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 俺は大泣きしている嫁さんを抱きしめていた。確かに突然あんなよくわからない空間でゲームのキャラメイクするように職業やスキルを選択することを強制されて、選択した後にこんな何も無い空間に一人ほっぽり出されたら泣くかも知れない。そして俺は嫁さんが泣き止むまで頭を撫でたり、抱きしめたりしていた。


「それで、ここは一体何なの?」


「いや、お前より後にきた俺にわかるわけがないだろ」


 学生が独り暮らしするような狭い空間、部屋か。そこに俺と嫁さんが居て他には何も無い。どうしたものかな。とりあえず、嫁さんと離ればなれとになるいう最悪な事態は免れたが一刻も早く家へと帰りたい。そう思っていると、俺と嫁さんの間に何やら蒼いガラスか水晶かよくわからないが、玉のようなものが現れて光を放ち、俺と嫁さんは目をつむった。


「これは録音音声です。今頃私は力を失って眠りに就いていることと思います」


「玉から声が聞こえるけど、どういうこと?」


「最後まで聞くしかなさそうだな」


 この何もない部屋に現れた光を放つこの蒼い玉。声はそこから聞こえてきていた。扉も何もないこの場所に出現したということは、何かしらの意味があるんだろうが。


「ごめんなさい。貴方たちは私たちの世界に住まう人間が召喚魔法の実験を行った結果、この世界へと召喚されました」


「テンプレは物語だからこそ、許されるのよっ現実の世界でそんなこと求めていないわ! 私たちを元の世界に帰しなさいよっ!」


 物語は架空の幻想として求めるものであって、現実の世界にソレを求めるものではない。俺も文句を捲し立てたかったが、嫁さんが凄まじい剣幕で蒼い玉を両手でガッシリ掴み怒鳴っていて、俺まで怒鳴る余地は一切無かった。


「私は、この世界の神の一柱。かつて聖女とされた者達の魂が集合し、神となった存在です」


 蒼い玉は嫁さんの怒りを気にせずに俺たちに喋り続ける。あぁ、録音と言っていたのはそういうことか。それにしても眠りに就いているというのは一体? 嫁さんがブチ切れて冷静さを失っている今、その分俺は少しでも冷静でいなくてはならない。いや、俺も腑が煮えたぎるような思いなんだが。


「私が気付いたときにはあなた方三人はこの世界へと召喚されようとしていて、咄嗟に手を伸ばして保護しました」


 三人? じゃあもう一人ここに来るのか?


「咄嗟に手を伸ばして保護出来たのはあなた方二人だけです」


 もう一人は助からなかった。ということか。俺はソレを聞いて背筋が冷たくなるのを感じた。召喚された時点で運は悪いと言えるが、もし、嫁さんと離ればなれになっていたかと思うと。もし、離ればなれになっていたら俺達を召喚したヤツを・・・・・・


 嫁さんも、これが俺達の問いに答えないとわかると口を閉ざし、目をつり上げたまま録音された神の声を聞いている。あぁ、コレは嫁さんも当たり前だが切れてるな。


「先ず、私の持つ力、神としての権能ではあなた方を元の世界へ帰すことは出来ません」


 神とは言え、全能ではないということか。神としての権能。さっき聖女達の魂が集合した存在だとか言っていたから、癒やしに特化しているということだろうか。


「なんとか無理をして貴方たち二人に職業とスキル、そして私の加護を付与させて頂きました。それと同時にこの蒼い玉、ダンジョンコアを作り出しました。これを上手く活用して戦う術を学んでください」


 はぁ? ダンジョンコア? そんな物で一体どうしろと。俺にはソレが争いの火種になるとしか思えないんだが。色んなダンジョン物のラノベを読む限り、大抵が人類と敵対してるじゃないか。現地の人間と共存? そんな交渉力は俺達夫婦にはない。


「私を構成する聖女のうち、一人があなた方の世界の日本出身です。その縁を辿り、あなた方の世界へ救援を求める信号を発信しました。これで私が神として信仰されて蓄えた力は全て使い尽くしました。私は眠りに就き、恐らく貴方方と会えることはないでしょう。この世界の者が迷惑をかけてしまい、申し訳ございません」


 蒼い玉、ダンジョンコアはそう言うと沈黙し何も喋らなくなった。それと同時に、目の前の壁に扉が現れる。あの先はもしかしてダンジョンなのか? は? 一体どうしろと?


