お姫さん
「痛たた……まさか牛に吹き飛ばされるとは……っ! ジャクリーンは!?」
「おぉ! お前様無事じゃの? 怪我は無いようじゃが……どこぞ痛む場所は無いかの? ジャクリーンは……見ての通りじゃな」
ノルンの指す先を見ればジャクリーンが牛の群れに囲まれ楽しそうにじゃれ合っている……ってかキャッチボールされてる? まぁ本人が楽しそうだからいいか……。
「とりあえず本人の発言と状況を鑑みるに、テリオスが連れて来たこの牛達は元々ジャクリーンのとこの牛だったみたいだな」
「なんというか……世界は狭いのぅ……」
目まぐるしい状況に少々頭が追い付かないが感動の再会となったようで何より?
だが偶然なのか何なのか……まさかテリオスが連れて来た牛達がねぇ……あいつ分かってて連れて来たのかね?
「おぅおぅ! こいつぁ何の騒ぎだ? ……? なんだダイキに嬢ちゃんか、ってかうちのやつらが騒がしいがどうなってんだ?」
「お、丁度良かった。いやちょっと聞きたいんだけどさ、あの牛……じゃない、お前の嫁さん達って……」
「うおおぉぉおお!!」
「ぬがっ!? なっ? なんだぁ!?」
丁度良く現れたテリオスに声をかけようとした刹那、横から勢いよく飛び出した影がテリオスに突進する。不意を突かれたとはいえテリオスがグラつく程の突進、バランスを崩したテリオスが一体何事かと目を白黒させる。
「うわああぁぁぁああん! 生ぎでだぁ! 生ぎでだよぉ゛!! うあああぁぁぁあ!」
「なっ!? なんだなんだ? 何もんだこの嬢ちゃんは!?」
「あ~、そいつはだな……覚えてるか? グスタフだよグスタフ、あいつの娘のジャクリーン……」
「はぁ!? なんであいつの娘がこんなとこに……って……寝てる?」
見ればジャクリーンがテリオスにしがみ付いたまま寝息を立てている、あ~……昨日夜中まで眠れなかったっぽいからなぁ……。
「昨日夜更かししたからじゃの、早く寝ろとあれ程言ったのにのぅ……」
「一体何がどうしたってんだ……? とりあえず事情を説明してくれ! ってかこっちも頼みたいことがあっからよぉ、まず家に入ろうぜ」
テリオスが暫くジャクリーンを引き剝がそうと四苦八苦していたが、やがて諦めたように溜息をつき家を指差す。そのままジャクリーンをぶら下げたまま歩くテリオスの後をニヤニヤ笑顔のノルンがスキップしながらついて行く。
なんつーかテリオスも混乱しているようだが俺も情報量が多すぎて処理しきれない、テリオスからの頼みってのも気になるんだよなあ……何事も無ければ良いんだが……。
……
「んで、何がどうなってこんなことになったんだぁ?」
相変わらずしがみ付いたまま眠っているジャクリーンをそのままにテリオスが眉間に皺を寄せて溜息をつく。気持ちは分かる、分かるが俺にも訳分からん、とりあえずジャクリーンが起きないままじゃ真実は何も分からない。
「とりあえずジャクリーンが目を覚まさなきゃ全ては予想でしかないな」
「予想出来るのは『テリオスが解放した牧場の牛達がジャクリーンの実家のものだった』『以前ジャクリーンが言っていた憧れの人とやらがテリオスだった』じゃの」
「はぁ? 憧れだぁ? 俺らは獣人だの混じりもんだのと蔑まれても憧れの対象になんざなったこたぁねえぞ? 挙げ句の果てに俺ぁ今はお尋ね者ときたもんだ」
「いや、お尋ね者になってんのはお前が牧場襲撃して牛達連れて逃げたからだろ……」
まあお尋ね者になった経緯は置いておいてだ、テリオスの言うように人界での亜人差別は根強い物がある。見た目が極めて人族に近いエルフやドワーフ達ですら『魔族混じり』なんて影で揶揄される事があるほど……。
魔物に見た目が極めて近い牛頭人や狼人なんかが影でどのように言われているかなんか推して知るべしってとこだ。
まぁ、人界での最大勢力が人族ってだけで普段各々の国で生活してるから、大部分は差別なんか大して気にしていないらしいが。
「それにしても、こいつがグスタフの娘でうちの嫁共が元グスタフの牧場出身ねぇ……。世間は狭いっつぅが狭すぎんなこりゃあ。ま、通りで嫁共が『お姫さん』『お姫さん』うるさかった訳だ、こっちはあの我が儘姫でも来たかって一瞬びびったぞ」
「流石にどんだけ無鉄砲で考え無しでも魔境までは来ないだろ? 仮にも王族だしな」
いくら無計画で世間知らずでも流石に身の危険のある場所にホイホイ立ち入りはしないだろう……しないよな? しない……はず? 王様もいるしな……うん。ってかそもそも立ち入ってくる理由も無いしなぁ……。
「王族……ねぇ……。王族云々は当てにならんな」
「? なんで?」
「ほれ、そこに魔界の王族が居んだろが、しかもどっかの女王まで頻繁に出入りしてやがる。それに俺も末席だが一応王族の係累だ」
「あっ……」
確かに王族、紛う事なき魔界のお姫様。ってか忘れがちだけどマリーもそういや女王様だったよなぁ……、ってかテリオスが王族とか初耳なんですが? 何? この土地って王族を呼び寄せたりする呪いとかあるの?
「まぁなんにせよ警戒しとくに越したこたねぇだろ、どっかの誰かさんが買い出しついでにまた騒ぎを起こさんとも限らねーしな」
「うぐっ……マリーの奴から聞いたのか……そこら辺はまぁ気を付けるようにするよ」
全く痛いところを突いてくる、とりあえずはマリーが言うには大丈夫らしいから楽観してても……いや、だがマリーだしなぁ……。
「っと、そういや何か頼み事があるって言ってたな。なんか厄介ごとでもあんのか?」
「それがちいっと困った事になっててだな、まあお前らに関係あるっつーかお前らが原因っつーか……」
「? なんだそりゃ?」
顔を見合わせ首をかしげるノルンと俺、俺らが原因? 心当たりが全く無いんだが……。
「ぷあっ! ゆ……夢!? ……夢じゃ……ない! うわああぁ! 本物だ! 本物のテリオスだ!」
「あ~、また騒がしいのが目を覚ました……」
テリオスが溜息混じりに口を開こうとしたその時、ハッとしたように目を覚ましたジャクリーンが辺りを見渡し、引き攣り笑いを浮かべるテリオスに気付くや再度しがみ付きはしゃぎ出す。
「まぁとりあえずこいつにも関わりのある話だ、ちぃっと納屋まで来てくれや」
ジャクリーンにも関わり? テリオスの言葉の意味が分からず、再度ノルンと俺は顔を見合わせるしかなかった。




