本音
「さて……魔族の姫よ、貸していた物をそろそろ返して貰いましょうか?」
「なんじゃ? 旦那様に横恋慕か? お生憎じゃが旦那様は妾にぞっこんじゃ、お主の入る隙間なぞないぞ」
「横……恋慕? ……ふっ……フフフ……アハハハハハハ! 私が、あれに? アハハハハハハ!」
「な、何がおかしい!?」
「有り得ない、私があのような物に恋慕の情を? そのような事があるわけないでしょう?」
「なっ……なら! 何の為じゃ!」
「あれは私の所有物、王国の為に、私の為に働く便利な道具、それを魔族に奪われたから取り戻しに来た、ただそれだけのこと……」
「なっ……! 旦那様は物ではない!」
「そもそも、あなたは何をもってしてあれを繋ぎ止めているつもり? 種族も違う、国も違う、異世界からの流れ者に……」
「っ……何が言いたいのじゃ!」
「あれはまだ自分の世界が恋しいのではなくって? 帰りたいと願っているのではなくって? どうせ城の一室で帰りたいと泣いていたあの頃と変わってないのでしょう? 故郷への憧憬に囚われた男をあなたは……魔物と同じ化け物と定義されるあなたは一体何をもって繋ぎ止めていられるおつもり?」
「……っ……」
「夫婦ごっこはもう終わりになさい、おままごとはもう卒業する時よ? あれは私の物、私の道具、私の兵、返却期限はとっくに過ぎてらしてよ?」
「あ~、そりゃ御免被る、お断りだ」
「っ!! あなたどうして……! アレスは? 兵は!?」
や~っぱ案の定いらんこと吹き込んでたか……、このバカ姫め……ノルンが涙目になってんじゃねーか……呪いが無けりゃ挽肉にしてやってるところだぞ……。
「万が一の備えをしてるのは当たり前、お仲間達は全員転移陣でお帰り願ったよ、それに……」
「……っそれに? 何よ!!」
「俺はこいつのもんでこいつは俺のもん、病めるときも健やかなるときも一緒に居るって誓い合ってんの! 新婚生活に余計な横槍入れるとか、馬に蹴られて庭を汚す前にご退場願うぜ『転移!』」
「んなっ……お……覚えてなしゃっ」
百点満点の捨て台詞の途中で転送されていくクソ姫。ったく、ノルンを泣かすとかうちの領内じゃ死刑以上の極刑だぞ極刑。
「ノルン、大丈夫だったか? 何もされてないか?」
「おっ……おまえさまああぁぁぁぁああ! うああぁぁぁぁぁああん!!」
目一杯に溜めた涙を溢れさせながらノルンが抱き付いてくる、断片的にしか聞き取れなかったが相当酷いことを言われたのだろう。俺の胸に顔を埋めてしゃくり上げるノルン……落ち着くまでゆっくりと頭を撫でてやる。
「ひっく……お前様……ぐすっ」
「おぅ、なんだ?」
「お前様は……。……っ! お前様はまだ……その……あちらの……世界に帰りたいのかの?」
「う~ん、帰りたいか帰りたくないかってーと難しい話になるな」
「……っ!」
「帰る方法があるならそれはそれで嬉しい、だが帰る時はお前も連れてく」
「!?」
「何意外そうな顔してんだ? お前置いて俺がどっか行くわけないだろ? いつでもお前がいるところが俺の帰る場所だ、異世界だろうとどこだろうとそれは変わんねーよ」
時が止まったかのように呆気にとられた表情をしていたノルンが、ようやくくしゃっと笑い、改めて俺の胸に顔を埋めてぐりぐりとこすりつける。表情は見えない……だが、感情表現豊かな尻尾を見れば今どんな顔をしているかはよく分かる。
普段から言いたかったこと、これでちゃんと伝えられたかな? ってか改めて自分の台詞考えるとキザったらしくて滅茶苦茶恥ずかしい……。顔、赤くなってねーかな? あ~、畜生かっこ悪い……。
どれだけ抱き締め合っていただろうか? ふと、ノルンが俺の胸から顔を離し目を閉じたまま顔をこちらに向ける……。? ?? ……!? うぇ!? こっ……これは!? え? は? やっぱ……そうだよね? そういう事だよね?? っっ……っ! こ……ここで退いたら男が廃る! いや……でも……じゃない! えっ……えぇい! 行ったれぇえぇぇえ!!




