表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/92

奇跡

「モゴモゴ……ぷはっ! ふぅ……ようやく猿ぐつわが外れた……先程から外が騒がしかったが……今度はえらく静かじゃのう……暑くなったり寒くなったりと……外に出ても大丈夫じゃろうか?」


 ……足り……ない……破壊を……絶望を……


「ぬぬぅ……月も星も出ておらぬ……それにしても暗すぎではないか? 霧に包まれたように前が見えぬ……じゃが黒い霧などあるか? 魔法にしてもこのような広範囲に……!! クンクンクン……! こ、この気配は! この匂いは! 間違いない! 旦那様じゃ!!」


 ……絶望……破壊……血を……命を……もっと……もっとだ……


「お前様~っ! お前様お前様お前様! やっぱり助けに来てくれたのじゃな! ハリマウの阿呆に御守りを奪われた時には正直終わりかと思ったが……やはり愛の力は偉大じゃの! お前様の愛をビンッビン感じるぞ!」


 破壊……憎い……何もかも…………壊す……何のため? 俺は……なぜここに居る……? 分からない……憎い……憎い憎い憎い……


「お前様! お~ま~え~さ~ま! 全身真っ赤じゃが怪我はしておらぬか? ぬう~返事をせぬか! 妾が目の前に居るのになぜこっちを見ぬ! 愛しの妻がここにおるぞ! ぬぅ~っ!」


 憎い……恨めしい……破ふぁい……ころふ……にふぃ……?


「え~い! ほっぺムニムニの刑じゃ! これでもか! これでもか! ぬぬぅ……? お前様のほっぺは意外と伸びるのじゃな……新しい発見じゃ!」



……



「……山脈を……闇が……それに地中から湧き上がるような禍々しい気配は……」


「可能性は考慮してたけどあの光景は正直信じたくないわね~」


『儂も闇の眷属の端くれだが……あの場に居合わせるのは御免じゃな』


「策を考える……とは言いましたが……あの場に存在して正気を保てる者が居るでしょうか? あの場に居て自我を保ち行動出来る者が居るでしょうか? ……絶望……と言いたくは無いですが……」


「今できるのは祈るだけ……ってのは歯痒いわね~、ダイキの精神力に……いや、その精神が削れちゃってるんだから……はぁ……奇跡が起きるのを祈るしか……」


「奇跡……か……」



……



「ぬうぅ……強情が過ぎるぞお前様! そうか! 妾が勝手をして捕まったのを怒っておるのじゃな!? これには深い深い事情があるのじゃ! じゃがその怪我の功名で魚人族の皆を逃がせれたのじゃぞ? ……じゃから聞いて居るのか!?」


 ににににににくっい!? ははははかかかっい? ちっちっちちちををををおぉお?


「ががががっ!? おごごごごご??」


「ぬぬぬ……! これ程揺らしても一瞥もせんじゃと!? 妾が……妾がどれ程心細い思いをしたか……よもや目を開けたまま寝ておるのではないじゃろうな! ぐぬぬ……っ目を覚まさぬか! ダイキっ!!」



……



「……このままダイキが災禍として降りてきた場合……私達どーしたらいーんだろ?」


『……ダイキを倒す……は現実的ではないのぅ……あやつが制限無しに力を振るえば世界が滅ぶのに三日もかかるまい……』


「そもそもあの状態のダイキに立ち向かえる者が居るか……じゃなぁ……」


「はぁ……無理無理、あんなのに攻撃入れようとする奴居たらよっぽどのバカか同等以上の化け物よ」



……



 破壊……破壊……は……ごべらっ!?


「ふ~っ……ふ~っ……はっ! 妾としたことが怒りに任せてつい……それに勢いにまかせて名前で呼んでしもうた! うふ、うふふふふ……なんだか照れるのぅ……むむぅ? なんじゃ? 吹っ飛んだと思ったら寝たままで……早く起きぬか……ぬわわっ!? う、腕の関節が一つ多いぞ!?」


 痛……い? な……にが……? 敵……は……破壊……せねば……。 だが……懐か……しい……ような? なん……だ? 痛……


「ぐ……あ……」


「ぬああぁあ! おっ! お前様っ! すまぬ! すまぬのじゃああぁぁあ! えっと……こ、こういう時は……どうする? どうしたらいいのじゃ!? マリーは何と言っておった? ぐぬぬ……少し……恥ずかしいが……っっっ」


 ……何か……大事なことを思い出せそうな……大切な……たいせ……そうだ……ノル……もがっ!? むー! むー!?


「む~っ!? んむっ!? むーっ! むーっ!!」


「……っぷはっ! お前様っ! 大丈夫か? マリーは意識が無いときはマウストゥーマウス? がいいと言っておったが……」


「ゲホッ……ゴホッ! の……ノルン……それは呼吸が止まっている時の応急措置で……ゲホッ! いっ……痛つつ……っ!」


「お前様どうした? 痛むのか? 妾のせいで……妾のせいでっ!」


 そうだ、ノルンだ。何で忘れていた、何で見失っていた……愛する妻の事を忘れるなんて……そりゃ吹っ飛ばされても仕方ないのは自明の理だな。


「顔を尻尾で殴られても腕は折れないよ。だが、ありがとう、お陰で戻って来れた」


「ぬうぅ……殴られて礼を言うとは……お前様そう言う趣味が……?」


 ドン引きした表情でこちらを見るノルン、ちょっと待て、これ以上いらない性癖疑惑は簡便だ、いや、ほんとそういうの無いからね!


「ねーよっ! っっ痛ってええぇぇえ!」


「よくよく見れば酷い怪我じゃ、無理をするでない」


「っ……だ、大丈夫だ……っ、だが全身血塗れだ……触ったら汚れるぞ?」


「問題ない、確かに血の匂いは苦手じゃが、妾がお前様の手を取るのに何の問題がある?」


 俺の手を取りにっこりと笑うノルン、その手に握られた返り血塗れの自分の手……酷い手だ……こんな手で……俺は……。


「……俺はこれまで、この世界に来てから数え切れない位の命を奪ってきた……今のこの手みたいに俺の手は血塗れだ……こんな……」


「こんな? なんじゃ? こんな手で妾を抱き締めるのは悪い、とでも申す気か? 愚問じゃぞお前様」


 ノルンが改めて俺の両手をぎゅっと握り、強い眼差しで俺の瞳を覗き込む。


「そもそも妾は血海(けっかい)の中に血煙を上げて剣を振るうお前様に一目ぼれしたのじゃ、今更血に塗れようと気にする事では無い! じゃから……じゃからお前様、妾の側に居ておくれ……ずっと……ずっと……」


「……あぁ、ずっと……ずっと側に居る、約束だ」


 勢いよく抱き付いてきたノルンを自由にならぬ腕で抱き締める。あ、さっきのでまた肋何本かイッた……だが、今はこの痛みもいっそ心地いい……取り戻せれた、護ることが出来た……今は……その事実だけあればいい。




「……なぁ、ノルン」


「? なんじゃ? お前様」


「さっき俺が堕ちちまってたとき、その……呼んでくれたよな? 初めて」


「むぐっ!? ぬぬぅ……い、意識があったのかえ?」


「いや、ぼんやりだけどな、でもノルンの呼ぶ声が聞こえてたんだろうな……」


「改めて言われると……その……照れるのじゃ……」


「ふふ……ただいま、ノルン」


「……おかえり……ダイキ……」


……


「おぉっ! あんなとこに居やがった! 嬢ちゃんも……無事か……っとお!? ……ありゃぁ……こりゃ邪魔するのは無粋か……ちいっと時間潰してから出直すかぁ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