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怒れる旦那様

「ん……? ん~っ! ぷはっ、あ~、よく寝た……。あ゛~あ゛~……喉はまずまず、熱は……下がってるな……」


 あ~、久し振りに体調崩したが疲れもあったのかなぁ? 何にせよ快復出来て良かった良かった、こりゃノルンに食わせられた生姜が効いたかな?


「……ノルン? 起きたぞ~? お~い、ノルン~?」


 ……おかしい、静かすぎる……いつもなら名前を呼んだら何処に居ても飛びついてくるのに……。

 嫌な予感がする……今まで無かったこと、俺が倒れて黙ってじっとしている奴じゃないのは分かってる筈だろう。


「お~い、ノルン? 何処に居るんだ? ……!! 靴……上着……無い! まさか!?」


 慌てて扉を開け外を見る、玄関から外へと続く小さな足跡、まだ昨日の雨でぬかるむ地面に残るそれを見て、心臓が早鐘を打ち、背筋に冷たいものが流れる。


「畜生! 一体何処に行った!?」


 近場を縄張りにしている魔獣は間引いてはいるが時折危険な魔獣や魔物が迷い込む事もある、もしもそんな奴等に出くわしていたら……!! 頼む……頼むから無事で居てくれ!



……



「にゅわあああぁぁぁぁぁああ!? 伯父上! さっきから魔獣の数が増えていないかの!?」


『いかんな……興奮した魔獣達に魔獣が引き寄せられ大暴走スタンピードが起きておる、流石にこのままずっと追いかけっこはできんぞ』


「ぬうぅ……家の結界に入ってもあんな群れが突進してきたらひとたまりも……。うぅ……折角、折角薬草も手に入れたのに! 旦那様……最期にお前様に会いたかったのじゃぁ……。……なんじゃ? 正面からも凄い勢いで……!?」


「ノルン! とネクロス!? っ……一体何があってこうなってんだ!? まあいい! ネクロス! ノルンを庇え!」


『承知した!』


「お、お前様! 一体何を!? 危険じゃぞ!?」


 何でネクロスが一緒に居るかは分からないが暴走している魔獣の群れを処理するのが先決!


「吹き飛ばされないように踏ん張っとけよ! 『焦土バーングラウンド!』」


「ふぇ? ひゃあっ!?」


『ぐおぉ!? っく、ノルンちゃんしっかり掴まっておれ!』


 ……あ~、慌ててたのと病み上がりで加減が効かなかった……。うわっ、地面が煮えたぎっちゃってんじゃん、お~い、誰だよこんな酷いことしたのは……。


「あ……あの数の魔獣達を……一瞬? あれほどの威力の魔法を詠唱もせずに……?」


『……なんたる威力……まさかこれ程までになっていようとは……』


「ノルン! 無事か!? 怪我は無いか??」


「お前様♡やっぱりひーろーは遅れてくるものなのじゃ! 惚れ直したぞお前さ……あだっ!? な、何でぶつのじゃ??」


「馬鹿野郎! なんで結界の外へ出た! 結界の外は危険だっていつも言ってるだろうが!」


「じゃ……じゃってじゃって……お前様が、お前様がぁ……じゃ、じゃから、ヒック、妾は薬草を……グスッ……ふえぇ……」


 ノルンの手には熱気に当てられ萎れてしまった薬草……分かっている、単なる興味や好奇心で危険を冒すノルンじゃない、ノルンなりに必死に考えての行動だったのだろう。

 だが、決して褒められる事ではない、今だって一歩間違えば死んでいたのだ、抱き付き震える肩も、しがみつく腕も傷だらけだ……ほんの数時間の間に一体どれ程の危険にあったことか……。


「……俺は大丈夫だ、何があってもそうそう死にはしない。だから、だからもうちょっと信用しろ。俺は自分が死ぬよりもお前が死ぬ方がずっとずっと恐ろしいんだ……」


「ひぐっ……えぐっ……お、お前様ああぁぁ……ぐすっ、ごべっ、ごべんなざいぃ~!」


 ……その想いがノルンも同じだってのは分かってんだよ……。尚も尻尾を絡めしがみつくノルンを落ち着くようにと撫でてやる、その頭には小さなコブ……。

 ズキリと痛む胸を押さえて思い出すのは幼少の頃の両親の言葉。


『叱って叩いてるこっちも痛いんだ!』


 嘘つけって思ってたけど……なるほど確かに胸がしめつけられるように痛む……。なにより、一歩間違えばこいつを喪うかもしれなかった事実が背に、肩にズシリと鉛のようにのし掛かる。どれだけの力があろうと……どれだけのことが出来ようと……命は容易くその手をすり抜けていくのだから……。


『うむ、うむ、互いを思い遣る心というものはかくも美しきものよなぁ』


「……そういやネクロス……なんでお前がここにいる? ……まさかお前がノルンをそそのかしたんじゃ……」


『ま、待て! 誤解だ! 禍々しい殺気を放つな! 物騒な物を仕舞え! 儂は無罪だ!!』


「お前様、本当じゃ、伯父上は妾が危なかった所を助けてくれたのじゃ」


『そう! そうだ! だからその大剣を仕舞え! そんな表情をしておったらノルンちゃんが怖がるぞ!』


「……ブチ切れておる旦那様も凛々しくて素敵なのじゃ……」


『……あぁ、うん、そうだね……』


「……まあいい、助けてくれたなら感謝する。とりあえずこんな所でうだうだしてたらまた魔獣が集まっちまう、家に行こ……」


 クウウゥ……キュルルルル……


「んにゅっ!? い、いや、これはじゃな! 安心した反動というか魔力の使いすぎというか……! う゛~……」


「そうだな、俺も腹が減った。帰って飯にするか!」


『おぉ、今日は何を作るのだ? 楽しみだな!』


「てめぇはちったぁ遠慮しろよ……」


「伯父上もゆっくりしてゆくがよかろう! さあ早く家に帰ろうぞ!」


 ったく……さっきまで大泣きしてた奴が嬉しそうに……。まぁ、でも本当に無事で良かった、今後は結界の通過条件とかも見直さなきゃだがな……あ~、病み上がりでやることが山積みだ……。でも、今はとりあえずそういうのはなんでもいいか。

読んで頂き感謝(*´ω`*)


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