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本で釣れました~冒険者令嬢は恋愛よりも本をとる  作者: 東川 善通
冒険者令嬢はリリースを希望します
17/20

殿下とお出かけの時間になりました。デートではない、わよ?(後)

 休憩から暫く馬を走らせて到着したのは国境。いえ、王都自体が国境に近いとはいえ、王太子たる殿下がほぼ単独でここに来るのはいかがなものかしら。

 到着した場所は惑わしの森。フラメンディナと隣国レスベガドの国境を跨ぐ広大な森で、遥か昔よりそう呼ばれている。その名の通り、森に足を踏み入れたものを惑わすのだとか。そして、この解除方法や対策が発見できていなかったこともあって、戦時には自然防衛地として役立ったそう。とはいえ、かつての敵国が友好国となった今では中々扱いの難しい場所になっている。理由は簡単。森を突っ切ることが出来れば、移動時間の短縮など利点が多いのだが、残念ながら未だにその対処方法は見つかっていないから。伐採しようにも防御魔法がかかっているのか、伐採することもできない。故に海や湖を渡る迂回ルートを通らざるを得ない。


「近年では森に受け入れられることがあると証明されている」

「えぇ、それは本で読んだことがありますわ」


 とはいえ、それを元々提唱していた方はその続きも説明していたのだけど、その先はなかったことにされたのよね。不都合な所を取り除いた本が別名義であの書庫にあるのを見つけた。けれど、修正のない純粋な書本はうちにある。というか、初代の、ウィルの計らいでスティングラーの領地に見切りをつけて移り住んだらしいのよね。そのお礼に本としては拙いけれどと贈られたのがそれだった。その他にも魔法教材として使える本も数点寄贈されている。


「実はね、俺は森に受け入れられている一人なんだ」

「あら、そうでしたの。では、陛下や妃殿下も」

「残念ながら、父上と母上は入ることはできなかった。ライ――ライネリオは当時家出中だったから試してない」


 ライネリオ殿下もといライ君は現在16歳。確か、13歳の時にスティングラー領の近くに視察にきた際、脱走してメルと出会ったらしいのよね。となると、3年くらい前の話なのかしら?まぁ、そのぐらいにそういう話がこっちまで流れてきた気もしなくもない。


「で、レオ、目的地は?」


 まさか、惑いの森に入るって言うんじゃないだろうなと言外に尋ねるお兄様。いえ、まぁ、ここまで来て惑いの森の話にもなってれば、そりゃあそういうことなのでは??


「アルやベルなら行けるかなって」

「だろうと思ったがな」


 でしょうね。まぁ、我がスティングラー家だったら、入れる気がする。確か、第一条件が精霊の血が強いこと。第二条件は精霊に愛されていることだったかしら。第二条件はともかく第一条件は大丈夫なはず。てか、殿下が受け入れられたということは先祖返りかそのあたりで、精霊の血が強いということになるわね。あら、そうなると、精霊が見えてもおかしくはないと思うのだけど……。


「どちらにしろ試してみる価値はあると思うんだよね」

「入らないといけない場所ってことか」

「そう。それから、今が丁度時期なんだ」


 私が考えに没頭している中、お兄様と殿下はそんなことを話していた。ちらりとあれをアルに見せてあげたいんだと聞こえたけど、あれって何かしら? 時期ということは花とかそういうのかしら。


「アル」

「うーん、まぁ、大丈夫じゃないかしら。ダメだったら駄目だった時よ」


 ちらりとウィルとサラに目で確認をとれば、問題はないと首肯。馬では流石にいけないということでおいていくことに。盗難などの可能性もあるけど、どうやら子狐とサラが見張ってくれるみたい。誰もいないと思ってもいる、というやつね。

 殿下の手とお兄様の手を借り、足を一歩、森へ踏み込む。何て言うのかしら、両手に男子(だんご)っていうのかしら。年頃のご令嬢たちに見られたら、発狂されること間違いなしね。


「大丈夫じゃないかな」


 え、心の声、漏れてた?? そんな恥ずかしいことはないわよね!?


