襲撃
から……だに……力が……入らない……。眩し……い? 瞼に遮られた視界の向こう側で……誰かが……呼んでいる……? 俺……は……? あれ? 出勤の時間かな……? 随分休んだから……仕事が……山積み……
「……イキ……ダイキ! しっかりして! 起~き~てっ!」
「う……? あれ……? ま……リー? 俺は……何が……?」
開いた目に映ったのは心配そうに覗き込むマリーと大樹をくり抜いたような見知った天井……? いや、違う……うちの天井じゃない……?? ここは……?
「……そうか……転移で……あだっ!? いつつ……なんだ……これ……」
「良かった……意識が戻らないからどうしようかって……」
どうやら気を失う前の転移は無事成功したらしい、気を失った状態で飛ぶなんざやったこと無かったからな……何事もなくて何よりだ。
「っ! そうだ! 王様は? どうなった!?」
「……何とか持ち直したけど……、内臓を相当やられてる上にご高齢だから……。意識が戻れば……正直ギリギリね……」
「……全部あいつらの思惑通りか……、もう少し俺が早く到着出来ていたら……」
「悔やんでも仕方ないわ、陛下の身柄を奪われなかっただけでもよく出来たものよ。でも転移先に森人の国を選んだのは正解ね、医療設備も薬もそろってるし私の指示で全部動かせる。そこで寝てるアイルとダリアに感謝してやってよね、何日も不眠不休で治療してくれてたんだから」
マリーが指し示す先に白衣に身を包んだエルフの女性が二人壁にもたれかかり静かな寝息を立てている。……見覚えがある、確か戦争時にはマリーのお目付役として影から色々支えてくれていた子達だ、あの頃にもマリーのうっかりやらなんやらから助けて貰ってたっけ……ほんとに頭が上がらない……。
……? 不眠……不休……? 言葉の意味を頭の中で反芻し、じわりと生温い汗が背を伝う。
「……マリー! 俺は一体どれだけ寝ていた!?」
「……五日よ……」
……! 五日!? 五日も寝てたのか俺は!? ハリマウ達じゃ俺が何処に転移したまでは摑めてないはず……なら次に狙われるのは!?
「ノルン……っ!」
「ちょっと待って! きみも今生きてるのが奇跡ってレベルのダメージ受けてたんだよ!? 無茶したら今度こそ死んじゃうって! ノルンちゃんとこにはここに来てすぐ精鋭部隊を送ったから知らせを……っ!」
「それじゃ……遅いっ! マリー、王様の事は頼んだ、俺は……戻る……っ」
「待ちなさいっ! そんな体で行って何になるって……あ~っ! もう!」
……
「っつつ……マリーの言った通りか……全身ガタガタ……だが何とか動く……?」
……何かがおかしい、樹木人達が何かを訴えかけるように葉擦れの音を響かせる。まさか……一体何が? アレス達の襲撃の後特定人物を除いて通れないよう結界は強化しているが……。
「ノルン? ……居ないのか?」
玄関を開けるもいつものような出迎えは無し、静まり返った室内に異常は見受けられない。ただ、台所に中身の冷め切った鍋が置いたまま……。
「……何処に行っちまったんだ……?」
一通り部屋を見回るが人影は無し、いつも通りの整頓の行き届いた部屋、だがいつも通りのその空間がとてつもない違和感を放ち心臓の鼓動をより激しくさせる。
靴は……無い、庭を見回るも畑にも水場にも姿が見えない。そもそも、いつも俺が近付いたらすぐに飛んでくるノルンが俺の帰宅に気付かないはずが無い……。今の状況で外に出るような無謀はしないはず、だが……五日という時間はノルンの平静を奪うのに十分過ぎる。何が起きても……!?
「あれは……!?」
結界の境目に焼け焦げた跡……? あんな跡は無かった……あんな跡は……! 何か良くないことが起きた事は分かる、だが結界の内側なら安全だ結界さえあれば……結界さえ……っ!
結界は無事だった。普段と変わらない、陽光を僅かに歪める半透明の壁……。……そのすぐ側に小さな一人の人影が横たわっていた。




