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異文化交流

「お義母さん、帰っちまったな」


「ぬぅ、そんなに名残惜しいなら付いていけばいいのじゃ!」


「そうは言ってないだろ……ってかそうだ! ノルン、今日誕生日なんだってな?」


「むぅ、そ、そうじゃがそれが何なのじゃ?」


 不貞腐れた表情をしつつもこちらをチラチラと横目で窺うノルン。なんだかんだいっても態度が分かり易い、やはりまだまだ子供だな。


「そこでだ、俺から誕生日のプレゼント♪」


「ぬ……もっ、物で釣ろうなどとそんな見え見えの釣り針に引っ掛かる妾では……」


「ハッピーバースデー、ノルン」


 そっぽを向いて手遊びを始めるノルンに背に隠しておいた杖を見せる、と、チラリとこちらを見て戻した視線が光の如き反射速度で杖に釘付けになる。


「なっ……こ、この杖は……」


「今ある素材で一番良いのを集めて作ってみた、気に入ってくれると嬉しいんだが……」


「うぬぅ! これは世界樹の新芽を……握りの部分の革は灰輝龍ミスリルドラゴンじゃな! この宝玉は……?」


「俺の魔力を結晶化させた霊王石だ、世界樹の新芽に魔力増幅循環の力があるから内蔵魔力は半永久的に保つはずだぞ」


 説明を聞いてか聞かずか、興奮した様子のノルンが杖を振ったり魔力を通したりとはしゃぎ回る。うむ、チョロい、お義母さまの言うとおり機嫌が直ってよかった……。


「ふぅ、ま、まぁ祝ってくれるのであれば素直に受け取るとするかの! その、なんじゃ、母上の料理が冷めきらぬ内に食べるとするかの!」


「おぅ、それじゃ食事にしますか」


 いそいそと食卓に着こうとするノルンがふと、杖の一点に目を留め静止する。と、みるみる間に耳の先まで真っ赤になり杖を抱き締めたままヨロヨロと席から離れた。


「せ、せっかくのりょ……料理じゃが、そういえば妾は少し汗をかいたので風呂に先に入るとするかの! うぬ! そうしようそうしよう! お前様は配膳したりのテーブルメイクを頼むのじゃ! よいか! 頼んだぞ!」


 そう言うと脱兎の如き勢いで走り去るノルン、勢いよくバタリと扉を閉めた勢いで何か固い物が頭に落下してくる。


「あだっ!? ったたた……? なんだ? これは……マリーが前置いて行った本?」


 本の表紙には『全種族網羅! 異種間恋愛のすすめ』と金の箔押しでタイトルが刻まれている。著者名マルグリット……装丁にやたらと拘ってるあたり形から入るあいつらしい、あんなでも何冊もベストセラーを出している作家なのだからこの世界は分からない。

 正直あいつの書いた本ってだけでも胡散臭いことこの上ない、月刊ム〇の方がまだ情報的価値がありそうだ……だが……何故か妙な胸騒ぎがする……。お義母さまのあの含みのある表情、ノルンの反応、もしや何かそれらに対するヒントがこの中にあるのではないか……?

 深い溜息を一つ、そして恐る恐るページをめくる、内容は種族による恋愛観、求愛の行動の差違や婚姻の作法、それらをユーモアを交えつつ様々な視点から切り込んでいく……。……畜生、これ面白いな、口に出して言ったらあいつのドヤ顔が浮かぶから口が裂けても言わないが……。と、あるページが目に留まる。


魚人族マーマンの求愛……? なんか知ってる種族のこういうの見るのは小っ恥ずかしい感じがするな……ふむ……ぬ!?」


『魚人族の求愛に関しては彼等の生態が強く影響している、彼等は魚人と呼ばれているがその実変温動物、とりわけ両生類や爬虫類に近い体内構造をしている、その為狩りに出て体を冷やした意中の男に女性達は寄り添い、その温もりをもってして疲れを癒すのである。浜辺で抱き締め合う恋人たち! 私だったら体に炎を纏ってお出迎えするのに!』


 ……焼け死ねばいいのに……、ってか多頭竜ヒュドラ退治の時の魚人族達のあれはそういう事か……。んで水月鮟鱇ルナアングラーや多頭竜の時にノルンがやたらご機嫌だったのもそういう事……かぁ……。う~む……他にもやらかしてる可能性あるなこれ、他のページは……と。


蛇人族ラミアの女性は髪を非常に大事にしており決して他人に触らせない事で知られているが心許した異性には別らしい、特に入浴時に洗髪を任せるのは最上級の愛情表現である』


