黒
「おぅ、ようやくくたばったか? まだ息はあるか? 案外しぶてぇなぁおい! グハハハハハ!」
なんだ? 声……聞こえる……不快……こいつは……? なぜ? 俺は……何のために……? 寒い……凍えそう……だ……。
「くたばる前に約束だぁな、教えといてやるよ、っとぉ? お~い? 意識あんのかぁ? っちっ、しゃーねーなぁ」
「ぐぁっ!? あっ! がっ!? うぐぅ……っ!」
左手にヒヤリとした感触と共に差し入れられた何かが爆発的な熱を持って脳内に電撃を奔らせる。痛みと共に輪郭を取り戻し明瞭になる視界、その視線の先に嫌らしい笑い顔を貼り付けた虎獣人の顔……。
「目ぇ覚めたかぁ? 村の連中だがあのガキが大暴れしてぜ~んぶ逃がしちまった、まぁ追撃に出た奴等が皆殺しにするだろうがよ。ガキのその後に関しちゃ儂は知らねぇなぁ……ま、すぐにお前とおんなじとこだ、何しろあいつのお陰で儂の部隊の三分の一が戦闘不能だ、お前と一緒に念入りに刻んで混ぜてやるよ、嫁と一緒になれて嬉しいだろ? グハハハハハ!」
回らぬ頭に響く声、意味が脳に届く前にハリマウの投げたなにかがチャリンと音を立てて地面に転がる。
それは御守り、灰輝龍の鱗を加工した御守り、乾いた血液に汚れた御守り……。
「まぁあっちも長ぇこたぁねぇだろ? 嫁の形見ってやつだ、しっかり握り締めて死んじまえよ」
死ぬ? 俺が? じゃない……もっと……大事な……ノルン……あいつを? 殺す? 有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない有り得ない。
「……? なんだぁ? 手前ぇもしかして泣いてんのか? グハハハハハ! 勇者様が聞いて呆れる! メソメソ泣きながらガキのように死んでいけ! ……? なんだ? 地震……?」
「ぐぁっ!?」
「ぎゃっ!」
「ぐはっ!」
「!? な、なんだ? 何が起きた!? 消えた? あいつは何処だ!?」
やらせない……やらせないやらせないやらせない、そんなこと許容出来ようはずが無い。
殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す! 鏖だ、やらせない、やらせない絶対に!
「頭ぁ! な、何も見えません! ぐぎゃっ!」
「な、なんなんだ!? なんなんだこいつ……がっ!?」
「た、助け……ガハッ!」
「一体……何だってんだぁ? 確かにあいつは死にかけてたはずだ! なぜ動ける!? 呪いはどうした!? とっくに死んでるはずだろうが!」
視界が……真っ赤だ……鮮やかな……赤、朱、紅……。? 左腕が……折れた? 問題ない、土魔法で補強すれば……それより今は……。
「嫌だっ! 死にたくな……っ」
「腕が! 脚がぁ! うああぁぁあ!」
「クソッタレ! 死にかけが何もんに化けやがった!? こんなの聞いてねぇぞ!!」
「……ハリマウ……もう一度聞く、ノルンは何処だ?」
首筋に剣を押し当て動きを封じる、早く話せ……斬り落としちまう……。
「あ……あぁ……あ、あのガキは王国の賢者とやらが連れて行った、ここには居ねぇ……ほ、本当だ……。向かった方角は王国じゃねぇ……西の山脈の方向に行っちまった……」
「……そうか……」
山脈……、視線を移し見果てる果てには頂上に雪をたたえ連なる山々がそびえ立っている……。あっちに……行けば……ノルンが……。足は……動く……まだ……動ける……早く……助けに……。
「……今だやれええぇぇぇええぃ!」
ハリマウの張り上げた声と共に魔法が、矢が、槍が降り注ぐ、邪魔だ……邪魔だ……邪魔を……するな!!
「なっ!? 何で当たらない!!」
「また……消え……ぐがっ!?」
「王国兵だ! 王国兵を盾にしろ!」
「嫌だっ! やめ……やめてくれええぇぇえ!!」
体が……軋む……瞼が……重い……折れたのは……脚? 腕? 関係ない……どう……斬るか……どう……殺すか……殺意を……もっと深く……もっと黒く……? ??
「グッ、グハハハハハ! 身体強化を封じてやったぜ! これ以上好き勝手にさせて……!?」
「『幾億の刃』」
「なっ!? 何だこのちっせぇナイフは!? 一体何本……そ、そうか魔法だな! こんなもん宝玉の力で! 何だ、消えねぇ! 消えねぇ消えねぇ消えねぇ!! どうなってんだ!!」
「……その宝玉の力は何なのか……お前は勘違いしているようだが……それは使用者の認識する対象の魔法一つを打ち消している、ならば……どうしたらいい?」
「……まさか……この刃一つ一つが単独の……? 有り得ねぇ! 一体幾つの術式を同時起動させてるってぇんだ!? 有り得ねぇ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろ! 消えろおおぉぉお!!」
「念入りに磨り潰すってぇ約束だったな……? てめぇの顔はもう見飽きた……さっさと挽肉になっちまえよ『竜巻!』」
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛!?」
異世界版フードプロセッサーってとこか……っ……駄目だ意識が……まだ……敵の……気配が……
「……や、やっと動かなくなった!?」
「い、今の内だ! やっちまえ!」
「一斉にかかればいけんだろ? いくぞ!」
「ぎゃっ!」「ぐがっ!?」「ガボッ?」
「な、なんだこいつは!? ぐああぁぁあ!?」
……何だ? 誰かが体を揺すってる? 眠い……だが……やるべき事が……まだ……何だ? 聞き覚えのある……声……?
「ダイキ! おい! ダイキ! 返事しろ! お前ぇ一体どうしたんだ!? 何でこんなにボロボロになっちまってんだ! おい! 死ぬな! 目を開けろ!」
「……あ……あぁ……テリオスか……どうしたよ? そんなツラして……」
「どうしたもこうしたもねぇだろが! お前が嬢ちゃん助けに行ったっつーから来てみりゃお前ぇは倒れて襲われてるわあたり一面血の池だわで……」
何だよ……心配そうな顔して……真っ青な顔してお前の方が死にそうじゃねぇか……。あぁ……でも、ありがとよ……起こしてくれて……まだ……動ける……早く……行かなきゃ……
「! あの旗は……増援か! ダイキ! ちぃっとそこで休んでろ! あいつらは俺様に任せ……おい! 寝てろっつってんだろ! どこ行く気だ!」
「悪ぃ……テリオス……迎えに……行かなきゃなんねーんだ……」
「そんな体で何が出来る! 待ってろ、さっさと片付けて俺様も一緒に……」
「早く……行かなきゃなんねーんだ……あいつが……ノルンが待ってる……早く……早く……」
「っっ! あぁ、あぁそうかよ! なら行け! ただし行ったらきちっと帰ってこい! お前ぇの背中は誰にも追わせねぇ! 前だけ見て突っ走って、そして必ず帰ってこい!!」
はは……なんか……こんな台詞前にも言われたっけか……ありがとよ……テリオス……。さあ……行こう……待ってる……早く……迎えに……




