにはまるからやめてくれ!ぐはははは!苦しい!
──マル!だからやめてってば……ふふふ
「うん!ありがとうね!ボクのことはアールって呼んで。君のことは……あだ名つけていい?」
「好きに呼べ!」
「じゃあ、モフモフのモフモフモフだから“モフ”でいいかな?」
──そのまんまかよ!?まぁいいけど。俺ならモフモフだな
──それ、モフとかわんないから!
「なんでもいい!」
「じゃあ、これからはモフって呼ぶね、モフ~おいで~」
両手を広げモフを呼んでみた。
「ピヨはペットじゃない!」
そういいながらもピョンと跳ねて手に乗ってきた。
んーかわいい!
ナデナデよしよししながら聞いてみた。
「モフ。今日は一緒に寝る?お泊まりしなよ。そう言えば精霊って何か食べたりするのかな?」
「食べなくても食べてもいい!」
足をパタパタしながら答えた。
「そうなんだ。じゃあ、一緒のものも食べれるんだね。ん──やっぱりお泊まりしなよ!ね?いいでしょ?」
頭を撫でて首のところをこしょこしょしてやる。気持ち良さそうに目を細めてピヨピヨ小さく鳴いている。
完全にペットなんですけど。
「しょーがないから泊まってやる!」
えらそうに宣った。
こうしてボクたちは友達になった。
ちまちまと話がなんとなく進んでいく感じです。
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