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魚の包み焼きとアラ汁

「ふぅ、いい湯じゃった。……? お前様どうした? 何やら考え込んで」


「う~ん、いや、晩飯どうしようかな? ってな」


「なに、今日は楽しめたのじゃ、鳥でも野菜でも文句は言わんぞ?」


 ノルンはニッコリ笑うと俺の腕を退かし、あぐらをかいた脚の上にすっぽりと納まる。余程この場所が気に入ったらしくご機嫌で鼻歌を歌っているが……先だっての一件からこちらは先端恐怖症一歩手前である、リズムに合わせて体を揺らすのはご遠慮願いたい。


「うむ、うむ、この包み込まれている感じがよいの♪ほら、手はこっちじゃ♡よし、ここをこれから妾の玉座とす! ひかえおろ~♪」


「勝手に決めるな! ってか包む……包むか……うん、夕飯はあれにするか!」


「? あれってなんじゃ? 『あれ』では何も分からぬぞ! これ! 教えてくれてもよかろう? これ! お前様!」


 ごそごそと探し物をする俺の後ろでノルンが騒ぐ、いつになくしつこいのはまだ甘えん坊モードが抜けきってないからか? まぁ腹へってるのもあるんだろうが……。


「さて、今日の食材はこれだ」


「ぬぬ? 魚の……切り身? お前様いつの間に?」


「腹の中から出て来る前にちょいとな? あの魚は水月鮟鱇ルナアングラーっていってな、以前食ったことがあるんだがこの部位が一番美味いんだ。まぁ、そんな事してたら危うく魚ごと消滅するとこだったが……」


「うぐっ……そ、それはすまぬと言っておる! ささ、お前様それで何を作るのじゃ?」


「あと用意するのはキノコ、玉ねぎ、人参ってとこだな、あとはバターと酒か」


「むぬぅ、酒を使うのか? 妾はまだ酒を飲める歳ではないぞ? ハッ!? まさか妾を酔わせて何かしようと……!」


「しねーよ、ってか両手を広げてウェルカムしながら言う台詞じゃないだろ。酒の中のアルコールは加熱したら消えるから問題ないんだよ、照り焼きのタレでも使ったろうが?」


「なんじゃ……残念じゃの……。して、お前様が手に持っておるそれはなんじゃ?」


「ああ、これ? アルミホイルの代わりに丁度いいからな、灰輝龍ミスリルドラゴンの瞬膜だ、とっておいてよかった~」


「おまっ……お前様?? 灰輝龍の瞬膜じゃと!? ただでさえ希少な上に伝説級の武具にも使われた最高級素材じゃぞ! それを料理道具で使っ……はあぁ!?」


「そりゃいいもんなのは分かるけどな、まぁ気にしない気にしない、美味いもん食えりゃそれでいいだろ?」


 ノルンがえらく慌ててるが……そういやこいつ狩った時に城を買えるだの一生遊んで暮らせるだの騒いでた奴いたっけな……。まさかマジだった? まぁでもこんな辺境にいては金なんぞ無価値! 美味い飯の方がよっぽど価値があるってもんだ♪


「んじゃノルン、その瞬膜にバターを塗ってくれ」


「ぬぉっ……ぬぐぐ……触るにも少々緊張するのぅ……そ~っと……そ~っと……」


「? なにおそるおそるやってんだ? こうやって、ガーッと塗っちまえばいいんだよ、気にすんな」


「ひゃぁっ! そ、そんな乱暴に! 優しくしないと膜が破れてしまうじゃろ!」


「何に使おうにも最高級素材、そうそう壊れたり破けたりしないっての。んじゃバターを塗った膜の上に刻んだ玉ねぎ人参キノコ、水月鮟鱇の切り身を乗せてっと」


「乗せるのに順番があるのかの?」


「魚を一番下にしたら加熱したとき焦げちまうからな、それに魚から出た旨味や脂を下の野菜に吸わせる事が出来る」


「ほうほう、料理一つに色々考えるものなんじゃなぁ」


「さて、ここに塩コショウ、バターを置いて酒を振りかけるっと」


 向こうじゃ料理酒使ってたけど今日は少し贅沢して魔王の酒蔵からかっぱらってきた酒を使ってみよう、さてさて魔王の秘蔵コレクションはいかなるものかちょっと味見……!! 

 ……これはやばい! 雑味もえぐみもなく爽やかな香りとアルコールの風味が駆け抜ける、なんだ、あれだ、う~ん……わからんけど美味いってのはわかる! あれだな、酒って感じがしねぇ、最上級の日本酒は水みたいに飲めるって聞くけどマジなんだな……これは今度つまみを作ってこっそり晩酌で飲も……。


「お前様さっきからこそこそ何をしとるんじゃ? 早く続きを教えてくれぬか?」


「うおっ! あ、ああ、そうだな! さあ、続き続き!」


 ノルンから感じる疑惑の視線が痛いが元気よく誤魔化していこう! うん!


