闇の中へ
足が重い……暗い……日がもう落ちたのか? 一体何処に……ここは何処……? 俺は……大事な物……大切な物……見つけなければ……。
「ぎゃあっ!?」
「うがぁっ!」
……温かい……赤い雨が降っている……、雨が降る度に体の中を何かが這い回る……不快だ……不快? 不快って……何だ? だが……不快感をおしても剣を振るう度に求める『何か』に近付くのを感じる……行かなくては……だが……この不快感が邪魔だ……意識を……染めろ……黒く……もっと黒く……
「居たぞ! こっちだ! ぐぁっ!」
「のこのこと誘い出されやがって……今日が貴様の命日……ガハッ!?」
「……いけませんねぇ? 仮にも救国の英雄が王国民をそのように……」
……? 英雄? 救国? ……何だ? 誰……? 誰? って……? 聞こえるのは……何? 不快……この雑音は……嫌いだ
「随分と素敵な居姿になったもので……なぜまだ生きていられるのかと聞きたくなりますが……どうやら何も聞こえていないようですね」
……うるさい……五月蠅いうるさい煩い! この音は不快だ! 返せ! 俺の大切な……返せ! こいつが! この音が!!
「一体どうやってここまで来たのか……ですがもう虫の息、さっさと引導を渡して差し上げるのも慈悲かも知れませんね」
「ぐ……うぅ……あぁ……」
「みっともない……まるでゾンビかグールのよう、このような穢らわしい者に『勇者』の称号などと……。さぁ、敵は死に体です、楽にしてやりなさい」
周囲から……何かが……近付いてくる……腕を振るう度に降り注ぐ赤が温かい……。もっと……もっと……右腕……動かない? ならば……左……?? 何だ? 顔に当たるのは? ゴツゴツとして……固い……? 体……動かない……なぜ……あぁ……眠い……でも……眠っては……駄目……何で? なん……で……?
「ゲホッ! ガボッ……げっ! ゼッ……ゼッ……コヒュー……ヒュー……」
「ふんっ、死にかけと思いきや思ったより粘りましたね……、異世界人……なぜこのような者が強大な力を持っているのか! 人と同じ姿をしていながらにして人を超える存在! 人々は神の遣い等と持て囃すがこのような破壊の力を持つのは悪魔のそれ! ……見なさい、この返り血に塗れ尚も憎悪と殺意に満ちた悍ましい姿……これを悪魔としないでなんとします。そしてやはり人とはかけ離れている感性、まさか魔族と通じ夫婦の真似事までしていようとは……」
……………………雑音が…………な…………に……闇が…………沈む…………染まる……何も見えない…………何か…………捜していた……光……温かな…………
「国同士がどう動こうとも魔族は鏖殺せねばならぬ害獣です、終戦? 平和? 馬鹿馬鹿しい! 魔族の最後の一匹を狩り殺したその時にこそこの世は平和になる! そしてそれは我々人間の手で為されねばならない! ……さて、長話が過ぎましたか……安心しなさい、あなたの死体はあの魔族の少女の死体と共に仲良く晒して差し上げますよ」
「ぐ……あ゛ぁ゛あぁ!! がぁっ! ぐうぅっ!」
「っ! アレス様! こいつ……まだ……」
「意識はもう無いはずですがね……流石は悪魔の精神力、といった所でしょうか……っ!?」
……憎い……憎い……光を…………奪う……憎い……俺の…………大事な……
「ぐあぁっ! う゛あ゛ぁあ!」
「っ! くっ! まさかまだ動けるだけの力があろうとは……っ! ですが私に危害を加えて無事では済みませんよ? 『呪』をかけた術者本人に逆らうなど……」
「ガハッ!? ぐぅあぁあ!?」
……憎い……憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い! 足りない……もっと闇を! もっと色濃い殺意を! 足りない足りない足りない足りない足りない! 破壊を! ……全てを破壊する力を……!
「ハハハ……苦しかろう悪魔よ、もう楽にしてやる。さあ、私が押さえて居る内に止めを……っ!? な……?」
大地が、空が、赤く染まる……赤く赤く赤く赤く朱く赤く朱く紅く赤く朱く紅く紅く
「ぐがああぁぁぁああああ!!」
「な、なぜ動ける!? 呪の力で動けるはずが無い! あれだけ殺してなぜ貴様は死なない!? 私を傷付けてなぜ死なない!? っっ! この化け物めええぇえぇぇえ!!」
向かってくるのは炎? 氷? 刃? ……鈍い、弱い、こそばゆい……破壊……破壊の力……壊すのは……こう……
「『пламя』『лед』」
「っ!? 私の……魔法を打ち消し……っなんだ! 何なんだその力は! 貴様は一体何なんだ!?」
「……『смеркнуться』」
「何だ……これは……闇が……襲っ……いっ……嫌だ! 何だ! 何なんだこれは! 悪魔! 悪魔め! 貴様を召喚したのがそもそもの…………」
……静かに……なった……だが……足りない、もっと破壊を! もっとだ! もっと!




