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多頭竜

「……魔王様が崩御……休戦……そのような事に……」


「まだ交渉の途中だからの、まぁ母上がどのようにかしてくれるであろう」


「ってかマリーは何で知り合いなんだ?」


「あ~、海産物とかを売って貰ってたのと水の魔石を融通して貰って……」


「……魔族領からの魔石取引は違法じゃなかったかぁ?」


「密輸かの……?」


「……ま、まぁ昔の話よ! 細かいことはいいの! 取り敢えずは知った仲だしどうにかしてあげましょうよ!」


 なんか誤魔化された気はするが何とかしてやりたいのは俺も同意、海に危険なのを野放しにしておくのも良くないからな。


「だが今何処に居るかが分からないからなぁ……。執念深い奴だから案外近くに……」


「ねぇねぇ、おねーちゃん。あそこ、なんか変じゃない?」


「? どうしたのじゃイナ、ふむぅ……何やら海面が泡立っておるのぉ……」



「……よし、そんじゃ発見次第打ち合わせ通りにやりますか、テリオスもマリーも腕は鈍ってないよな?」


「当然だ、むしろ前より仕上がってるくれぇだぞ?」


「今更少々休んだくらいでなまったりしないわよ~。ただ海水だからあんま長くは保たないわよ?」


「ダイキ殿! 言われた通り住民達の避難は完了した!」


 よしよし、取り敢えずは上手くいくと信じよう、あとは海中に魔力を注いで周囲の魔獣達を誘導して各個撃破……と、その中に大海竜が居れば問題解決だな。


「のう! お前様!」


「? どーした? そっちになんかあったか?」


「いや、何やら海面に泡が立っておっての。あれは何なのかと……」


「!! ノルン! すぐに浜から離れろ!」


「? 分かったのじゃ、さぁイナ、行くぞ……っっ!?」


 クルオォォォォォォオオオッ!!


 ノルンが浜に背を向けた瞬間、飛沫を上げて波間から海竜が顎を開き襲い掛かる。


「っ! 不味い! 『泡障壁バブルウォール!』」


 っきしょう! 海中に潜んでやがったか! わざわざ魔力を抑えて来るたぁずる賢い!


「姫様! イナっ!」


「うぇっ!? 嘘っ! 食べられ……!?」


「なんとか結界は間に合った! だが海中に行かれたら中の空気がもたない……。っ……沖に出ちまったな……テリオス、どうだ? 届くか?」


「流石にあの距離は無理だ……もうちっと近付いてくれたら……」


「ちょっ……パーチェ? どこ行くのよ!」


「私が囮になり浜におびき寄せます! 私に構わず討って下さい!」


「とーちゃん!」


 っ……! ド畜生! 何で気を抜いた! 何でもっと早く反応出来なかった! 何で……!


