ノルンの魔法修行
「ぬぬぅ……どうやればいいのかのぅ……」
庭で何やらノルンが腕組みして考え込んでいる、普段から考えるというのはとても良いこと。ついでにいえば思慮深さを身に付けて行動の前に考えるようになってくれたら言うことは無いんだが……。
「さっきから首を捻って何を悩んでるんだ?」
「うぬぅ、魔法の詠唱破棄についてなんじゃが……仕組みが上手く分からぬのじゃ……。家庭教師は破棄否定派でのぅ、やり方を教えて貰えておらぬのじゃよ」
「なんでまた詠唱破棄を? まぁ、使えたら便利だが焦って覚える物でもないだろ?」
確かに詠唱破棄というものは便利だが魔法発動に必要な手順を破棄している以上やはりリスクというものは存在する。よくあるのが不安定になって威力が弱くなったり、酷いときは暴走して術者に危険が及ぶ可能性だってある。
「この間一人で出掛けて叱られた時があったじゃろ?」
「俺が風邪ひいた時な、あ~……あの時はぶって済まなかったな」
「いや、あれはお前様の愛の鞭♡じゃと理解しとるよ。じゃがの? やはりあの時魔物に襲われて詠唱をしておって思ったのじゃ」
「?」
「滅茶苦茶面倒くさいと」
……それは思う、あんな長くて面倒な呪文一々唱えてられるか! ってな。だがそれとこれとは話が別、危険なことを教えるわけにはいきません。
「それは全面的に同意するが、詠唱破棄を使うのは勧められないな。なにより危険だ」
「そうは言えどもこの大地に住む上で危険でないことなどありはすまい? いざというときに取れる方法があると無いとでは危機を脱せるかに雲泥の差があるぞ?」
うぐっ……屁理屈ながら痛いところを突いてくる……。まあ確かに取れる手段が多いに越したことは無い、ましてノルンは闇魔法の最高位まで修める程に才能は十二分……。
……はぁ……まぁ、ノルンなら調子に乗って妙な使い方はしないか……。
「……仕方ないな……確かに俺がいつでもついてられる訳でもないしなぁ……。教えてやるが約束すること! 中級魔法までしか使わない。練習以外での使用は避ける。尚、非常時はこの限りではない、以上!」
「わかったのじゃ! お前様愛しておるぞ♡早速教えてたも♪」
「まぁ落ち着け、まずはどれだけ理解しているかだ。詠唱の役割については知ってるな?」
「魔力を効率よく運用するためのものじゃな。大気中の精霊に言霊により魔力変換の指示を出す……といった所かの?」
ふむふむ、理解度は十分。ここが理解出来てないと次のステップに進めないからな。
「その通り、じゃあ詠唱文『言霊』の意味と何を行っているかは?」
「意味? 何を行っているか? それは呪文の行使に必要な内容を精霊に伝える魔法の設計図であろう? その設計の中身……じゃと?」
「そう、設計図の中身。どの文章が何をするように精霊に指示を出しているか、詠唱破棄の場合そこを理解しないといけない」
やはり知らなかったか、ここを理解していないと詠唱破棄は出来ない。まずは呪文の分解からだな。
「よっし、まずは基本からだ『逆巻く砂塵』『不可視の刃』『一陣の風吹き抜け』『積もるは骸』。風精刃の呪文だが、これを分解して理解する」
「うむ……これを……分解?」
「最初に『逆巻く砂塵』こいつは風を巻き起こせと言う指示だ。次に『不可視の刃』は見えない刃を作れって指示」
「ほうほう……そういう意味合いなのじゃな。言われてみれば確かに合点がいく内容じゃ」
「そして『一陣の風吹き抜け』これで出来た風の刃を飛ばすって指示になり、『積もるは骸』最後ので狙いを定めた相手を攻撃しろって指示な。詠唱することで言葉で精霊に伝えているが、魔力の放出時にイメージを魔力に込めることで精霊に指示を伝えることが出来る。こんな風に『風精刃!』ってな?」
