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親子丼 ※挿絵あり

「お前様! 早く早く! もう腹と背がくっつきそうじゃ!」


 待ちきれぬ様子のノルンが台所に向かい小走りで俺の腕を引っ張る。簡素ながら割と使い勝手のいい台所、手造りの割には出来がいい、その内ピザ釜とか大型設備も欲しいなぁ……。


「おぅ、そんじゃ石化鶏コカトリスの小屋から卵獲ってきてくれ、米は風呂前に火にかけたからもう炊けるはずだ」


「了解したのじゃ!」


 こっちに来たときはびっくりしたけどこの世界では魔物を普通に家畜化していたりする。石化鶏はその代表格で、石化毒のある蹴爪けづめを切れば尻尾が蛇なだけの普通の鶏になってしまう。まぁ石化のリスクを背負ってでも卵を食べたいのは分かる、美味しいもんね、卵。


「あとは今日狩った風斬怪鳥シルフィードバードの肉と、満月葱、各種調味料……」


「お前様! 卵をとってきたぞ!」


「おう! あ、そうだ、鰹節を削ってくれるか?」


「了解したのじゃ、じゃが……こんな硬い物体が食べ物とは……理解できぬな……」


「俺が元いた世界のもんだからなぁ、まああっちでも俺が暮らしてた国以外では理解不能な物体だった時期があったみたいだな」


「これらも過去の転移者がもたらした物の一つなのじゃな……魔界でも召喚を試してみるべきなのかのぉ? 美味い物を食べる機会が増えるなら大歓迎じゃ♪」


「転移者にも元の世界での生活があるんだからな? あんまり軽々しくやるもんじゃないぞ?」


「うぐぅ……す、すまぬ……。のう……お前様……その……」


「よっし、材料切り終わったぞ……? どうした? 怪我でもしたのか? そんな顔して……」


「い、いや! なんでもないのじゃ! ささ、鰹節を削ったぞ、作り方を教えておくれ!」


 不安そうな、泣きそうな顔になっていたノルンの顔に笑顔が戻り、俺の背を押し調理台に向かう。う~ん、この年頃の子供の考えてることはわからん……俺がこれ位の頃ってどうだったっけ……。遊び回ってた記憶しか無いな、うん。


「さて、そんじゃ始めるか」


「ご指導頼むのじゃ♪お前様♡」


「先ずは出汁だしをとる、やり方は覚えてるな?」


「沸騰した湯に削った鰹節を入れて……」


「そうそう、味噌汁も作るから多目にな」


「味噌汁の具は何にするのじゃ?」


「シンプルに豆腐とワカメだな」


「うぬぅ、美味いには美味いが海に生えている雑草を食べるというのは未だに慣れぬのぅ……」


「気にしたら駄目だ、美味いか不味いか、それでいいだろ?」


 腕組みするノルンの頭を撫でると、子供扱いするなとの意思表示だろうか? こちらを見上げてほっぺたを膨らませている。抗議する気持ちはわからんでもないが反応がまんま子供なんだよなぁ……。


「よし、出汁がとれたら肉と満月葱を炒めるぞ」


「出汁でそのまま煮るじゃいかんのか?」


「う~ん、それでもいいけど味付けが楽だから俺はこっちだな。んじゃ砂糖を大匙1杯入れてくれ」


「これも調味料を全部一辺にじゃいかんのかの?」


「『さしすせそ』っつってな、食材に味が染みこみやすい順番ってのがあるんだよ、浸透性の差っていうかな……あぁ、言うなればあれだ! 最上級魔法の構築式! 召喚する精霊の順を間違えたら威力が落ちたり暴発したりするだろ? まあ、料理は暴発はしないが……うむぅ、説明が難しい」


「まあ、順番を守れば美味しくなるんじゃな! 理解した!」


 理解の内容は違う気がするがまあわかってくれたなら問題ない、嬉々として炒め物をしているノルンの横で味噌汁を仕上げていく。


挿絵(By みてみん)


