ティティは違う寮なのに
入寮してから数日後に行われた入学式は、つつがなく、無事に終わった。
新入生が一斉に一同に会した姿は、壮観の一言に尽きた。
国中から集まって来る、という事もあってか、本当に凄い数であった。列車から降りた段階で、かなりの人数というのは分かっていたけれど……。
でも、まさか新入生だけで3万人も集まるとは、思ってもいなかった。
多すぎないだろうか。
いや、国中ってことを考えると、そうでもないのかな?
塵も積もれば山となる。
各地域の街や村から少しずつであっても、集中させれば、そのぐらいにはなるのかも知れない。
それにしても、1学年3万人ってことは、6学年あるわけだから生徒だけで18万人もいるわけか……。
それに伴う商業活動等も行われているとなると、本当に凄い人数になりそうだ。
一応、登記上の人口としては50万程度らしいけれど、学校都市は土地が狭いこともあって、人口密度が高くてそれの何倍にも感じる。
首都以上、というのも、なんとなくわかる。
凄い昔だけれど、僕も、父上に連れられて一度だけ首都に行った事がある。
登記上の人口は首都の方が三倍ぐらい上なハズなのに、地区分けが広くて、そのせいで人工密度が低く体感としては学校都市以下だと思う。
色々と詰め込みました、っていう感じだ。この学校都市は。
と、そんなことを考えながら入学式からの帰路についていると、
「あっ、ジャンバ!」
人混みを掻き分けながら、僕を呼ぶ声があった。見ると、ティティだった。
「……ティティ」
「数日ぶりね」
本当だ。
数日ぶりである。
もっと長いこと会っていなかった気もするけれど、それは、色々とあったせいだろう。
「ね、良かったら少しお話しようよ。入学式まで時間あったから、色々と街中見て回ってて、良い所を見つけたの」
今日はあと帰るだけだし、他に特別な用事があるわけでもない。
折角でもあるので、僕はティティについていく事にした。
少しばかり赤ずきんちゃんの視線は気になるけれど――
『……うん?』
――なんだか、一線を越えて体の関係を持ってから、妙な余裕を感じる。あれ以降、赤ずきんちゃんの心境に何か変化があったようだ。
『何よそんな不思議そうな顔をして……。まぁ、ジャンバの童貞を頂いたし、その事実は一生消えないから、その点でだいぶ優越感あるし』
そ、そうなんだ。
まぁ何にしろ、大人しくしてくれるのであれば、それに越したことはないけど……。
『でも……前にも言ったけど、体の浮気は良いけど心の浮気は許さないからね?』
前と同じ言葉ではあるけれど、あの時と比べると、赤ずきんちゃんの口調がどうにも柔らかい。
僕の童貞を奪った優越感、という言葉に偽りは無さそうだ。
その事実が、赤ずきんちゃんにとっての、精神安定剤みたいな役割を果たしているらしい。
ともあれ、取り合えずは問題が無さそうである。
僕は安堵しつつ、ティティの後をついていった。
※※※※
で、ティティが連れて来てくれたのは、隠れ家的なカフェだった。
なんでも、流行っているところだそうで。
そんな情報どこから見つけてくるのか、と思っていたら、寮で同室になった上級生の女子生徒からと言っていた。
個室なのはあくまで貴族寮のみ、という言葉を、僕は今になって改めて思い出す。一般寮はどこも同室が当たり前のようだ。
「ジャンバは貴族寮よね? どんなところなの?」
「どんなところと言われても……。取り合えず個室ではあったかな。全員そうなんだって」
「いいなぁ……」
「その点は確かに良いなと僕も思ってる。でも、東館だから。……貴族寮にも二つあって、男爵と子爵が東館でそれより上が西館なんだって」
「へぇ……貴族寮もそういう区分あるんだ」
「だから、多分だけれど、個室以外は東館は普通な方だと思う。凄いのは西館の方なのかな。行った事ないけどね。……そうそう、ところで新入生対抗戦なんだけれど」
「対抗戦? ……あー、あったね。そういえば聞いた聞いた。私にはあんまり関係ないかなって忘れかけてた。それがどうしたの?」
僕は、かくかくしかじかと、代表に選ばれた事を伝える。
すると、ティティはぱちぱちと瞬きを繰り返し、驚いた。
「すごーい。ジャンバって魔術まだ使えないんだよね? 列車の中でそういう風に言ってたの覚えてるよ」
「うん。でもまぁ色々とあって」
「もしや、ジャンバには秘められた才能が……?」
才能と言うか素質と言うか、まぁ確かに、その手のものが僕にはある。
ただ、それの理由が”魔法”に触れたからだから、決して人には言えない事情でもある。
「よーし……! それじゃあ、旗作って、こうやって持って振って応援したげるね!」
えぇ……。
それって良いの?
ティティ、自分の寮を応援した方が良いのでは……。
赤ずきんちゃん『旗? 好きに振れば? 私はジャンバについてる旗を持ったり振ったりしてるからそれで満足』