練習と本番
魔術の練習は特に問題が無く終わった。
結論から言うと、そこまでの苦労は無かったような感じである。
そもそも小太陽は、僕自身が創った魔術式による魔術ということもあってか、制御や移動もそれなりに思った通りに出来るのだ。
僕なら大丈夫だと思うけど、と赤ずきんちゃんは言ったけれど、この事を知っていたからこそ出て来た言葉のようだ
ただ……何事も完璧というわけにはいかず。
当てる場所も無いので、空の向こうに延々と連発して見たんだけれど、1000発目くらいから多少の疲れが出て来るようになった。
無制限に使えるわけでないようだ。
まぁ、式がある以上は魔術でもあるから、魔力をかなり消費してしまった、といった処だろうか。
『ジャンバは気づいてないようだけれど、その魔術式って人間がいう所の”魔力”をめちゃくちゃ消費する代物だからね? そもそも扱うこと自体が不可能な術式、という点は一旦横におくとして、単純な消費魔力だけで言うなら普通の人間なら3~5発が限界かな』
扱う事が不可能……そういえば、僕以外が使うと、脳みそが焼き切れるとか何とかだったよね。
僕がこの魔術式を創り扱える理由は、”魔法”に触れたからだ。
となると、もしかして、魔力の総量も同じような理由で多いのかな?
『ジャンバは転生の関係でだいぶ魔力も多くなっちゃったみたいだし、そのせいじゃないかな。わたしに触れた事で容量に変化があったみたい』
やっぱり……。
けれども、それにしても多すぎる気はする。
普通の人が3発で、僕が1000発ということは、少なく見積もっても常人の300倍程度はあるということになる。
桁がおかしい。
『……まっ、私は自分自身を、つまり”魔法”を使うから、そこのところの比較は適当だけどね。”魔法”に魔力なんて必要ないから、魔力がどうこうは興味が無いというか』
赤ずきんちゃんの使う力は、自分自身、すなわち”魔法”であって決して魔術ではない。魔法は魔力を必要としていない。
つまり、魔力に頼らず現象を起こせてしまう。
それゆえに、そこらへんの感覚がアバウトなようだ。
自身の魔力量が常人の300倍程度、と僕は今しがた考えたけれど、実際は、そこまで離れているというわけではないのかも知れない。
まぁでも、それを差し引いたとしても、僕の魔力量が桁外れに多い事は間違いなさそうだけども。
『ちなみに、小太陽の術式、魔力に頼らない要素も一部入ってるよね』
「え?」
『恐らく”魔法”的な要素を取り入れちゃったから、なんだろうけれど……。感覚的にやったようだから、その小太陽が”魔法”に片足突っ込んでいる自覚ないでしょう?』
魔術式を解体して組みなおす時、この方が効率的だと考えてはいたけれど、それに魔法の要素が入っていたかどうかまでは、そもそも分からなかった。
でも、普通の人にはそもそも扱えないわけだから、魔法に片足突っ込んでいる、というのはその通りなのかも知れない。
実感は湧かない。
魔法と言われても、理解としてはイコールで赤ずきんちゃんだから、自分自身がその領域に踏み込んでいるとしてもピンと来ないのだ。
『……ま、完全な”魔法”は無理だろうけれど』
「……そうなの?」
『人間辞めたら使えるようになるかもね』
魔法というのは、意思を持つ法則改変創造能力、みたいなものである。
赤ずきんちゃんのように。
だから、人間という存在である限り、限界がどこかで訪れてしまうようだ。
それは、例え”転生”を経たとしても、僕も例外ではない。
片足を突っ込む状態ではあるけれど、全身でその領域に至る事は出来ない。そこまで行くには人間を辞める必要が出て来るのだ。
さすがに、人間を辞める覚悟は今の僕には無いなぁ……。
僕の望みはあくまで”人生をやり直したい”であり、それが転生という形になって提供されたのであって、”魔法”になりたいではないのだ。
『とにかく、練習はもう気が済んだ?』
「……それなりに」
『じゃあ……部屋に戻って、本番、ね?』
部屋に戻ったあと、ベッドの上で何が行われたかについては、語るまでもない。
ただ、一つ言えるのならば。
取り合えず、今回はお猿にならないように僕なりに抑えた。
その結果として、時間をかけて絡みつくような行為になってしまったけれど、それはそれで、新鮮な刺激であった。
『そんなに一生懸命我慢して……。もう、ジャンバは可愛いんだから。これからも気持ちいい事いっぱいしようね? わたしから心を離しちゃ嫌よ?』
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