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右から何かが~

「お前様どうしたんじゃ? 急に外に飛び出して」


「あ、いや、なんでもない、ちょっと庭に地獄が発現してないか気になって……って、セラスさんは?」


 台所を見ると山と積まれた下拵え済みの魚と弱火にかけられた鍋だけが残され、お義母さまの姿が見えない。えっ? 何処に行った? まさか寝室とか見られてないよね? マリー監修のあの恥ずかしい寝室だけは勘弁して頂きたい!


「母上なら掃除をするって上に……」


「掃除……? ……!!」


 掃除っ……て二階はともかく三階は森になってる上に植物モンスターの見本市! あかん! 嫌な予感しかしない!!



「あら……随分散らかっちゃってるわね……一旦全部()()()()方がいいかしら……」


「ちょおっと待ったあああぁぁぁぁぁあ!!」


 右手を翳し明らかに物騒な魔力を集中させるお義母様の腰に勢いのまま縋り付く、が、勢い余ってそのままその場にもつれるように倒れこむ。


「あら? どうしたのダイキさん、そんなに慌てて……」


 驚いた表情のお義母様、無事な様子の部屋、固まった樹木人トレント達を見比べホッと一息。と、不穏な気配に振り向いた先に怒りの表情のノルン? あれ? なんで?


「お~ま~え~さ~ま~! 妾というものがありながらっ!」


「ふふふ、ダイキさんこんなおばさん押し倒しても楽しい事なんてないでしょうに」


 言われて見てみればこの姿勢、『男子が憧れるあんなこといいな♪できたらいいな♪シュチュエーションリスト第三十六番:美人な未亡人に床ドン(喪服や暗色の服装でポイントアップ♪)』ではないですか。


「いっ……!? いやいやいや! そういうつもりは全く無くてですね! 申し訳ない!」


 慌てて身を起こしお義母さまを引き起こそうと手を取る。……? 少し震えている? そうだよな、絶大な力を持つ魔王様でも一人の女性でもある。よく知りもしない男に押し倒されたら怖いに決まっている、こういう気遣いが出来ない辺りがにぶいだのなんだの批判される一因なんだろうなぁ……。

 自己の浅薄さに少々嫌気がさしながら握る手に少し力を込め引き起こす、と?


「ひあっ!」


「うおっ!?」


 握った手からお義母さまの手がすり抜け、慌て支えようと手を突き出したまま足下に広がったスカートに足を取られる。

 暗転する視界の中で俺が最後に感じたのは右手に感じる豊満で柔らかな感触と、凄まじい勢いで頭蓋を右から左に打ち抜くノルンの尻尾の感触だった。



……



「……から……少……大胆に……」


「うぬ……じゃが……上手く……かの?」


「……男性……そういう……嫌じゃ無……大丈夫……」


 なんだ? 話し声が……? っっつつ!? 痛ぁ……ノルンの奴手加減無しでフルスイングしやがったな……。そして情けなくも俺は気を失ってしまったと……。

 天窓から巨大なドラゴンが上空を旋回してるのが見える、って事はここは……。


「あら? ダイキさん気が付いたみたいね、様子を見に行きましょう?」


「嫌じゃ! あんな浮気者なんか妾は知らぬ! そんなに母上がいいのなら母上と存分にイチャつけばよかろう! ふん!」


「あらあら……仕方ないわねぇ……」


 扉の向こうからノルンとお義母さまの会話が聞こえる、あちゃ~……ノルンへそ曲げちゃってら、こりゃしばらくかかりそうな予感……。

 だが……だがしかし、あのおっぱいの破壊力はヤバかった、何か体内から浄化されるような心地がしたがあれ多分呪い解けかけてなかった? あのまま意識を保ってたら危ないとこだった……? ?? 危ない? なんで? 呪いが解けるなら万々歳のはず? あれ?


「ダイキさん? 入っても大丈夫かしら?」


「あ、はい……ってちょっ! ちょっと待って下さい!」


 流石に寝室(このピンクい部屋)をお義母さまに見せる訳には……! ……いや、ここに運び込まれた時点で既に手遅れか……。いやん恥ずかしい、この部屋だけは見せたくなかったのに……。


「体調は大丈夫? 顔色は良いみたいだけど……どこか痛いところはないかしら? あの子ったらカッときたら手加減出来ないから……」


「いや、大丈夫です、まあああいうのは慣れっこというか……。あ、すいません、こんな落ち着かない部屋で応対する事になりまして……」


「素敵な寝室じゃないですか♪何でもマリーさんが異世界風をイメージしてデザインされたとか……あちらではこんなデザインが流行りなんですか?」


「アハハ……いや、まぁ……」


 異世界風は異世界風でも異世界の『平成初期のラブホテル風』なんですがね……。口が裂けても言えれんが……ってかマリーの奴何処からこんなデザイン仕入れて来たのやら……、千年も生きてるんだからどっかで転移者に聞くかどうかしたんだろうかなぁ。