「さて、あとは醤油を加えて出汁じゃな♪」


「そうそう、一煮立ちしたら火を弱めて、溶いた卵を流し入れて蓋をする」


「いい香りじゃのう……」


 香りを嗅いで涎を垂らすノルンの腹からきゅるると音が鳴り、顔を真っ赤にして押さえ込む。その様子が可笑しくて思わず笑った俺の腹からも獣の唸り声のような音が……。


「ふふっ、さ、早く作っちまって食べよう」


「ふふふ、そうじゃな、早く腹一杯食べて腹の虫を駆逐せねば!」


「よし、火を止めたらご飯を盛った丼に具を乗せて、溶き卵の残りを少しかけて蓋をする」


「最後に溶き卵をかけるのはなぜじゃ?」


「その方がトロトロの卵の食感を楽しめるだろ? ま、火を通した方が好きな人も居るがな」


「妾はトロトロ派じゃな♪ご飯に絡む卵がたまらん」


「最初は『生卵を食べるなんて!』って言ってたのにな」


「仕方ないじゃろ! 卵を生で食べたら腹を壊すというのは常識じゃ! じゃが、清潔化クリーンアップの魔法をかければ腹を壊さんとはなぁ……お前様の食への執念には呆れるわい」


「お褒めに与り恐悦至極きょうえつしごく、さぁ出来たから飯にしよう♪」


 ダイニングテーブルというには不恰好なテーブルに器を並べ、待ちかねたとばかりにノルンが椅子に飛び乗る、と、小鉢に盛られた緑色の物体を見て暗い顔で俯く。


「竜火草の……おひたし……」


「ま~だ葉っぱは嫌だとか言うのか? 好き嫌いは駄目! 少な目にしてるんだからちゃんと食べる!」


「……むうぅ……わかったのじゃ……いただきます……」


 眉間に皺を寄せたノルンが鰹節と醤油をかけておひたしを飲み込むようにかき込む、味噌汁で無理矢理に胃に送り込み、我慢できない様子で勢いよく丼の蓋を開く。


「ふわああぁ……う~んいい香り……あちゃぁっ!」


「蓋が熱くなってるから気を付けろよ? さて、そんじゃ俺もいただきまっす!」


 ガタつくテーブルで夕飯を囲み、今日起きた事を語り合いながら笑い合う。望んでこの世界に来たわけでもないけれどこれはこれで幸せじゃないかな? とも最近は思っていたりするのである。

 さて、明日は何を作ろうかな?

親子丼レシピ:一人前


鶏肉:50~100g(モモ肉が美味いが他でもいい)

玉葱:1/2個

水:150ml

だしの素:ティースプーン半分

砂糖:小匙一杯半

醤油:小匙一杯半

卵:二個

ご飯:200g


1:鶏肉は一口大に、笹身や胸肉でする場合は削ぎ切りにした方が食感が良い。玉葱は薄くスライスする。


2:油を加え中火(IHで4~5)に熱したフライパンで鶏肉を炒め、表面に白く火が通ったら玉葱を加え炒める。玉葱がしんなりしたら砂糖を加え炒め、砂糖が馴染んだら醤油を加え、一混ぜして水を投入。


3:だしの素を加え好みの濃さになるまで煮る、卵を加えた際に味が薄くなるので少し濃いめに調整する。


4:卵を割りほぐし1/4位残してフライパンに投入、半熟に火が通ったらご飯の上に乗せ残りの卵をかける。出来上がり(*´ω`*)


※つゆだくがいい人は砂糖、醤油、水の量を調整してつゆを増やしましょう。


 6/14 挿絵を追加させて頂きました、描いて下さいましたのは『藍里』さん、ご自身も小説、絵共に嗜まれていらっしゃいます。マイページはこちらです(*´ω`*)

http://mypage.syosetu.com/952675/

素敵なイラストに感謝!ヾ(o´∀`o)ノ

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