海
「おぉ……広い……果てが見えぬ……! これが海……!」
見る限り果てしなく続く大海原、潮の香りが鼻をくすぐり、照りつける太陽が肌を焦がす。見渡す限り海! 海! 海! クラーケン! 海! ……? クラーケン!?
「『氷柱槍!』……いきなりでかいのが出てきたわね~……まあでもこれでお昼ご飯の食材ゲットね♪」
「マリー、そいつアンモニア臭くてあんまし美味くないから逃がしていいぞ。……ったく、到着早々幸先が良いな」
「ははは、折角の嬢ちゃんの希望だ、俺様も護衛で来てやったんだから今日は楽しめば良いだろ?」
今日はノルンの希望を叶えて海水浴、たまたま出発前に出くわしたマリーとテリオスも巻き込んで浜辺に遊びに来ております。
「お前様! 海! 海じゃぞ! 広いのう! でっかいのう! よし! 突撃じゃ!」
「おい、そんなに勢いよく突っ込んだら……」
ジュッ!
「あぢっ! あじゃっ! あぢじゃじゃじゃぁ? 熱っ!」
あ~あ、焼けた砂浜にそのまま突っ込むから……。
「『水球』大丈夫か? 火傷してないか?」
「うぬぬ……危うく火が通る所であった……。まさかこのような罠が用意されていようとは……海、侮れぬのじゃ!」
「今日は天気がいいからねぇ~、ほいほいっと『氷面』これで大丈夫♪」
マリーが杖を翳すとみるみるうちに砂浜が凍り付き海に向けての道が出来る、まぁ情緒も何も無いがこれで火傷の危険は無いな。
「よし! これで大丈夫じゃの? 改めて突撃じゃ~♪」
「ちょっ……だからそんなに勢いよく突っ込んだら……っ」
ツルッドテッ! シュルルルル~……ジャボン!
「ガッ……ガボッ……んなっ……塩っぱっ……ゴボゴボ……」
「言わんこっちゃ無い! ちょっと待ってろ! すぐに助けに……のわっ!?」
ツルッドテッ! シュルルルル~……ザパーン!
「なになに? 楽しそ~! 私も私も~♪」
「マリー、あれは遊んでるんじゃないと思っ……ちょっ……待てっ! 何で俺様までっ!?」
「っとと……危うく溺れるとこだった……ノルン大丈夫か?」
「ケホッ……大丈夫じゃ……海とは存外恐ろしい場所なのじゃな……ってお前様! 後ろ! 後ろ!」
「……? 後ろ? 後ろに何が……」
「きゃっほおおおぉぉぉぉおおお!」
「ぬあああぁぉぁぁぁぁあああぁぁあ」
「んなっ……!? うわああああぁぁぁあああ!?」
ザッパアアアアァァァァアアン!!
「なんじゃなんじゃ!? 危なかろう! テリオスまで悪ノリしおって!」
「いや、俺様はマリーに巻き込まれただけで……」
「んん? 旦那様がおらぬぞ? 一体何故??」
「あ~っ! テリオス! 下敷きにしちゃってる! 避けて避けて!」
……ほんとに幸先良いこって……。やっぱ海なんかくるんじゃなかったかなぁ……ゴポゴポ……。
……
「お前らなぁ、はしゃぐ気持ちも分かるがもう少し落ち着け。ガキじゃないんだからな?」
「ごめんなさーい……」
「いや、俺様は巻き込まれただけなんだが……」
「全く、子供じゃないんじゃからきちんとせねばならぬぞ! のう? お前様!」
いや、誰よりはしゃいでそもそもの原因になってるのはあなたですが……? まぁ海を見てテンション上がるのは分からんでもないが……。ってか子供に子供扱いされる大人達って……。
「まぁまぁ、折角海に来たんだから遊ぼうよ! ね? 時間がもったいないよ~」
「誰が悪ノリしたおかげでこうなったと……。はぁ……確かにそうだな。たまには楽しむか、ノルン、マリーと遊んできな」
「うぬ! それでは行ってくる! ……お前様は来ぬのか?」
「溺れかけたし少し休んでおくよ、しっかり遊んできな」
「ぬぅ、回復したらこっちに来るのじゃぞ?」
「お~い! ノルンちゃん! こっちに蟹が居るよ~」
「なんじゃと!? 妾にも見せるのじゃ!」
マリーに呼ばれてノルンが鉄砲玉のように駆けていく、またそんな急いだら……あっ……やっぱこけた。
「まったく……ようやく一息つけるな」
「行ってやらなくていいのかぁ? 嬢ちゃん寂しがるだろ?」
「今はテンション上がってて寂しいも何もないだろうよ、それに誰かさんに潰されて俺は疲れてんの!」
「うぐっ、だからあれはマリーがだなぁ……。……ぷっ……くくく……」
弁解しようとしたテリオスが思い出したように笑い出す、なんだよ? 俺の顔に何かついてるか?
「なんだよ、何がおかしいよ?」
「いやなぁ、前に嬢ちゃんにも話したんだが随分と表情が柔らかくなったもんだなぁってな?」
「? 俺のことか?」
「他に誰が居るよ? あれだけ切羽詰まった顔してた奴が楽しそうになぁ」
「あいつと居たら悩んだり悔やんだりする方が馬鹿らしくなるよ、まぁ気楽にやらせてもらってるさ」
「……すまなかったな」
意外な返答にテリオスの顔を見返すと、真剣そのものといった表情でこちらに頭を下げてくる。え? なに? 俺なんかされた? さっき溺れかけたのの謝罪にしては仰々しいぞ??
「なんだよいきなり気持ち悪い……」
「いやな、平和な世界に生きてたお前にこちらの事情で何もかも背負わせて……。本当はこの世界に生きてる俺らが片づけなきゃいけねぇ問題なのによぉ」
「なんだよ、そんなこと気にしてたのか? 途中抜けした癖に」
「うぐっ……そ、それはだなぁ……」
「分かってるよ、お前が抜けた後に裏方で色々やってくれてたのは。おかげで俺らは生きてこうして海水浴も楽しめる。そりゃぁ……召喚されてから色々考えたがな、まぁでも俺はこの世界が好きだし、憧れのあった魔法ってのにも触れられて……これでもお前らに感謝してんだぜ?」
「そりゃぁマリーに言ってやれば喜びそうだな」
「ぜってぇ言わねえ! あいつ調子に乗ったらろくな事になんねーからな」
「ははは、違いねぇな」
ほんとな、普通のサラリーマンやってて異世界に呼ばれて英雄だ勇者だと祭り上げられる。そりゃプレッシャーや負担は感じてた、でもそんな中でも支えてくれた人は居たし何より男子なら一度は憧れるファンタジー世界だ。楽しまなきゃ損ってもんだろう?
「まぁあの自己中姫様には恨み言の一つも言いたいとこだが……」
「あの姫様ねぇ……死亡説は浸透してるみてぇだが随分とお前にご執心だったからなぁ……。なんかやらかしそうで怖えぇな」
「流石にここを嗅ぎつけはしないだろ? したとしても手出しは出来ないしさせねぇよ。……あとは王様の手綱捌きに期待だな」
「国王陛下もお歳だからなぁ……きちんとコントロール出来ればいいがな」
「お~い! お前様! なんぞ不思議な生き物がおるぞ! これはなんじゃ?」
「おう! ちょっと待ってろ! 今行く! そんじゃテリオス見張り頼むわ!」
「おぅ、任せとけ! ……ほんと活き活きしやがって……嬢ちゃんには感謝しかねぇなぁ全く」




