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虎王ハリマウ

「大丈夫か? まだいけるか?」


「ぜっ……ぜっ……だ、大丈夫……ってかっ……走りながら喋るのきついから……ぜっ……気にしないで走って……!」


 うちを出立してから二日と半日、日が沈んだ街道をひた走る……、休み無しでかっ飛ばしているがブランクがあるのにマリーはよく付いてきてくれてる、流石森に生きる民ってとこか。


「さっきの野営跡が多分今日の昼のやつだな……ってことはまだ無事って事だ……」


「そろそろ国境……はぁっ……近いからっ! 危険よ……けほっ」


「一応これ渡しとくから持っとけ」


 投げ渡した包みを開き、取り出したナイフをマリーがしげしげと見つめる。


「なに? 自決用なら要らないわよ?」


「自決するようなタマかよ、死なね~ためのもんだ」


「分かってるわよ……はぁ……それにしても、器用なもんねほんと」


 ナイフに刻まれた紋様を見てマリーが溜息をつく、まぁ、これを使うほどの事態にならないことを祈ろう……。懸念が杞憂に終わるならいい、無事さえ確認出来ればあとは王都まで護衛するだけだ、なんなら転移で帰ってもいい、だが……。


「……!?」


 灯りの乏しい街道を走りながら夜空を裂いて不気味に笑いかける月を見上げる。と、漆黒に染まった空が突如紅蓮の炎に彩られ、光に遅れて衝撃波と轟音が耳を貫く。


「な……っ! あれは!?」


「あの爆発に魔力は感じない……火薬か……何か? 急ぐわよ!」


 嫌な予感に心臓が早鐘を打つ、距離は……まだ遠い。これ程離れた場所まで届いたんだ、相当な規模の爆発……まさか……いや、無事なはず……頼む!



「ぐっ……こいつは……」


 火薬の爆ぜた焦げ臭い匂いに脂の焼ける匂い……パチパチと燻る炎が薙ぎ倒された木々を燃やしている……。街道の中心には巨大なクレーターが出来ており、そこから放射状に木々や金属の破片、そして()()の肉片と思しき物が散らばっている。


「なんてこと……遅かっ……た……?」


「生存者は……」


 周囲を見渡すも動く物は何も無い、この規模の爆発だ……爆発物の直上に居たなら跡形も残らないだろう、だが残骸の量は護衛の数を考えても少々数が足りない……逃げることが出来たのか……?


「……うぅ……」


 茂みの中から何者かの呻き声……!? 急ぎ茂みをかき分け倒木を取り除く……。


「……そんな……っ」


 そこに居たのは紛れもなき国王陛下、だが、権威を示す王冠はへし曲がり、豊かであった髭は焼け焦げ、そして腹部には……。命があるのは何重にもかけられた結界のおかげか? だがその命もこのままでは風前の灯火だ。


「陛下! 陛下!? しっかりして下さい!」


「……ぐぅっ……ゼェ……ゼェ」


 意識が混濁しているのだろう、焦点の合わぬ視線を宙に泳がせ、助けを求めるように翳した手がパタリと落ちる。


「……! まだ息はある! 急いで医者に見せ……っ!」


「ありゃぁ? なんだなんだ? 生きてるって聞いちゃあいたがここに居るたぁ聞いてねぇぞ?」


 ……覚えのあるしゃがれ声、喉をゴロゴロと鳴らす癖が出ているのは獲物を見つけた喜びか? 茂みをかき分け現れたのは大柄な虎の獣人……。


「ハリマウ……やっぱてめぇだったか……!」


「やっぱ? 何の事だぁ? 儂は爆発を見て何事が起きたかと調査に来ただけだが? 国境警備も楽じゃ無ぇなあ?」


「……よく言うぜ、そんな返り血塗れの姿で説得力あるとでも思ってるのか?」


 言われて初めて気が付いたのか? 自らの口元についた血を拭い、血に染まった両の爪を確認し、してやられたとばかりに自らの頭を掻き毟る。


「こいつは失念しておったぁ……やっぱり爆発は派手だが馬が驚くのが困る、逃げた()を確認してたらこの有様よぉ」


「……隠す気もねぇんだな」


「今更取り繕ってどうなる? 賽は投げられたってぇやつよぉ、ってかあっちは外れだったからよぉ? 吹っ飛んだ荷の確認を……お? 気が利くじゃねぇか、見つけてくれたんかいな?」


 応急処置を終えたマリーが国王を庇うように抱き締める、……こいつと一対一ならまず負けない。だが、周囲からザワザワと近付く気配は数百どころの騒ぎではない……この包囲の中瀕死の国王を庇いながら? 冗談が過ぎるな……。


「探しに来たのは事実だがよ、そりゃあお前に渡す為じゃ無いんだよっ!」


 繰り出した大剣の一閃が馬鹿でかい大鉈に防がれ、金属のこすれ合う不快な音と共に辺りに火花と鉄の焦げる臭いが振り撒かれる。


「ちっ……防がれたか!」


「ぬはははははは! また腕を上げやがったなぁ? だが多勢に無勢、流石の貴様もこの数は捌けんだろう?」


「そりゃやってみてのお楽しみだな!」


 ハリマウとの剣戟をぬって飛びかかる雑兵共を斬り伏せる、一人一人は弱いがこっちは二日半ぶっ通しで駆け抜けた直後である、このまま数に押されて体力を削られては長くは保たない。

 ……畜生、大規模範囲魔法が使えたならなぁ……。いや、今下手な魔法を使ったらマリーと国王を巻き込む、結界で護っても結界に浸透透過した魔力が国王の命を吹き消しちまう……。畜生! 手詰まりもいいとこだ!