鳥人族ハーピーの男性は意中の女性に求愛を行う際に住処となる家を建てる。その家の子供部屋の数の多さが愛の大きさと言われており、多ければ多いほど家庭は円満になるという伝承がある』


 ……異世界の恋愛事情……わからん……。ってか完全に無意識でやらかしてたな俺……異世界異文化交流って難しい……。

 っと……そういやノルンの反応の答え合わせはどこだろう? あの反応は確実にやらかしたなこれは。えっと……このページか? あ~……なるほど……。


『龍神族は魔王に代表される魔族の最強種として知られているが意外とロマンチックな一面もあるという、龍種に知られる特徴として宝飾品や魔力が豊富な物への執着、収集癖があるが龍種の系譜に繋がる龍神族にもその傾向は見られるようだ。龍神族は求愛や求婚の際に様々な宝飾品を贈る風習があるが、宝石や魔結晶、中でも初代魔王が求婚の際に贈ったとされるユニコーンの角を使用した宝飾品はそれらの中でも特別な意味合いがあるとされる。初代魔王はユニコーンの角を杖に加工し思い人に贈ったといわれるが、今では入手困難で加工と細工の難しいユニコーンの角を贈る事が出来る者はそうそう存在しないだろう。はぁ……私も昔はそういったプレゼントを沢山頂いたもので色々な男達が私を通り過ぎ(略)』


 ……つまるところ俺は無意識に初代魔王に倣った由緒正しいプロポーズをノルンにしていた、と……? はぁ……マジかぁ、いや、良いんだけどね、構わないんだけど……だが、やられた~っ!! そりゃお義母さまもあんな含みのある表情するわ! ってかマリーのやつユニコーンの角渡してきたとき絶対これ狙ってただろ!


「あ~っ、もう! こういうのはもうちょっと時間をおいてだなぁ……無闇に期待させたらまたノルンが暴走するだろうが……」


 最近は過剰なアピールとかもなりを潜めて落ち着いて来てたのに……。せめてあと五年は今くらいの距離感を保ちたかったんだがなぁ……その間に愛想を尽かされる可能性もあるが、まぁそれはそれとして……いや、それは嫌……うん、嫌だな、正直……。


「うぬ? お前様どうしたのじゃ? 何を一生懸命に読み耽って……ぬぬぅ、頼んでおったのにテーブルメイク出来ておらぬではないか!」


「ふぇ? うぉっ!? い、いや、済まない済まない、ちょっと気になる事がな……」


「うぬぅ、怪しい……その背に隠しておるのは何じゃ? まさかいかがわしい物ではあるまいな? ?? なんじゃ、マリーの本かの?」


 慌ててお手玉してしまった本をノルンが尻尾を器用に使い取り上げる、いや、見られて困るもんでもないっちゃないが……いや、俺が知らずに色々やってたって気付いて落胆するか? う~む、過剰な期待を持たれるのも困るが悲しむ表情を見るのはもっと嫌だ。どうしたものか……。


「なんじゃ、そんなに慌てて、はは~んさては『今まで無意識にやらかしてた事を今知ったというのがバレてしまった!』といったところかの?」


「んなっ!?」


「言ったじゃろ? お前様の顔を見ればぜ~んぶ分かると♡」


 果てしなく何処までもお見通しですか……。何この子ほんと怖い。


「心配せずとも妾も理解はしておるよ、そういう迂闊で隙だらけな所もお前様の愛しい部分じゃしな♡じゃが……少しだけ期待する位は良かろう? 愛しき人に貰ったプレゼントじゃ、特別な物であると思う位は許しておくれ。ささ、食事の準備は妾がしよう、お前様も風呂に入って汗を流してくるがよかろう♪」


「えっ? あ、あぁ……ちょっ!」


 こちらが返事をする前に捲し立てられるままに背を押され風呂場へと追いやられる、いや、特別じゃないとか言ってないし……そもそも特別だからこそ頑張って気合い入れて杖も作ったし……。とはいえども今どうこう言っても言い訳にしか聞こえないだろうな。……う~む、ままならん……。


「……あと一押し……じゃの」


「……? おーい、ノルン、今何か言った?」


「なんでもないのじゃ~! ゆるりと汗を流してくるのじゃぞ♪」


 声の調子はいつも通り……か、う~む……ノルンを暴走させない程度に気持ちを伝えるには一体どうしたらいいものか……。こういう時に自分の口下手、気の利かなさが恨めしい……。

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