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領主様

「いや~、参った参った、危うく波に呑まれて死ぬとこだった……」


「も~、海水だから長くは保たないって言ったでしょ?」


「まぁ無事だったんだから良いじゃねぇか! それにしても……よくあの状況で雷撃魔法なんて撃てたな」


「いや、あれは俺じゃない。ノルンだよ」


「んなっ!? 嬢ちゃんが?? マジかよ……」


 驚くテリオスに向かい得意顔で胸を張るノルン。そりゃ驚くわな、十歳の幼女が伝説級の魔法操ってたら俺も驚く。


「あの複雑なのをノルンちゃんがね~……。ってか私には教えてくれなかったくせに! あんな危険な魔法何で軽率にノルンちゃんに教えてんのよ!」


「うぐっ! ま、まぁ、自衛目的というかなんというかな……ハハハ……。でも今回のは環境が整っていたから出来ただけだな、普段で成功したことはまだ無いし」


「環境?」


「詳細は伏せるがこの魔法は水と氷が鍵になってる、今回はそれらが元々大量に用意されてたからこそ、だな?」


「じゃがそれを察知していち早く対応した妾がやはり優秀と言う事じゃな♪」


 まぁ、あそこで状況を判断して出来ると踏み切ったのはきちんと教えた事を理解している証拠だ。素直に凄い、だがあんまり褒めて調子に乗ったら困るので胸に留めておこう。


「ご歓談の所失礼致します」


「あぁ、パーチェさん。怪我はありませんか? すいません、急だったので手荒くなってしまって……」


「ありがとうございました!」


 いきなり膝をつき頭を下げるパーチェさんと背後に控えた魚人族マーマンの皆さん。いや、感謝される事はしたっちゃしたけどそこまでされると心苦しいやらで……。


「奴を放置していては我々魚人族マーマンは全滅の憂き目に遭っていたでありましょう。あなた方は我等の救世主です! 誠に……誠にありがとうございました!」


「いや、行きがかりでやったことですから気にしないで……」


「そうじゃろうそうじゃろう! 妾の旦那様は凄いのじゃ! パーチェは一生恩に着るがよいぞ! おぉ! そうじゃ! 父上も亡くなった事じゃし旦那様に仕えてはどうじゃ? 旦那様の領内であれば自由に何処に居を構えても構わんぞ?」


 の……ノルンさん? そんなに持ち上げるのは恥ずかしいからやめて! ってか仕えるとかそういうのは……?? んん? 旦那様の領内? はっ!? どういうこと??


「ノルン? あ~……その……領ってどういうこと?」


「? じゃからこの未開の大地全てがお前様の領土じゃ。父上から聞いておらんかの? 輿入れの際の支度金代わりじゃぞ?」


 ……聞いてねぇ、聞いてねぇよそんな話欠片も爪の先程も! あんの魔王そういう事は事前に言っとけやぁ!


「お~、なら俺は領民一号ってか? 敬語で話した方がいいか? 領主様よぉ」


「ノルンちゃんのおかーさんから聞いてたけどダイキ知らなかったの? まぁその割には魔獣退治したりあちこち結界張ったり整地したりって頑張ってたわねぇ……」


 魔獣間引いたり整地してたのは畑や果樹園が作りたくてだな……。ってかよくよく考えたら他人の領地という考えなら俺がやってたことって不法占拠だな……。こんな危険地帯好んで治める奴は居ないだろうが。


「漂泊の民である我等にとってみれば是非もなき御申し出。叶うならば領主様にお仕えさせていただければ無常の歓びにございます!」


「……あ~……。分かった、分かったよ! なんかよく分からんがそれでいいならそうしてくれ! あと! 俺を呼ぶ時は領主様はやめてくれ! 堅苦しいのは肩が凝る、ダイキでいい!」


「おぉ……有難きお言葉ありがとうございます! 我等魚人族一同ダイキ様の為に誠心誠意お仕えさせて頂きます! 皆の者! 宴の用意だ! 大海竜の討伐と我等が主ダイキ様を讃える宴だ!」


 う゛~厄介なことになった気がする……あ゛~っ! なんか知らんがなるようになれ! もう俺は知らない! 知らないったら知らない!



……



「やっほ~♪領主様飲んでる~?」


「誰が領主様だよ誰が。次から次に注ぎにくるからもう飲めねぇよ! はぁ……頭が痛い」


 頭が痛いのはアルコールだけが原因じゃない、一体何がどうなってこうなった? 領主って……俺はそんな責任負う覚悟はないぞ? うぅ……胃まで痛くなってきた……。


「お前様どうしたのじゃ? 疲れ切った顔をして、めでたい祝いの席じゃぞ?」


「おぅ、なんか色々ありすぎて混乱しててな……さっきから取っ替えひっかえ挨拶にくるし……。ふぅ……取り敢えずは落ち着いたか……」


 ってか年頃の娘さんがいる方々が次から次に娘さんを連れて……。まぁ、そういう事なんだろうが生憎こちらは押しかけ嫁は一人で十分だ。ノルンに変な誤解されても困るから丁重にお断りしたが参ったもんだ……。


「ぬふふ~、よっと……ほれ、お前様、手はここじゃ♡」


 胡座あぐらを組んで天を仰ぐ俺の膝にノルンがすっぽり収まり手を取って腹の前で交差させる。? なんだ? 甘えたいのか? それとも嫉妬? ってかノルンが膝に来てから魚人族の皆さんからなんか温かい感じの視線を浴びせられてるんだが……。

 よくよく周囲を見渡すと魚人族の皆さんも俺らと同じように男性の膝に女性が座って談笑している。なんだ? あれの真似したかったのか?? こういった風習でもあんのかな?


「今日も色々あったのぅ、お疲れ様じゃ♡」


「色々ありすぎて頭がついてかねーよ、まぁでも上手く行ったなら良しとするかぁ……」


「なんだかんだといってお前様は優しいのぅ、お前様のそういう所、大好きじゃぞ♡」


 優しい……ねぇ、流されやすいってのが事実なんだろうが……。

 でも、人界で人助けしてたりもしたけど、必死でやってるばっかでこんなのんびりと穏やかな気持ちになれた時あったかな……?

 あの頃との違い……? あぁ、テリオスが言ってたのはこういうことか。


「ノルン」


「なんじゃ? お前様♡」


「ありがとうな」


「? どうしたんじゃ? いきなり」


「いや、なんとなく礼が言いたくなっただけ」


「ふふっ、おかしな旦那様じゃの。妾も、いつもありがとうなのじゃ♡」


 満天の星の下、冷気を含んだ夜風が吹く中互いの体温が心地良い。

 ……難しく考えるのはやめよう。どうせ一介の元サラリーマンが考えてもたかが知れてる、なるようになる。今はノルンと二人穏やかに暮らせたらそれでいい。

 ……忙しくなりそうな予感は感じなかった事にしておこう……。





「ダイキってあーゆーの完全に意識せずにやってるわよね?」


「周りを見たらどういう状況か分かりそうなもんだがなぁ……」


「知らないってのもあんだろうけど……ノルンちゃん的には牽制になるからいいんだろうけどねぇ。あ~っ! 私も恋愛したいっ!」


「……いーかげん落ち着いたらどうだぁ? いい歳なんだからよ……ぬぐおぁっ!?」


「……なんか言ったかしら?」


「……いや……なんでもねぇ、何も言ってねぇ」

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