落とし前
「……つまりこいつがうちの親父が死んだ元凶ってことか……」
「ジャクリーン、じゃが……」
「分かってるよ! 憎いのは憎い! だけど個人的な恨みと戦争の結果は別だ、分かってる……分かってる……。ただ、親父はあの世でどう思ってんのかなぁ……ってさ……」
「そこでネクロス、お前の出番だ」
『儂? わっ……わわ儂を殺して溜飲を下げようとでも!? 頼みの内容がハード過ぎるぞ!』
それでもいいがそれではジャクリーンの情操教育上問題が……。復讐してはい終わりっていうのじゃ何も変わらないしな……。
「子供の前で殺す殺さないなんて物騒な話は無しだ、その意思に関しては本人に聞こう」
「本人??」
……
「なるほどなぁ……ネクロスの死霊術でグスタフと嫁さんを呼び出してやるってか」
「ジャクリーン嬉しそうじゃのう、あそこまで屈託無く笑うあやつは……あぁ、さっき見たのぅ……」
「使えるもんは何でも使う、折角戦争が終わったんだ、恨み恨まれは無しにしておきたいしな。それにグスタフの性格だ、死んで相手を恨むタイプの奴じゃねぇよ」
「おっ? 話終わったみてぇだな……」
楽しそうに笑い合う三人が抱き締め合い、ジャクリーンの頭をグスタフが優しく撫でる。周囲を囲む牛達が見守る中、消えゆくグスタフがネクロスに向かい親指を立てニカッと笑い……。
「……これは許した? でいいのかな?」
キラキラと光の粒子に囲まれ召されてゆくグスタフ夫妻、戦争が終わればノーサイドの精神、誠に天晴れ! ……と、グスタフが何かを呟くと同時にネクロスの顔が青ざめ、天を指していた親指がゆっくりと地に向かい反転する。
「「「あっ……」」」
笑顔を崩さぬグスタフが消え入り端に確かに口をこう動かした。
『くたばりやがれ』
それを合図に襲い掛かる牛、牛、牛。跳ね上げられ、踏み付けられ、あっという間にぼろ雑巾のようになるネクロス。
「うわぁ……ってか何で牛達の攻撃が通ってるんだ?」
「ジャクリーンじゃ、あやつは付与術者の才能があるみたいでの、暇を見て教えておったのじゃ。お前様も『魔法剣~♪』なんて言いながら剣に属性付与しておったじゃろ? 人界では未発達な分野じゃから物珍しくはあるかのぅ?」
確かによく見てみればジャクリーンが高笑いをしながら何らかの術式を発動させている、復讐するは我にあり……ってか? ちょっと子供がしていい表情じゃないぞこれは……。
「それにしても……ネクロスも仮にも魔界の一軍を任されていた将軍だぞ? 牛達相手にあそこまでボロボロになるか?」
「あ~、こりゃあれだな。嫁達にゃあ護身用として闘気術を仕込んでいるからな、それでああなってんだろ」
「うわぁ……」
人界最強の闘気術士に闘気術を仕込まれた牛の群れ……道理で俺も撥ね飛ばされるはず……。ってかそんな群れに囲まれるとか考えただけでも悪夢でしかない……。
「あ~あ~……こりゃひどい……」
「良い連携してんなぁ……普段の訓練の成果がでてんなこりゃあ」
魔界屈指の実力者であるはずのネクロスが何も出来ぬままにただただ蹂躙され、風に舞うぼろ切れのように舞い踊っている。
いや、これは止めた方が……復讐は何も産まない……ってことは無いか、いやいや、こんな結果は故人の望む事では……あ、故人の指示だった……。ジャクリーンの情操教育に悪いが……いっそ完膚無きまでにやられればネクロスも懲りるか?
悩めども悩めども答えが……と、悩む俺の横をすり抜けてノルンがジャクリーンに近付いてゆく。
『うぶっ! ごはっ? ガボッ!?』
「ジャクリーン、そろそろ気が済んだであろう?」
「いいや! まだだね! こいつに徹底的に思い知らさなきゃ気が済まない!」
「ふむぅ……じゃが伯父上は殺しても死なぬ不死身じゃからのう……。いつまでもこうしておるわけにもいくまい?」
「だからって……っ!」
『の……ノルンちゃん……た……たす……ぶべらっ!?』
「伯父上も反省しておるようじゃ、ここは妾の顔に免じて水に流してくれまいか?」
「みっ!? 水に流すだぁ??」
「そう、『水に流す』じゃ」
ノルンが怪しく微笑んでいる……。




