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 魔王城の一室、謁見の間ではなく会議用の円卓の間にて対峙するは二人の女人……。それぞれの背後には兵が控え、友好的とは程遠い物々しい雰囲気を作り出している。


「……なる程、では王国側としてはそちらの国王様襲撃に我々が関与している……と?」


「状況証拠から見ても一目瞭然でありましょう? 王の従者の生き残りも『獣人の部隊に襲われた』との証言をしています。そちらの第四軍は国境詰めの獣人部隊、あなたの差し金で第四軍が国王暗殺を企てた、そう考えるのが自然でしょう?」


 勝ち誇るかのように堂々とした佇まいでセラスを見つめるアルトリア。セラスには分かっている、この暗殺を企てたのが誰で何が目的か……、だからこそ目の前に居るアルトリアの短慮が理解できず、また、それによって引き起こされた事象が予測の範疇に留まらぬ泥沼を産み出している事に頭を痛めていた。


「仮に、私達がそれに加担していたと仮定致しましょう。それによって我々は何を得るというのです? 何百年も続いた戦争がようやく終わりに向かっているのに、それを壊す理由がありません」


「それは私が知りうる事ではないですわね、少なくとも我々王国国民はこれを魔国側からの宣戦布告と受け取りました。ようやく平和が訪れると思っておりましたのに……残念ですわ」


「……国王陛下の安否はまだ不明と聞きましたが? まずは互いにその捜索に全力を尽くすべきではと。それに互いの最高戦力を失ってしまった今では継戦は国力を互いに磨り潰す下策では?」


 セラスの言葉にもアルトリアは眉一つ動かすことはない、ただの神輿であるアルトリアに理解できるだけの深い思慮が無いのか……それとも魔国側が苦し紛れについた壮語と取ったか……。


「最高戦力ねぇ……確かにそちらの最高戦力はもう居ない……。ですが、我々の最高戦力に関してはどうかしら?」


「……はぁ……そう、やけに強気に出ると思えばそういう事ですか……ですが、どう足掻こうと彼にもう戦場に出る意志は……」


「異な事を、無いなら無理にでも引き摺り出すのみでしょう? 丁度いいことに使えそうな駒も一緒に居るみたいですし……」


「……!! まさか……ノルンに……!」


 セラスの顔から色が消え失せ、明らかな狼狽を見せるのをアルトリアが満足そうに眺める、だが……娘が攫われたということを加分してもセラスの狼狽ぶりは異常だった、頭を抱えるその両の手は震えに憑かれ、色を失った唇の裏でカチカチと歯の根が鳴っている……。国の存亡の危機……とはいえど、ダイキの人となりを知った上でここまでの恐怖を抱く物だろうか?


「ようやく自身のおかれた状況にお気付きになられたようですわね? 大義は十分、そしてこちらには最強の駒がある、さぁ、滅びの時まで神にでもお祈りになられたら?」


「……分かっていないのはあなたの方です」


「なんですって?」


「あなたは……あなたはあの方の逆鱗に触れてしまった、枷を外してしまった……! 彼の意思が闇に呑まれるような事があれば! 我が国だけじゃない、あなたの国も! いや……この世界そのものが滅ぶのですよ!」


「な、何を訳が分からないことを……?」


 取り乱した様子のセラスに気圧されつつアルトリアが苦笑いを浮かべる、世界が? 滅ぶ? 何を大袈裟なと口の端を歪めるが、突如として起きた大地の揺れにテーブルの端を掴み必至に耐え、何事が起きたかと周囲を見渡す。


「……始まってしまった……もうこうなったら我々では……何も……」


「っっ……い、一体何があるというのです! 確かにあの者の持つ力は強大……ですが世界を滅ぼすなどと……!」


「あなたは……彼の力の根源が何にあるとお思い?」


「っ……仰っている意味が……」


 セラスの質問の意図を読み取れず、アルトリアが必死で場を取り繕う。無理も無い、自身の国を護る結界を犠牲に喚び出したなどと先程宣戦布告をした相手に対してどうして言えようか。


「彼の召喚の際に王国を護る結界が消え失せた……」


「なっ……なぜそれを……っ!」


「我々が何も知らないとでも? ……ですがこの話はこれだけでは終わらない、あなたの国だけではない、この魔国も、森人の国も、鉱人の国も、全ての国の結界があの日消え失せているのです」


「なっ……」


 アルトリアの表情が強張り、そこから導き出される様々な可能性が脳内を逡巡し続ける……世界の……危機? 召喚時に世界中で地脈連動式の防護結界が消失? そこから導かれる答えは……?


「……そんな……有り得ない……」


「彼はこの世界の龍脈、あなた達は地脈と呼んでいらしたわね? それと繋がり支配している。彼の力の根源であり源泉……それはこの大地に、空に、海に存在する膨大な力そのもの、彼を敵に回すということは我々の存在するこの世界をそのまま敵にすると同義……」


「……っ! でっ……ですが我々は彼の者を『呪』で縛っている! あれがあればいかに強大な力を持とうとも……!」


 アルトリアの言葉にセラスが目を伏せ首を横に振る、まるで諦めなさいと諭すかのように。


「その『呪』が問題を大きくしている、呪いというものは確かに強力な強制力を持ちます、ですがそれを破る方法もある。あなた達のかけた呪いは『王国の王族と兵らに危害を加えると激痛、最悪死が訪れる呪い』ならばそれを破るには?」


「……呪いを……上回る……殺意」


「呪いのもたらす痛みの中でそこまでの殺意に身を浸し、果たして正気を保てる者が居るか……そして向け先を見失った殺意と憎悪は……」


 セラスはここまで語ると大きく息をつき、元のしっかりとした『魔王』の表情に戻りアルトリアを真っ直ぐに見つめる。


「彼がどういう選択をするか、我々にはもう何も出来ることはありません。ですから我々は我々として目の前の問題から目を逸らさず対応していきましょう……まず、国王陛下を暗殺しようとした黒幕……」


「っ! それはあなたが……!」


「それはあなたの弁、ですが……こちらの方はいかがかしら?」


「一体誰のこと……っっ!?」


 反論しようとしたアルトリアが思わず声を詰まらせ口元を覆い、背後に控えた兵達の中には腰を抜かし立てなくなる者まで現れる。

 セラスの背後の扉をすり抜け現れた初老の男性、豊かな白髪はくはつに整えられた髭、眉間に刻まれた深い皺は苦悩の日々を送ってきた証左か? ……紛うことなき王国国王。

 だが、その穏やかであった双眸は深く昏い闇をたたえ、ぼやけた輪郭の向こうには冷たい石壁が透けて見えていた……。

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