風邪
「うぅ……抜かったな……」
どうやら雨の中屋根の修理をしていたのが祟ったらしい、喉の痛みに発熱、全身の気怠さ……。
「お前様! お前様あぁぁ! 気をしっかり持つのじゃぞ! 妾が側についておる! じゃから……じゃから妾を置いていかないでほしいのじゃああぁぁぁぁあ!」
なんかベッドの横でさっきからノルンが号泣しているんだけど……え? なにこれ? 俺このまま死ぬの? まさか魔界特有の不治の病とか? えっと……鑑定。うん、普通に風邪だな。
「……ノルン、大丈夫だから、普通に安静にしてたら治るから」
「本当か? 嘘ではないじゃろうな? このような事で嘘をついたら承知はせぬぞ!?」
「うん、大丈夫だから……だから尻尾を巻き付けるのやめて……力はいんないから呼吸が……ゲホッ」
心配してくれるのは分かるがこうも密着されるとゆっくりできないし何よりノルンに感染りかねない。とりあえずマスクを互いに着用して、手洗いうがいを徹底してから……あ、頭がぼ~っと……。
「ノ、ノルン、とりあえず寝てれば治るから、ノルンに感染ったら困るから、な? リビングに行ってなさい」
「ぬぅ~、でも……」
「ノルンだってわざわざ苦しい思いはしたくないだろ? 俺だって苦しんでるノルンを見るのは嫌なんだ、分かってくれるな?」
頬を膨らませ、尚も納得いかぬ様子でチラチラこちらを見ながら部屋を出るノルン。……なんか可哀想な気はするがここは心を鬼にして追い出さねばならない。
それにしてもここ何年も風邪なんか引かなかったのになぁ……、もしや老化? あ~やだやだ。っと……なんかリビングが騒がしいな……!?
「お前様! 豚人蹄を摺り下ろしたぞ! 食べるのじゃ!」
「むぐっ!?」
勢い良く部屋に突入してきたノルンが、握ったスプーンを俺の口に突っ込んでくる。
っっっっ!? っ辛っっ~!! 辛い! 辛い! しょうが辛い! え? 何コレ新手の拷問!?
「うごっ!? ゲホッ……あ、ありがとう、大丈夫、これできっとよくなるよ」
「本当か? それは良かった! まだまだあるからたんと食べて元気を出すのじゃ!」
「いや、もうじゅうぶ……もごっ! もがっ? んごごごご……」
口の中一杯にしょうが、しょうが、しょうが、せめて摺り下ろすならりんごにして欲しかった。しかし折角のノルンの心尽くしである、吐き出すのは道義に反する……だが……ほんともう勘弁して下さい、後生ですから……。
「うぬ! これできっと快復するはずじゃ! さてさて次は……」
ドタドタと忙しなく部屋を出て行くノルン、頼む、頼むからゆっくり休ませてくれ……。
……とまあ願うも虚しく今度は桶を抱えたノルンが部屋に駆け込んでくる。
「お前様! 汗をかいておろう? 身体を拭いて進ぜよう!」
「うぇ? あ、確かに……だが自分で出来るから桶を置いておいてくれたら……」
「いーやっ! お前様はじっとしておるのじゃ! 病が悪化してはいかんからな! さ、脱がすぞ!」
「ちょっ……まっ……いやっ! けだものぉおぉぉお!」
「ふへへへへへ、生娘じゃあるまいに……って何をさせるんじゃ! さっさと背中を出すのじゃ!」
ひちゃっ
「冷っっっっ!?」
こ、こいつ冷水汲んできやがったああぁぁぁぁあ! しかもタオルの絞りが甘いからひちゃひちゃと……!!
「ちょっ、ノルン待って! ちょっとだけ待って!」
「お前様の背中は広いのぅ、誇らしく頼り甲斐のある背中、妾だけの……」
「浸ってるとこ悪いけど! このままじゃ布団が濡れちゃうから絞らせて! 頼むから!」
絞ったタオルで改めて身体を拭いてもらう、スッキリはしたけど寒い! 流石に高熱の出た状態でのこれは堪える……流石にもうこれ以上何も無ければいいが……。
少し静かになったな……眠くなってきたしこのまま少しうとうとと……!? 熱っちぃ!! あつっ! あっつぅ!? 何? 何が起きた??
「お前様、熱が出ているときにはおでこにタオルじゃと聞いた、どうじゃ? 気持ちいいか?」
いや、タオル、タオルは乗っけるよ? でも蒸しタオルじゃ断じて無い、普通の濡らしたタオルだと思うよ? 俺は!
「あ、有難いがこういう時のタオルはな……っと……あ……」
まずい……少し騒ぎすぎた……意識が……だめ、だ……ノルンをこの……ままにして……たら……まず……。
「おっ、お前様!? ど、どうしたのじゃ! お前様! お前様!!」
「……」
「いかん、意識がない……そんな……。大丈夫だと言ったではないか! すぐに治ると言ったではないか! ……死なせはせん! お前様を絶対に死なせはせんぞ!! 待っておれ! 妾が薬を採ってくるからの!!」




