王と姫と時々触手
『……アルトリア……なぜ……なぜ儂を……』
「ひっ……お、お父様!? な、なぜ! わ、私はその様なことは!」
『……痛い……苦しい……アルトリア……なぜだ……』
「わ……私ではないのです! そう! アレスが勝手に! わ、私は止めましたのよ? ですがあの者が勝手に話を進めて……」
「姫様! おやめ下さい! お、お戯れはそこまでに! 場を弁えて……っ」
背後の兵が止めるも平静を失ったアルトリアの耳には届かない、半ば発狂するかのように取り乱すアルトリアを縋るように兵達が引き留める。
「語るに落ちる、といったところかしらね? ねぇ陛下?」
「信じたくはなかったが……我が娘ながらここまで愚かだったとは……」
「!? お……お父……様? な、なぜ……? 二人……? え……?」
セラスの背後に控えていた兵の一人が兜を外し、中からやややつれた王国国王の顔が現れる、半透明の国王と新たに現れた国王をアルトリアが唖然とした表情で見比べる中、半透明の国王がローブを被った高位死霊へと姿を変えた。
「ご苦労様でしたネクロス」
『ふむぅ、計画を聞いた時にはそう上手くはいかぬじゃろうと思ったが……こうも簡単じゃと拍子抜けじゃな……』
「なっ……! あなた達……騙し……いっ……いや! お父様は今エルフの国に居るはず! こんな短時間でここまで来れるはずは……こいつは偽者……!」
「本物も本物、私が救助して治療して連れて来たの! 偽者とか失礼じゃない? ってか行方不明の国王の行方知ってんじゃないのあなた、流石に口を滑らせすぎよ?」
「あ……あなたはマリー……いや……マルグリット! なんであなたまでここに……!」
国王の横で兜を外したマリーが暑そうに掌でひらひらと顔を扇ぎ、激昂するアルトリアを暫く眺め、額を押さえつつ大きな溜息をつく。
「長~く生きてるとあちこち縁が出来るものでね、昔っから魔国とうちは裏で国交があるのよ、表に出せないから直通の転移門を通してだけだったけど……思いも寄らない場所で役に立つものねぇ」
アルトリアの握る拳がワナワナと震え、やがて力無くダラリと垂れ下がる。その様子を確認し王国国王が大きく息をつき口を開いた。
「罪人、アルトリアを国家反逆罪、及び国王暗殺を企てた罪で捕縛する。魔王殿、協力願えますかな?」
「承りました」
項垂れたまま連行されていくアルトリアを見送り、それぞれがようやく円卓に並べられた椅子にぐったりと腰を降ろす。
「はぁ~、とりあえずこっちは終わったわね~」
「……儂はつい数時間前まで死にかけとったんだぞ? 無茶をさせすぎじゃ……」
マリーがぐでんと円卓の上に伸びる中、苦しげな息をつきつつ国王が天を仰ぐ。
「ですがその無茶のお陰で間一髪戦争継続を阻止できました、ありがとうございます」
「でしょでしょ~? 私頑張った! もーちょい褒めてちょーだいよ!」
「じゃが……腹のこいつはどうにかならぬか……? うねうねうねうねと気味が悪くていかん……」
国王が捲ったシャツの内側には腹から生えた無数の触手……、所在なげにうねうねとのたくる触手がくすぐったいのか、国王が時折ビクビクと肩を震わせている。
「ま~見た目は置いといて、改めて私の触手生物ちゃんの有用性が証明されたわ! 寄生させることにより医療にも転用可能! これは売れるわよ!」
「ふふふ……、はぁ……さて、目の前の問題は解決しましたが、ここからはもう一つの問題ですね……このままでは戦争どころかこの世界は……」
「先程からの地震、あれがダイキの物であるというのは事実なのか?」
『ダイキならこの位は容易いじゃろう? だがあやつは普段から意識的に力を制限しておった。戦争中では特に味方や町に被害が及ばぬように自重と言うには精密すぎる程にな。……その上でこちらを完膚無きまでに叩きのめすのだからアンデットの儂ですら背筋が寒くなったものよ』
「そこまでやってたダイキが今はその力を制限する余裕すら無い……やっぱり状況は芳しくないと見ていいわね……。ってかアルトリアが口走ってたのだとノルンちゃん人質にダイキを動かそうとしてたとか……こりゃ本格的に怒り狂ってんじゃないかしら……」
マリーが頭を抱えて大きな溜息をつく、彼女なりにダイキを止めきれなかった責任を感じているのだろう。だが彼を引き留めたとて今のこの状況にならなかったか? 悪戯に問題を先延ばしにし、問題を更に悪化させるだけであった事は想像に難くない……。
「我が娘の愚行が原因でここまでの事になるとは……何も出来ぬ我が身が歯痒い……っ」
「……誰も彼もダイキ様の前では無力でしょう、自然の猛威に抵抗出来ぬと同じ……。短い時間ですが事前に出来る手は全て打ちました、ここから出来る事を僅かな事でも探していきましょう」
城の窓から見える山々の合間に夕日がゆっくりとその身を横たえてゆく……、この日が明日も昇る保証はあるのだろうか……頭の中によぎる不安を誰も口には出せないでいた……。