「一体どうしろっていうのよ、だいたいここはどこなのよ!」


「多分、ダンジョンなんだろうな。それで、そのダンジョンコアを使ってどうにかしろっていうことなんだろう」


 嫁さんの握るダンジョンコア。それを使って戦う術を学べ、か。あの神と一体になった元日本人女性が彼女なりに俺達がこの世界で戦えるようになるよう、チュートリアルを用意したというところだろうが、これは一体どうやって使えと? それに与えられた職業やスキルについての説明も何もないんだが。


「きゃっ、これは・・・・・・職業選択の時の」


「何をしたんだ?」


「どうやって使うのよって思ったら勝手に出たのっ!」


 ということはどういう仕組みかはさっぱりわからないが、握って念じろっていうことなんだろうな。俺と嫁さんの目の前には職業を選択するときに現れたようなウィンドウがあった。そこには、ダンジョン設定という項目と生成という項目があった。


 ダンジョン設定の項目を選ぶと、ダンジョンの構造を弄ったりモンスターを出現設定を弄れるようだった。今のところ、このダンジョンはこの部屋しか存在しておらず、神の手によって創られた為なのか出口は存在していなかった。いや、これ、どうやって外に出るんだよ。

 そう思っていると、このダンジョンコアに溜め込まれた魔力が尽きると外に放り出される設定になっています。と出て、ダンジョンを弄ったり、何か創造すれば魔力は減ります。そして再び魔力が一定数充填されれば再びダンジョンとして使うことが出来ます。とも表示された。


 続いて生成の項目を選ぶと食料や生活必需品の項目が現れた。成る程、水や食料の問題は気にしなくてよさそうだな。ただ、生成するとその分魔力が減るのでここに隠っていられる時間は減ってしまう。と。


 あぁ、成る程。モンスターを自分で出現させて戦って自分を鍛えてから外に出てくださいね。と。まさにチュートリアルというところだが、この世界のことが何一つ教えられていない状態で外に放り出すのは鬼畜の所業としか思えないんだが。


 あの神は、俺たち夫婦を何とか拾って職業とスキルを与えて、ダンジョンコアを創り出して、救援信号を出したところで力尽きてしまったと。・・・・・・それは本当なんだろうか? ソレを本当だと証明できるモノが何一つない。


 さて、どうしたものか。怒りの対象は俺たちの前には存在しておらず、目の前にあるのはダンジョンコアだけ。泣いても怒ってもこの状況は変わらないときた。あの神は俺たちの世界へ救援信号を出したとは言っていたが、本当のことかどうかわからないし、もし本当だったとしても地球の神々が俺たちにわざわざ救いの手を差し伸べてくれるとも限らない。


「どうすればいいのよ。」


「とりあえず、食料を本当に出せるのかどうか試そう。先ずは水だな。」


 生成の項目を選んで水を選ぶと目の前にペットボトルが現れた。日本でよく見かけた飲料水。異世界のダンジョンで目にするとは思っていなかったんだが。で、この水は一体後どれぐらい生成出来るんだ? そう思うと、ウインドウの下の方に何やらゲージのようなものが現れたかと思ったら、そのゲージが少し減った。あぁ、このゲージがゼロになった時このダンジョンコアは力を失うのか。で、その魔力消費量やゲージ量の数値は表示・・・・・・されないんだな。なんて、不親切! 水が出せるだけいいと思えと言うことか。


 他に出せるものは・・・・・・普通に日本のスーパーで売っているような食料品は出せるみたいだが、調理するための道具がないとどうしようもないな。リストにはあるが、どれぐらいのコストかもわからないなら、手を出すべきでは無いな。ふむ、衣服の類いも出せる、と。ただ、俺たちが今着ているような服はコストが高いかもしれない。


 食料、衣服の問題が解決となると・・・何かこの世界についてわかる物はリストにあるだろうか。そう思ってウィンドウを弄ろうとした所でダンジョンコアが突然光って、何か出てきた。それは一冊の本で、表紙に『この世界について』と書かれていた。


「いや、最初からこいつをだせよっ!」 

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