「ほれほれ! 息が上がってんなぁ! なんだ? もう疲れたか?」


「はぁ……はぁ……ははっ! 何を言うんだ? 元気いっぱいだぜぇ! っつーかてめーは何時まで部下にお守りされてんだ! タイマン張るのが怖いか? あぁ?」


 精一杯の虚勢、挑発に乗ってくれればいいが望みは脆くも崩れ去る。一体何人斬った? あとどんだけ斬れば終わる? 国王の容態は? まだ大丈夫か? このままやられる訳には……っ!


「ぬおっ! なんだぁ? 投げナイフ? 慣れん武器なんざ使いやがって、いよいよきつそうだな?」


「抜かせ! あれだ、あれ! 俺の新必殺技を見せてやるよ!」


「おっと……ぬはははは! その割には狙いが定まってねえなぁ? 悪足掻きは止めてさっさとその死にかけを寄越せよぉ」


「生憎俺の目の黒い内は簡単には……っ!! がっ……ゴホッ!?」


 なっ……!? 何が……起きた……? ハリマウが何か? ……違う、突っ込んできた奴を斬り伏せたら……毒? 何かの魔法? 体の内側から灼かれるような……!?


「ありゃぁ? 苦しそうだなぁ? 何かあったかぁ?」


 ハリマウがニヤニヤ笑いを崩さずこちらを見下ろし鉈を振り上げる。風切り音を立てる凶刃を何とか躱し、襲い掛かってきた兵を弾き飛ば……!!


「ぐっ……があぁ!? あ゛ぁあ゛あぁ? ゲホッ……ガボッ……!?」


「ダイキ!? 一体どうしたの!?」


 マリーの上げた悲鳴のような声が平衡感覚を失った脳に割れ鐘を鳴らしたように響き、歪む視界の中に自らの吐き出した血反吐が地面を赤く染めていくのが見える……。

 一体……何が……? 体を内側から引き裂かれるような、それとも内側に向け引きずり込まれるような? 体験したことの無い苦痛がガンガンと痛む脳を容赦なく揺さぶり続ける。


「ぐおぉ……ぐっ……ゼェ……ゼェ……ま、まさか……」


 明瞭としない意識の中に浮かんだのは敵意に満ちたあの視線。何だあの野郎……こんなえげつない呪いかけてやがったのか?


「てめぇ……ゲホッ……部下の中に王国騎士混ぜてやがんな……」


「おぉ! 流石は勇者殿、気付いたか! ぬははははは! 話に聞いて半信半疑だったが呪いの威力がここまでたぁ驚いたな!」


「っ……ったく……驚いたのはこっちだ……ぐっ……ハァ……ハァ……これは流石に洒落にならんぞ……」


 全身を襲う痛みに手足が引きつり視界がぼやける、不明瞭な視界に閃く白刃、軋む腕を上げるも力が入らず攻撃を受けることもままならない。……出来ることならここで後顧の憂いを断ちたかったが……。


「おいおい、今のは当たったら死んでたぞ? ケホッ、バカ姫(アルトリア)と組んでんなら俺を殺したら不味いんじゃねーの?」


「はっ、バカがどうこうしようと関係ねぇ! 殺したとして埋めたら終いよ! それにお前を殺してぇのは俺らだけじゃねーんだよ!」


「? ……そいつはどういう……っ」


 ハリマウの合図で周囲に潜んでいた兵が一斉に襲い掛かる、獣人……王国騎士……っっ! 顔を隠されてて見分けなんかつくわけねーだろ!! 纏めて跳ね返すもこれまで以上の痛みが全身を襲い、血も、反吐も、肺の中の空気すらも纏めて体外へと押しだそうと体内を何かが暴れ回る。


「ゲホッ! あ゛ぁあ゛あぁ!! があ゛っ!!」


「おいおい、目も見えなくなったか? どっちに投げてんだぁ?」


「マリ゛イィ゛!!」


 俺が名を叫ぶと同時にマリーが地面にナイフを突き立て、ナイフ同士を繋ぐ光の帯が転移の陣を宙に描き出す。


「なっ!? てめぇ逃げる気か!!」


「ゼェ……ゼェ……逃げんじゃねーよ、ゲホッ、戦略的撤退だ……心配しねーでも次会ったら念入りに磨り潰してやるよ」


 お~お~、毛を逆立てて尻尾を膨らませて……よっぽど雪辱を晴らしたかったんだろうな……はは……。にしても……流石に……きつい……。

 ハリマウが苦し紛れに投げつけた大鉈が転移の結界に阻まれる、歯嚙みして地団駄を踏むその姿が気を失う前に見た最後の光景だった。

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