「んじゃ乗っけた具材を瞬膜でしっかりと包む、包んだらフライパンの上に乗せ蓋をして弱火でじっくり蒸し焼きだ」


「ほほう、調理法としては至極単純じゃのう。してお前様、その魚の骨は何じゃ??」


「あら汁だよ」


「あらじる?」


「魚の骨に身が残ってるだろ? 勿体ないからこれを使って味噌汁を作るんだ」


「魚の骨……のぅ……そんなゴミを使って料理になるのかの?」


 ゴミ、確かにこの世界の文化では捨てる物だし、元の世界でも捨てる人は多いんだよな……。だが水月鮟鱇は滅茶苦茶いいダシが出る魚だ! ここは一つこの旨さに目覚めて貰おう!


「まあゴミとして捨てることも多いがな、食ってみれば分かる。ノルン、予言しよう、お前はこれから10分後、食事の際に自分が間違っていたと頭を下げるだろう」


「そこまで自信があるなら賭けに乗るかの♪そうじゃのう、妾が勝てば今日は腕枕で寝させて貰おうかの♡」


「嘘をつくのは無しだぞ?」


「妾は約束は必ず守る! 魔族の誇りに賭けての!」


 なんかえらいもんに賭けてくれたがこちらの勝利は揺るがない! さて、まずはアラに塩を振って少し置き、熱湯をかけて臭みを抜く、あとは湯の中にぶち込んで味噌を溶いて葱を加えて出来上がり。


「さて、包み焼きも焼き上がったし飯にするか!」


「先程からバターの匂いがたまらんのぅ、はよ! はよ食べようぞ!」


 包み焼きの包みを開くと濃厚なバターの香りが湯気と共に湧き上がる、そこにポン酢を注いで……うん、涎がでてきた。


「「それではいただきます!」」


「うむっ!? お前様! この包み焼きはよいの! バターの香りにポン酢の酸味と旨味、そしてホクホクのこの魚! くぅ~ったまらん!」


「気に入ったようで良かったよ、下に敷いた野菜も美味いぞ、食べてみな」


「おお! これは……! 野菜とキノコが旨味を吸って……! いかん、箸が止まらん!」


 個人的には包み焼きの主役は下に敷いた野菜だと思ってる俺、魚も勿論美味いけどやっぱたっぷり野菜を包んで食べるのが好きだな。

 さて、それじゃあ次はアラ汁いってもらいましょうか。


「そんじゃそっちのアラ汁もいって貰おうか」


「ふむ……魚の骨の味噌汁な……多少身がついておるからといってそんなに美味い訳が……ズズッ……」


 おそるおそるアラ汁を一口啜ったノルンが怪訝な顔をし、そして二口、三口とアラ汁を含んでは嚥下していく。その表情の変化に内部の葛藤が見て取れるのが面白い、悩むことはないだろうに、ってか魔族の誇りはどこにいった? 正直になった方が楽になれるぞ?


「さて、答えを聞かせて貰おうか、不味いようならその碗は下げるが……」


「ぐぬぬ……口惜しや! 降参じゃ降参! 確かに旨い、馬鹿にしてすまんかった!」


「ほ~れみてみろ」


「むぅ……じゃが魚の骨が何でこんなにうまいのかのう……解せぬ……」


「なんでも何も普段のスープとかも出汁を取るには鶏ガラとかの骨からとったりしてるぞ? 骨ってのは中に旨味を貯めこんであるからな、煮込むことでその旨味が溶け出してくるんだ」


「むうぅ! はぁ……仕方ない、今日は腕枕は諦めるのじゃ……じゃが次は必ず勝ち取るからな! 覚悟しとれよ!」


「いつでも挑戦してらっしゃい、返り討ちにしてくれるわ!」



……




 うむぅ……どうにも寝苦しい、目が覚めちまった。喉が渇いたから水でも……ってなっ!? 体が……動かん! まさか金縛り? あの魔王嫌がらせに化けて出やがったか!? いや、動かないのは左半身だけ……? まさかくも膜下出血とか……? マジかよ勘弁しろよ!? ……ってかこの感覚は覚えが……。

 あ~、あの~、ノルンさん? 賭けに負けたあなたが何で私で腕枕? ここはこっそり腕を抜き取って……ぐっ……両手でしっかりホールドですか! せめてちょっと起き上がっ……ぐああ! 体に尻尾巻き付けてる! いかん、身じろぎしたら締め付けてくる……!

 ……はぁ……しゃーない、今日は少し甘やかしてやるか。……問題は少し催してきたって事だな……今何時だろ? ……早く夜が明けないかなぁ……。

包み焼き


魚:鮭、タラなどがおすすめ

玉葱、人参、キノコ類:食べたいだけ、たっぷりが美味しい

バター:10g

酒:小匙2杯

塩コショウ



1.玉葱を薄切り、人参を千切り、キノコは石突きを取りほぐしておく。


2.アルミホイルを広げ分量外のバターを塗り、野菜を並べ塩コショウをふる。


3.野菜の上に魚を乗せ軽く塩コショウを振り、バターを乗せる、アルミホイルで包む際に具材に酒を振りかける。


4.しっかり封をしたらフライパンの上に載せ蓋をして弱火でじっくり蒸し焼きにする。


5.火が通ったらポン酢をかけて召し上がれ(*´ω`*)


 魚のホイル焼きはバターと魚の旨味を吸った野菜が主役だと思います(っ´ω`c)

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