「無事が確認出来て安心したわ、それじゃあそろそろお暇しようかしら」


「引き留めてしまったようで申し訳ありません、もう少しゆっくりとして頂けたら良かったのですが……」


「実はね、仕事が山積みでそろそろ帰らないと不味いのよね……。今日は我が儘言っちゃったから暫くお城に缶詰めね」


「そんな大変な中で時間を取らせてしまって……!」


 よくよく考えたら今戦後処理で一番大変な時期のはず、あれ? だけど手紙には手が空いたからって……? 俺の頭の中を見透かしてかお義母さまがにっこり微笑み口を開く。


「無理を言ってここに来たのは可愛い娘の旦那様に会ってみたかったから、それと、今日はあの子の誕生日なのよ♪」


「うぇっ? あ、え? 誕生日……? なるほど……」


 そういや誕生日、知らなかったな……。ここに来てバタバタしっぱなしだったから気にする間も無かったが、ちゃんとこういう記念日とかを気に出来ないあたり『女心が分かってない』って言われる所以だろうなぁ……。


「あとは領土の割譲についての正式な話もあったのだけど……まぁ掻い摘まんで言うなら全権を移譲するから建国でもなんでもしてちょうだい☆ってとこかしら? さて、お料理は腕によりをかけたから二人で食べてね♪ただ……あの子の機嫌が……ねぇ? ああなったら大変よ? そうねぇ……何か丁度いいプレゼントとかあれば……」


 領土の全権移譲って……それ本当にいいの? ってか建国とか……勝手にほいほいしていいもんじゃないだろうに……。ともあれ目下の問題はノルンの機嫌か……はい、存じております、身に染みてますとも。ああなったノルンはどうにもこうにも厄介が過ぎる……んでプレゼントねぇ、プレゼント……。あっ!


「プレゼントといったらあれが丁度いいかな……っと」


「あら? 何かいい物があるのかしら?」


「いえ、本当はノルンの魔法特訓が完了した時のプレゼントの予定だったんですが……これですね」


 寝室の隠し戸棚から取り出しましたるは一振りの杖、石突きの部分には彫刻を施したユニコーンの角、柄は世界樹の新芽を使用し握りには灰輝龍ミスリルドラゴンの革を、杖の先端には俺の魔力を限界まで込めた霊王石をあしらったこの世に二つと無い豪華な杖なのだ!

 ……とまあ、この世界の物の価値がいまいち分からないから皆に聞いた貴重な物を全部ぶっこんだ……あれだ、ロマンたっぷり『トッピング全乗っけ』的な……どうだろうか? これで機嫌が直るかな? お義母さまの反応は? ……何だ? 固まってる??


「こ……この杖は……?」


「俺が作った物ですが……何か問題がありますかね?」


 呆気に取られた表情を浮かべていたお義母さまが俯いたと思ったら肩を震わせ笑い始める、?? 何? 俺何か変なことした?


「ぷっ……ククク……アハハハハハハ! だ、ダイキさん、フフッ、マリーさんから聞いてたけれども色々規格外な人というのは本当だったのね」


「えっ? あっ……はぁ……??」


「分かってないって表情だけど、使われている素材は全て一級品、そしてその組み合わせが絶妙ね。霊王石からの魔力が杖の内部を巡って注いだ魔力を整流している、軽く見ても魔力の変換効率が三倍……いや、それ以上ね。石突きの部分のユニコーンの角が魔力を再度杖の先端に循環してるのね……それに魔力循環のお陰でこの世界樹の新芽は生きている、術者と一緒に成長を続ける杖といった感じかしら? どこの国にあったとしても、国宝として宝物殿どころか地脈に繋いで国の礎に使う類いの物よ」


「うぇっ? ま、まさかそんな……ねぇ?」


「本当かどうかはダイキさんにとっては関係の無い事なんでしょうけどね、フフフ……それに……」


「それに?」


 含みのある言い方を訝しむ俺にお義母さまが片目を閉じ悪戯に笑う、思わず見とれて頬を染めた俺にお義母さまが愉快で堪らないと言った様子で杖を手渡し立ち上がった。


「何でもないわ♪素敵な杖ね、それならきっとあの子の機嫌も直るわよ、私が保証するわ♪」


「ならいいんですがねぇ……」


「さて、護衛の皆が待ちくたびれてるでしょうからそろそろ行きますね、ふつつかな娘ですけどよろしくお願いしますね♪」


 こちらを振り向き手を振りつつ扉に向かうお義母さまに深々と礼をして見送る、見えなかったが扉を開いた瞬間『痛っ!』と声が聞こえたのは聞き耳を立てていたノルンだろう。寝室の扉は防音なのを知ってるだろうに……。

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