お友達になってください!
魔専学校の学習システムは、意外とシンプルだ。
2学年までは教養課程として、全員が同じ内容の単位を一定数取る事となっている。
専攻もあるけれど、それを決める事が出来るのは、3学年に上がる時である。
そこから学習内容が分かれて行く。
進級に必要な単位をどのようなペースで取るかについては、個々人のやり方によって変わって来る。
講義は一定サイクルで複数回行われ、どの日のどの時間に取るかは生徒の自由となっているのだ。
早めに全て取り終える人もいれば、のんびりやるような人もいたりで、様々らしい。
教養課程で取る単位は、魔術式学、魔術史学、魔術力学等々、後にどのような専攻となっても必ず必要になる基礎的分野の理解が主軸。
「で、あるからして……」
今丁度受けている講義は、少し禿げかかった中年教諭によって行われている、魔術史学だ。
魔術の沿革を習っているわけである。
入学して一週間。
対抗戦までも残り一週間。
少しずつ、僕もこの生活にも慣れ始めて来ている。
毎日は何事もなく基本的には順調。
まぁ、同じ新入生の友達が中々に出来ない、という悩みもあったりはする。
今のところ、友達と呼べる存在がティティしかいないのだ。
対抗戦の関係で、東館に限って言えば、だいぶ顔を知られてしまった事もあって「頑張れよ」って声を掛けてくれる人はそこそこいる。
ゴルドゴのような先輩だっている。
しかし、友達と呼べる仲になった人はまだだ……。
なお、これは余談になるけれど、ベニスが僕の顔を見た瞬間に逃げるようになっていた。貼り紙の時の一件で醜態を晒したから、僕の顔を見れないとか、そういう感じなのかも知れない。
対抗戦は本当に大きな行事らしくて、学院や寮の中に留まらず、街中が宣伝や祭り前夜みたいな雰囲気で溢れている。
ベニスは、そういう行事について、僕の前であんなイキりを晒した事になるわけで……。
「では、今回の講義はここまで」
講義が終わった。
僕はごそごと勉強道具を仕舞い始める。
いつもティティも一緒に講義を受けているけれど、今日は用事があるとかで講義には出ない、と言っていたので今日は僕一人である。
ちなみに、赤ずきんちゃんも来ていない。
人混みにまだ慣れないせいか、今のところは講義にはついてこない、と言うのだ。
応援すると言っていた対抗戦の時とか、かなりの人が集まる感じだけど、大丈夫なのだろうか?
本人曰くは、我慢する、との事だけど……。
「あっ、そうだ。今日は魔術式学も取る気をしていたから、次はそっち行かないと……」
もぞもぞと別の講義室へと向かう。
と、その時だった。
僕が廊下に出ると、一人の女の子が急に目の前に現れた。
唐突過ぎて思わず僕はのけぞる。
「――あ、あの時はありがとうございました! ずっと探してたんです!」
あの時……?
「えっと……」
「列車の中では助けて頂いて……」
そこで僕は思い出した。
そうだ、確かこの子はベニスに殴られていた子だ。
「本当に本当に嬉しかったです。それで、お礼を改めて言おうと思って、制服着ていたのを覚えていまして、それで一般寮全部の男子棟に行って話を聞いて回ったりして探してたんですけど、いなくて……」
「……まぁ一般寮を探してもいないと思うよ。一応僕は弐番寮だから」
「弐番寮……き、貴族だったんですか⁉」
あの時のベニスと僕の会話で、その事は分かりそうなものではあるけれど、しかし考えてみれば、この子はそもそも殴られていたのだ。
つまり、あの時は心理的に色々と混乱していて、そこまで考える余裕が無かったのだろう。
「まぁ、貴族といっても男爵家だけどね。一番下だよ」
「そんなことは……」
「あとお礼も別に要らないよ」
「い、いえ、ちゃんと言わないとと思って……」
女の子は、しゅん、とすぐに縮まった。
あの時もこんな感じだった気がする。
ただ、それは、ベニスに殴られたせいだと僕は思っていた。
しかし、これを見る限りどうもそれは違うようで、元からこういう性格っぽい。
「あの、私、地元にいた時から、こういうオドオドしちゃう癖があって……。魔専学校に来たら心機一転って思ってたんですけど、それも初っ端から上手く行かなくて……」
ベニスに絡まれた理由、恐らくこれだよね。
絡みやすそうといえば絡みやすそうと言うか……。
良く見なくても、凄く小柄で顔も幼い感じだ。
一部の人にはもの凄い好かれそうな見た目だとは思うけれど、一般には舐められやすいと思う。
新入生っていうことは、僕と大差ない年齢のハズだけれど、三つか四つぐらい下に見える。
「友達も出来なくて……」
ところで、徐々に何か話が変わって来ているような……? 確か、最初はお礼がなんとかって言う話だったよね?
良く分からない違和を感じる。
すると、女の子が手を差し出して来た。
「お、お友達になってください!」
……。
…………えっ?




