お散歩
雲一つ無い晴天! 照りつける太陽! なれど風は優しく肌を撫で、陽気に思わずあくびがでる。
散歩日和に風が運ぶは新芽の香りにそよぐ草や枝の音、魔獣の咆哮、甲高い悲鳴、大地を染める血の臭い……。
「うわあぁぁぁああ!! ちょっ! ちょっとタンマ! くわっ……食われるっ!」
「ちょっ……暴れると危ないぞ? 死にたくなけりゃしっかり背中に捕まってろ! おぉっとお!」
周囲を囲む魔獣達が爪を、牙を、魔法を放ち襲い掛かってくる。ちょっと散歩のつもりだったが今日は魔獣達が元気だねぇ。
「お前っ! これの何が散歩だよっ! 連れ出して俺を殺す気だろ!」
「ハッハッハ、何をおっしゃる。殺すつもりならとっくにこいつらの口に放り込んでるよ、あ、それともあれか? ネタ振りか?」
「んなっ……! ぜっったい! ずええぇったいやんなよ!? 死んだら化けて出てやるからな!!」
本気で放り込むつもりも無いが化けて出られても困る。アンデットが家までわざわざ訪ねてくるなんざネクロスだけで十分だ。
「あんま暴れるとほら、暴嵐虎に齧られるぞ?」
「いやああぁぁぁぁあ! 早く! 早く倒せよ! 早くうぅ!」
「ハッハッハッ、折角の楽しいお散歩だ。のんびり楽しもうじゃないか♪」
「てっ……! てめえ覚えてろよ!! ぜってぇぜぇっってぇ許さないからな!! このっ……っっばーか! ばあぁぁぁあかっ!!」
こんだけ悪態ついて暴れ回る元気があるならまだまだ余裕だな。周囲のパトロールも兼ねて少し遠回りでいきますか、最近あんまし魔獣を間引いてなかったからしっかり仕事をしないとな。
……
「よーし、着いたぞ~」
「こっ……殺ふっ! てめぇぜってぇいつか殺ふぃてやるぅ……」
腰砕けになりながらもそんだけ吠えれりゃ上等上等。まぁ涙でぐしゃぐしゃになった顔を見ると罪悪感も沸いてはくるが……、ここいらの現状をしっかり把握してもらえたのだと考えよう、うん。
「ぐすっ……ずびっ……けほっ! はぁ~はぁ~、っふぅ……。んで! ここ一体何処だよ? 周り畑だらけだし何あのでっかい川、いや……海??」
「川で合ってるよ、ここは我が領初の村だ」
「村? んなこと言って畑以外何も……」
「おぉ! ダイキ様! いらっしゃるのならばご連絡下されば準備を致しましたのに」
目の前の川から勢い良く飛び出した影にジャクリーンが慌てて俺の背後に隠れる。隠れるついでに背中を押してきたのはさっきの意趣返しか? 俺に何かあったら生きて帰られない事が分からんでもないだろうに……。
「パーチェさん久し振り、カンパ君とイナちゃんは元気? ってか連絡も何もここらで自由に動けるの俺だけだろ?」
「ハハハ! 仰る通りですな。おかげさまで皆元気でやっておりますよ、ところでそちらのお嬢さんは……?」
パーチェさんがジャクリーンを見て首をかしげて困惑顔、視線を向けられた当のジャクリーンは警戒状態の猫のように威嚇? をしている。まぁ魔界の僻地にどう見ても一般人な人間の少女が居たら不思議に思うのは仕方ない。
「色々事情があってな、今うちに滞在して貰ってる。今日は領内を見て回ってる最中だ」
「事情……ふむ。小間使いが必要であれば我等に言って下されば……」
「んなっ!? 小間使い!? んなわけねーだろ! 俺は! この幼女性愛者に! 誘拐されてきたの! 誰が小間使いなんかやるか!」
「なんっ……!?」
ちょっと待て人聞きが悪い! 言うに事欠いて少女性愛者だ!? 俺はそんな気は全く無いの! どっちかってとボインボインのおねーちゃんの方が……。
「ふむ……なるほど……あの場で年頃の娘達に見向きもしなかったのはそのような……。ダイキ様、もし宜しければうちのイナをお屋敷の方へ……」
「違う違う違う違う! そういうんじゃない! これには海よりも深い事情があってだなぁ!」
「分かりました、そういう事に致しておきましょう。癖というものは誇らしげに喧伝するものではありませんからな。いやいや、分かっておりますとも」
「だ~か~ら~!」
全くどいつもこいつも……ってか俺領主だよね? 盛大に祝った上で祭り上げたよね? ちょっと俺に対しての扱い雑じゃない?
「ねー、おねーちゃん誰? ダイキおじさんのお友達?」
「うわっ! なっ……いきなりなんだよっ! ……魚人の……子供?」
見ればどこかに隠れていたのか、イナちゃんがジャクリーンの服の裾を引き人懐っこい笑顔で笑いかける。
「今日はノルンさま来てないの? あっ! そうだ! いい物見つけたからノルンさまに見せたかったんだけど、おねーちゃんにも見せてあげる!」
「ふぇ? ちょっ……引っ張るな! ってうわああぁぁぁあ!」
「これ! イナ! お客様に何を……!」
「あ~、いいよいいよ。今回は異文化交流が目的だ、たっぷり遊ばせてやってくれ」
「は、はぁ……畏まりました。ところでダイキ様、田の整備と拡張についてなのですが……」
「おぅ、来掛けに確認したが随分頑張ってるなぁ。あっ、そういや町で買った珍しい作物があってだな……」




