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構わない

　ティティとは男女の仲になってしまった。

　まさかああなるとは、思ってもいなかったことである。

　まぁしかし、過ぎ去った現実を変えることは出来ないのであって……。

　ともあれ、だ。

　その後、今度こそは場所をきちんと教えてくれたので、僕はティティを参番寮まで送っていった。

　お酒が最後まで残っていたようで、寮に入って行く時のティティはふらふらした足取りだった。

　もしかすると、僕とのことは忘れているかも知れない。

　出来れば忘れていて欲しい。

※※※※

　と、そんな一件が過ぎ去った翌朝の事である。

「なんか……変な匂いがする」

　寝起き様に、赤ずきんちゃんが、すんすんと僕の匂いを嗅ぎ始めた。

　一体なんだろうかと思っていると、

「……これは女の匂い、かな？」

　さながら動物のような嗅覚で、昨夜の一件に勘付き始めたのだ。

　僕は一瞬焦ったものの、冷静を装いつつ、否定に努めることにした。

　本当のことを言うわけにはいかないからである。

　僕を愛している、と赤ずきんちゃんは公言している。

　それが真であるということを、今の僕は理解はしていたのだ。

　だからこそ、本当のことを伝えたら、何をされるか分からない、という結論に至っていた。

　僕の記憶違いで無ければ、”罰”がどうのみたいなことを、以前言われた気がする。

　赤ずきんちゃんの罰は、悪い意味で少し想像がつかないので、遠慮願いたいところであった。

「……赤ずきんちゃん、急にどうしたの？」

「急にどうしたのって言いたいのは、わたしの方なんだけど？」

「何を気にしているのか分からないけれど、何か思い違いをしているんじゃないかな」

「ふぅん……」

　凄い怪しまれている。

　僕の額には油汗が浮かぶ。

　すると、赤ずきんちゃんは、「はぁ」と溜め息を吐いた。

「別に、怒らないけど？」

「え……？」

「前に言わなかった？　体の浮気は許すって」

「そうだっけ……？」

「そうだよ。だから怒ってない」

「そうなんだ。ホッと――」

　――した。そう僕が言い切るより先に、赤ずきんちゃんの瞳のハイライトが消えた。

「どうして、ホッとするの？」

「えっ……？」

「他の女と何も無かったのなら、ホッとする必要ないよね？　むしろそこは、『まだ勘違いしてるの？』的な言葉が出て来るのが普通」

　しまった、と僕は思わず自らの口を抑えた。

　油断してしまった。

「……さて、洗いざらい白状して貰おうかな」

　ピシン、と音がした。

　おそるおそる顔を上げると、そこには、どこから取り出したのかも分からない鞭を持つ赤ずきんちゃんがいた。

※※※※

　もはや隠せず、という状況になったので、僕は洗いざらい経緯も含めて話した。

　赤ずきんちゃんは、それを黙って聞いていた。

　そして、特別に怒るようなこともせず。

　鞭も元から使う気が無かったのか、いつのまにか消えていた。

「……怒ってない？」

「怒ってないってば。……体の浮気なだけで、心の浮気じゃないから」

「そこなんだ」

「そこなの」

　僕にはイマイチ境界線が分からないけれど、赤ずきんちゃん的には、今回の一件はOKらしい。

「例えば、作りたければ酒池肉林を作っていいし、望むなら創ってあげても構わないし」

「えぇ……」

「前から言っている通り、心さえ私にあるなら、何人他の女を抱いたって構わないもの」

　さらっと凄い事を言っている。

　というか、その言葉の前提にあるのは、僕が節操のない女好き、という解釈ではないのだろうか。

　そんなことはない。

　僕はそこまで酷い男ではない。

　心外だ、と抗議をすると、赤ずきんちゃんは微笑みながら、

「だって、ジャンバは私が愛している男だもの。だから、良い男。他の女が放っておくわけないじゃない」

　そう言った。

　思わず僕は横を向いた。

　あまりにド直球な誉め言葉に、聞いているこっちが恥ずかしくなったのだ。

「……なんで横向くの」

「いやだって、凄いこと言うなって思って」

「だって本当に思っていることだから」

　赤ずきんちゃんは、結構ダイレクトに、好意を伝えてくる。

　当初は、却ってそれが怪しく見えた時もあったけれど、今なら分かる。

　赤ずきんちゃんは、本当に自分自身が思っていることをそのまま伝えて来ているのだ、と。

「むー」

　僕の態度が気に入らなかったのか、赤ずきんちゃんは、ぷくっと、カエルのように頬を膨らませた。

　まぁともあれ。

　本人の言う通りに、あまり気にしてはいないのだけは確かなようだ。

　変な事態に発展しなくて良かったと僕も安堵する。

　すると、そのうちに赤ずきんちゃんもいつもの調子に戻りはじめ、ごろごろとベッドの上で寝転がり出した。

　時に、今日は学校が全面休校である。

　昨日の新入生対抗戦の振替休日になっているそうだ。

　何をしようかなと考えていると、欠伸が出て来た。

　少しまだ眠い。

　今日は何もせず、眠って過ごすことにしよう。

赤ずきんちゃん『なお、ジャンバが寝てる隙に身体検査をした』