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物件情報:2LDKのじゃロリ幼女付き

「国王陛下、やはり早馬の報告は間違っていない、と。同行していたマルグリット様が現場で死亡の確認をなされたそうです」


「なんという事だ……我等はあの者に、異世界から訪れたあの勇者に、何も返せぬままであった……。全てを押し付けてしまうとは……」


「……陛下、お気持ちは分かりますが我々は今後について考えねばなりませぬ。つきましては魔界からの特使が停戦、和平についての話し合いがしたいと」


「互いの切り札を失ったのだ、ここからは互いに尻尾を食い合う泥沼よ……あい分かった、特使を玉座の間へ。彼の者の献身に報いるためにもこの戦争を終わらせねば……。願わくば……平和な世界であの勇気ある若者には生きて欲しかった……」


「……神の国(ヴァルハラ)にて、彼の魂が安らかであらんことを……」




……



 寒風吹き荒ぶ荒野、どんよりと曇った空一帯に響き渡る魔獣の咆哮、息遣いが聞こえ、吐く息がかかるほどの距離を爪が、嘴が、風の刃が掠めていく。


「クルルルルアアアアァァァァァ!!」


 上空から大気が震えるほどの凄まじいき声を上げて上げて巨大な鳥が突進してくる、こんな荒野に住んでるんじゃあ俺はさぞかし美味そうなご馳走に見えるんだろうな。


「腹減ってんのか? 俺もだ! 悪いがうちのやつのリクエストでな! 今日の晩飯は鳥料理でいかせてもらおう!」


 互いの視線が交わり、嘴が、爪が、俺の大剣と交差する。羽毛を撒き散らし、凄まじい地響きを立てて着地した怪鳥、切り離されたその首が宙を舞い、風切り音を立てて俺の左手に着地した。


「ふっ……またつまらぬ物を斬ってしまった……」


 昔見たアニメのように決めゼリフを決めて剣に付着した血を振り払う、ふふん、決まった! ……と、一拍遅れて胴体から噴き出した血飛沫が雨のように頭上から降り注ぐ。うん、ミスった、調子に乗りすぎましたごめんなさい。


「あ~あ……全身血塗れ……あいつ血の臭い苦手だからなぁ……とりあえず川で肉の血抜きついでに洗って帰るか……」


 ここは魔界の外れの地図に載らない未開の大地。人も魔族も近寄らない、いや、近寄れないといった方が正しいかな? 国を滅ぼすような魔獣が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする第一級の危険地帯だ。

 様々な環境がランダムに点在する天変地異のバーゲン地帯、植物学者や生物学者は『楽園』なんて呼んでるらしいがどう控えめに見てもここは地獄の一丁目だな。


 んで、何で俺がこんなとこに居るかってと少々事情が複雑になる。三年前、俺は日本に住むごくごく普通の会社員だった。足元に突然開いた真っ黒な穴に落ちたと思ったら少し前に流行った異世界転移ってやつ、あとはお決まりの『おお! 召喚勇者よ! 魔王を倒してきてね! 拒否権は無いよ!』っていうね……。


「さて、血抜きはオッケー、臭いは……あ~、自分のじゃ分かんねーな、まぁ、許してくれるだろ」


 そして、見事魔王を倒したのが半年前。だがこの魔王、とんでもない置き土産をしていきやがった訳で……。


「お前様お帰りなのじゃ! 妾は寂しかったぞ!」


 危険が危ない荒野の中に点在する森、その一つにある一軒家。2LDKのささやかながら愛しいマイホームの扉を開いた俺に小さな影が飛びついてくる。


「はいはい、ノルン、いきなり飛びついてきたら危ないって言ったろ? それに抱き付いたままだと動けないからちょっと離してくれな、今日は鳥を狩ってきたから何が食べたい?」


 器用に俺の体を登り頬に口づけし、飛び降りた小さな影が表の獲物を確認し腕組みして考え込む。さっき言った魔王の置き土産、それが彼女ノルンだ。

 見た目は普通の十歳位の少女、だが黄金色こがねいろをした瞳には昼間の猫に似た針のような光彩が宿り、燃え盛る炎のような長い赤髪から一対の角が突き出している、そして部屋着の裾からニョキリと顔を覗かせるつややかなうろこが美しい尻尾が眉を寄せて考え込む中も感情豊かにブンブン揺れている。……だが感情豊かなのはいいがせめて周りは見て欲しい、壁や家具がボロボロだ。


「おお! これは大物だの! 流石は妾の愛しい旦那様じゃ! そうさのぅ……う~む……親子丼! 妾は親子丼を所望するのじゃ!」


「親子丼かぁ……久し振りにいいかもな、んじゃ肉を捌いて準備すっか」


「今日から料理を教えてくれる約束じゃからの! しっかり教えてたもれよ!」


 ノルンが尻尾と同じく両手をパタパタと動かしはしゃいでいる、言葉遣いと行動のちぐはぐさがなんとも面白い。が、それを言ったら機嫌が悪くなるのでぐっと我慢我慢……。


「おう、包丁とか火とか危ないからちゃんと言うこと聞くんだぞ?」


「うむ! あ、でもお前様、肉を捌いたら湯浴ゆあみが先じゃぞ? 血を浴びたのじゃろ? 血生臭くてかなわぬ……」


 ノルンが眉間に皺を寄せて鼻をつまむ。あ~、やっぱり落ちてなかったか……まぁ、解体でまた汚れるし仕方ない、風呂でゆっくりしてから調理にかかりますか……。

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