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お姑さんは魔王様

「母上!」


 ノックの音に弾かれるように立ち上がったノルンが扉を開け放ち、顔を覗かせた人物に飛びついていく。と同時に辺りを満たした重圧プレッシャーがまるで初めから無かったかのように消え失せ、世界が色を、音を取り戻してゆく。

 重圧から解放されたたらを踏みそうになった脚を叱咤し、俺も堂々と、しっかりとした足取りを意識し玄関へと向かう。力を込めないと膝が笑いそうなのは内緒だ。


「こら、ノルン。いきなり飛びついて吃驚してらっしゃるだろ? 一旦落ち着きなさい」


「むうぅ……じゃが久し振りなんじゃから……」


 ふくれっ面をしたノルンの頭を撫でつつ扉をくぐった婦人の横顔が優しい微笑みを浮かべる。


「ふふふ、いいんですよ、いつもの事ですから。ノルン、少し見ないうちに大きくなったわね。お初にお目にかかります、私はファフニール・セラスフィア・フォン・ニブルヘイルでございます。皆にはセラスと呼ばれていますのでダイキさんにもそう呼んで頂けると嬉しいです」


 先程まで辺りを満たしていた重苦しい魔力からは想像もつかないおっとりとした優しい声に面食らう。そしてノルンを受け取りつつ合わせた視線に再度驚かされる。

 透き通るような白い肌、サファイアを思わせる輝きを閉じ込めた瞳にノルンによく似た炎のような赤い髪、漆黒のローブから覗かせる豊かな谷間に視線が吸い込まれそうになり……慌てて目線を逸らした先にふくれっ面のノルン……。


「……お前様、どこを見ておるんじゃ? どこを! いくら妾の母上が美しくても浮気心を持ってはいかんぞ?」


「な、なななんも見てぬわぃよ? やだなぁノルン、何を言い出すんだい? ハハハハハハ」


 まぁなんつーか男性の本能というか何というか……。それにしてもハリウッド女優が一般人に見えるレベルの美貌にスタイル。

 うん、正直激好みってかそう言うのも憚られるレベルの美しさ、あの武人然とした武骨な先代魔王がどうやって口説いたのかが気になるなぁ……。


「失礼致しました、さしたる歓待の準備も出来ていませんがどうぞお上がり下さい」


「あらあら、そんなに畏まらなくてもいいのよ? ノルンの旦那さんなんだから私にとってもあなたは息子、なんなら『おかあさん』って呼んでくれてもいいのよ♪」


 いや、そうは言っても相手はこの世界を二分する広大な魔界を統べる魔王様ですからね? ってか見た感じ年齢で言えばノルンより魔王様の方が俺に近い? 下手すりゃ年下? そんな相手に『おかあさん』って……大いにアリ……じゃない、ないないない……。


「それにしても母上、来る前からあのように魔力を撒き散らしておっては周囲に迷惑であろう? 一体どうしたのじゃ?」


「いや、だってね? この子達が久し振り過ぎてノルンが顔を忘れてるんじゃないのか? とかって脅かしてくるから不安で不安で……」


 お義母様の背後に控えている鎧装束の兵達が口元を隠し肩を震わせている。よくもまあこんな力を持つ相手にそんなからかいを……。

 だがそういう事が出来るのも家臣との良好な関係が出来ていてこそ、ということか……。力だけじゃない、治世に置いての才能がこの方にある事がこれらのやり取りからも見て取れる。


「それでは我々は外で待機しております、ごゆるりとお過ごし下さいませ」


「ええ、お疲れ様。何か来るって事は無いだろうからあなた達もゆっくりしていてね」


 一礼して退出する護衛達を見送り、ふと表情を引き締めた魔王様がこちらを向き直り深々と頭を下げる。


「うぇっ!? いや、えっ? っ! あ、頭を上げて下さい! 私には下げられるような事は何も……」


「この度は夫の願いを聞き届け、ノルンを御守り下さった事への感謝の意を表する為こちらにお邪魔させて頂きました。誠にありがとうございます」


 非公式ではあれど世界の半分を統べる王が頭を下げる、その意味の重大さに背筋を冷たい物が伝う。

 いや、これは王としてではない、ノルンの親としての感謝の意であるのだろう。……だがそうとしても相手は魔界の王でありその上お姑さんである、居心地が悪い事この上ない。

 ってかそういやこっちに召喚された時にも人界の王様に頭を下げられたっけ……。事情は違えど共に娘に関してのこと、一国の王であろうとも人の親であるって事なんだな……。


「私は感謝されるような事は何も……それに私は旦那さん、先代魔王を……」


「? ああ、そういう事ね? いいのよ、あの人色々疲れ切っちゃって休みたがってたし。今頃諸々から解放されてゆっくり羽根を伸ばしてるんじゃないかしら? あなたの居た世界や人界では死は終わりなのかも知れない、だけどこの魔界では死は新たなスタートラインなの。だから気に病む必要は無いわ」


「なんじゃお前様、そんなことを気に病んでおったのか? 父上は自ら望んで選択なされたのじゃ、気に病む方が逆に失礼というものじゃぞ?」


 いや、散々悩んでたのにそんなにあっけらかんと……。まぁ確かにそうかもしれないが……だがやはり自分の常識と照らし合わせるとモヤモヤとしてしまう。いくら言われても魔界の死生観ってのは馴染まないなぁ……。

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