「落ち着いて、焦ったら出来ることも出来なくなる」


「大丈夫だ、俺らも居るんだ、全部上手くいく」


「……っ! ……っはぁ……あの時を思い出すな……あの魔物、セイレーンだったか?」


「海の上に陣取られて最悪だったなぁ、耳栓してたから連携も取れなくてよぉ」


「あん時に比べたら簡単な事よ、ただ的がでかいだけね」


 的がでかいだけねぇ、言ってくれるわ……。だが頭は冷えた、今はパーチェさんが戻るのを待つだけだ。


「っ……来るぞ! テリオス! いいか!?」


「おぅ! いつでもいい! 合図を頼む!」


 海を押しのけ巨大な何かが浜に迫る、水平線をドーム状に曲げ、津波のような波が赤く光る双眸を水面に映し。歪に、笑みを浮かべるかのように細める。


「『共鳴レゾナンス!』パーチェさん! 聞こえるか? 距離はもう十分だ! 水面に向かって跳び上がれ!」


 こちらの声を合図に飛沫を上げてパーチェさんが跳び上がる、それを追い背後から現れた影は……。


「んなっ……!? でけぇ! さっきノルンを攫った奴こんなでかさじゃなかったぞ!?」


「『浮遊フロート!』分かんないけど今はこいつを倒さなきゃ駄目よ! 集中して! 今よテリオス!」


 浮遊の魔法でパーチェさんが浮き上がったのを合図にマリーが檄を飛ばし、声を受けたテリオスが満身の力を込めて担いだ巨大な戦斧を振り下ろす。


『城塞割り』


 闘気術の奥義を究めたテリオスの一閃が海を断ち割り、海中に身を隠していた巨大な存在を露わにさせた。


「三つ首の大海竜シーサーペント……っ! 多頭竜ヒュドラ化しちまってんじゃねーか! マリー頼む!」


『澱みし流れ 凍てつく大気 止まりし刻の狭間の中に 取り残されしは無限の住人! 氷結地獄コキュートス!』


 断ち割られた水が戻るよりも早く、凍てつく冷気に凍り付いてゆく……。魔法で凍てついた路を全速力で走る、速く! 速く! 速く! 


 バキバキッ……ガシャン、パキパキッ!


「っ! 不味い! でかすぎて氷の壁じゃ阻みきれない……っ!」


 氷を砕き海中に逃れようとする多頭竜。このまま逃げられたら……っ。魔法は? 駄目だ、下手打つとノルン達が無事じゃ済まない。ましてノルン達を盾にされた日には俺の手で……? ……っ!


 ……ゴロゴロゴロ……。


 ……? 何だあれは……? 雷雲……?


「『雷時雨サンダーレイン』!」


 ガラガラガラズドオオオォォォォォオオン!!


 上空に目を奪われた一瞬の間に雷雲と多頭竜が光で繋がり、置き去りにされた音が衝撃波と共に大気を激しく震わせる。


「!? ……ククク……ハハハハハ! ノルンのやつ! やるじゃないか! 後でたっぷり褒めてやらなきゃなっ!」


 威力は弱いながらも海水に濡れた体には効果覿面こうかてきめん! 雷に身を焦がされた多頭竜ヒュドラが身をよじりのたうち回る……。嫁さんがこんだけお膳立てしてくれてんだ! ここでやらねば男が廃る!


「『五皇剣アンペラルブレード!』『身体強化ブースト!』『身体強化ブースト!』『身体強化ブースト!』『身体強化ブースト!』『身体強化ブースト!』『身体強化ブースト!』」


「うちのが世話になったな! 俺は礼は手厚くやってやる主義だ! とっとけ! 『殺戮領域ジェノサイドフィールド!』」


「大海竜を……光が包んでく……綺麗……」


「あ~あ~……普通あそこまでやる? みじん切りになってんじゃない?」


「嬢ちゃんが関わるとあいつ人が変わるなぁ……よっぽどイカれてんなこりゃ」


「なんという……あの海竜をまるで魚を捌くかのように……」


 ……うっし、細切れにし過ぎた気もするがここまでやりゃ再生もしないだろ? そしてここまで切り刻んでもノルン達の結界には傷一つない、流石俺!


「よっと……ノルン、イナちゃん、大丈夫か?」


「うむ、大丈夫じゃ。お前様が助けてくれると信じておったからの」


「おじちゃん! 凄いね! なんかね? 光がば~って周りを囲んでね? 綺麗で! キラキラしてて! 凄かった!!」


「そうじゃろうそうじゃろう、旦那様は凄いのじゃ。心配いらぬと言った通りであったであろう?」


「ノルンが足止めしてくれなかったら危なかったよ。よくやったな、ノルン」


 結界を解除し、抱き付いてきたノルンの頭を撫でてやる。あの状態でよく機転を利かせたもんだ、十歳とは思えない判断力と応用力、流石うちの子!


 パキッ……ピキピキッ……


「おじちゃんもおねーちゃんも凄いね! 私……怖くて何も出来なくて……」


 メキメキッ……パキン……


「ふふん、見たであろう! 妾が華麗に放った『伝説の』雷撃魔法が!」


 パキョンッ……ギシギシメキィ……


「調子に乗るんじゃない! 本当に危なかったんだからな? ……? 浜でマリーがなんか叫んでるな……? んん? 『はやく……にげ……ろ……くずれ……る?』……!!」


 メキメキメキメキッ! バキンッ! ガラガラガラ!


「お前様……これは……」


「二人とも掴まれ! 逃げるぞ!!」


 バキバキメキメキガシャーン! ズゴゴゴゴゴゴゴ……ガチャガチャバキンッ! ズドドドドド!!

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