「おおっ! 本当じゃ! 確かに風の刃が出ておる! 妾も……『風精刃!』」
ノルンが目を閉じて集中し、勢いよく叫ぶが出たのはそよ風……。まぁ、最初なら風が出ただけ合格点だろう。
「むうぅ……なぜじゃ……」
「失敗は風の刃の作り方だな。風の刃とは言うが実はこれは風に色々な物を巻き込んで高速でぶつけてるんだ。空気中の塵や埃、砂粒なんかを刃の形にしてぶつけるイメージでやってみな」
「ふむふむ……ならばもう一度……『風精刃!』おお! 出た!」
ノルンの声を号令に風の刃が雑草を刈り飛ばしてゆく、もうイメージを修正してモノにしている……凄いな。
「威力は落ちてるがまぁ及第点だな、流石飲み込みが早いな」
「ふふふ、先生が良いからのぅ♡して、お前様があの時放っておった魔法……『焦土』じゃったか? あれはどういう原理じゃ?」
「あれの詠唱文はこうだ『大地を流れる紅蓮の血潮』『穿つ鎚が眠りを覚ます』『満ちよ溢れよ万象を染めよ』『大地を朱に覆い尽くせ』だな」
「ぬぬぬ? つまりは……どういう事じゃ?」
「『大地を流れる紅蓮の血潮』これはマグマのこと。んで『穿つ鎚が眠りを覚ます』大地に穴を開けてマグマを呼び起こす。そして『満ちよ溢れよ万象を染めよ』で辺りにマグマを溢れ出させて。『大地を朱に覆い尽くせ』で火力を上げて焼き尽くす。範囲呪文だからな、対象設定じゃなく範囲設定で指定を行う」
「マグマ……のぅ……あれは火山にある物ではないのかの?」
「こっちじゃそういう印象かもしれないがな、実は地中深くにはどこであろうとマグマが流れている。その認識とマグマの流れる深度の知識があればイメージで発動が出来るってこと」
説明を聞いていたノルンが感心したように頷き、ふと目を閉じ考え込んでから口を開く。
「ほぉ……なるほどぉ……。んん? ならば知識さえあれば妾にも使えるのかえ?」
「そこに気付くとは流石♪実はここら辺に適性魔法云々の話が被ってな。実は魔力の質による適性なんてものは存在しない」
「ほぇ? いやいやいや、人には向き不向きな属性があるのは当然じゃろ?」
「あれに関して言えば『事象に関する理解度』の影響だな。その事象を深く理解しているほど魔法の威力は上がる、その理解度の差を『適性』って位置付けしてるに過ぎないんだ」
まぁこの理論に関してはマリーとの特訓の際に偶然発見した理論なので浸透してないのは仕方ない。なんせ千年生きてきたマリーもそれに思い至らなかったほど『魔力適性』という理論は根深いものだったのだから。
それもこれも現代科学知識による自然現象に対する理解あっての物だから、魔法技術に偏ったこの世界では気付くのは難しかっただろうなぁ……。
「つまり妾もどんな属性の魔法でも扱える……と?」
「そういう事。……そうだな……ノルン、雷撃魔法を知ってるよな?」
「知っておる! 伝説にある雷を自在に落とす魔法……ま、まさか……?」
「『雷時雨』」
ガラガラガラガラピシャアアアァァァァン!
「……とまぁそういうのも事象を知れば割と簡単に使える」
地上に発生した竜巻と空から夕立のように降り注ぐ雷をノルンが口をポカンと開けて眺めている。こいつも自然現象を操る魔法という技術があればこそ手順は多少複雑ながら出来ることだ。
これが初めて出来たときに『ギガ〇インや……!』ってテンション爆上がりになったのは内緒である、ってか未だに魔法を使うのはテンション上がるなぁ……やっぱそこは男の子ですし?