「まだ一歩目だぞ。大体、こういうのは一歩目は挨拶だ。二歩目からが行けるかどうかってところだろ」


 あ、そちらですね。はい、漏れてなかった、良かった。

 二歩目、三歩目と足を進めていっても森の風景は変わらない。もしかして、ずっとこのまま森の中で迷うのかしら。


「レオ」

「大丈夫だよ。俺が入ったときもそうだったし」


 私と同じことを思ったお兄様が大丈夫なのかと名を呼べば、殿下は問題ないと私たちよりも先に足を進める。私とお兄様は顔を見合わせ、それならばとついていく。魔物の気配はしないけど、あちらこちらに精霊や妖精の気配はする。いや、クスクスと笑い声やこっちだよという声が聞こえるから、きっと私たちは森に受け入れられているのだろう。

 道なき道を歩く。これだったら、パンツスタイルの方がよかったわね。でも、私が歩きやすいようにスカートに引っ掛からないようにと伸びてる枝や草を避けたり、切り落としてくれてる。しかも、日が傾いていってる上森の中ということで暗くなっているのだけど、殿下は光魔法で私たちの周囲を明るく照らしてくれる。なにこれ至れり尽くせりなんだけど。

 そうして、精霊たちの声に導かれた、はずではないけれど、私たちが辿り着いたのは森の拓けた場所。


「……アル、ベル、ここだよ!」


 嬉そうにいう殿下に私はしげしげとその場を観察する。森に入っているときはだんだん暗くなってるなぁと漠然と思っていたけど、もう夜ね。殿下の光魔法がなくても、月明かりと拓けた場所という事もあって見えないという事はない。何か植物が群生しているらしいのはわかる。水の匂いもするから、近くに水が湧いているところか、泉あたりがあるようだ。奥をじっと見て、気づいた。仄かに発光する白い花がぽつりぽつりと咲いている。


「もしかして、あれはディアロトですか」

「ディアロトってなんだ?」

「そうだよ。アルは物知りだね」

「いや、だから、ディアロトってなんだ」


 私と殿下の話に入ってこれないお兄様がムスッとしてしまったので、私は笑いをこらえながらお兄様にディアロトの説明をする。

 ディアロトは水生植物で、大きな円形の葉を水面に広げ、白い多弁花を咲かせる。この森のように群生しているものは珍しく、通常は数株くらいまでしか同じ場所では共生できないとされているのよね。ディアロトの特性なのか、それは現在研究中となっている。


「ちなみに今俺たちの目の前にはサントフロルがある」

「え、あの百年に一回一夜だけに開くという」

「そう。そして、今日がその百年に一回の時と予測されてるんだ」


 昨日まで忘れてたし、外れたらごめんねと言うけれど、精霊たちがもうすぐだよ、楽しみだね、と囁きあってるからきっと大丈夫よ。

 そんなことを思いながら、近くにあった葉を観察する。確かに殿下のいう通り、サントフロルが自生しているみたい。けど、私の近くにさっと触るだけでもその数は多い。


「なぜ、こんなに群生しているのかしら」

「ん? その、サントフロルってやつ群生しているのが珍しいのか?」


 武器以外に特に興味を持たないお兄様は私の言葉に首をかしげる。

 サントフロルは自生しているところも少ない上に群生せず、一定の距離を保って生育していると学説上はなっているとお兄様に説明する。余談だけど、とある実験で隣り合わせに植えた際、はじめから育成していたものはそのままだったが、後から植え替えたサントフロルは2、3日もすると枯れてしまったという話もある。そのことから、もしかすると地質がその最初のサントフロルに適したものになっていたのではないかと現在も研究が続いているらしい。


「確かにその実験の話とか聞くと群生しているのは不思議だな」

「でしょ。それに花が咲く時期は――」

「研究者たちが引き継ぎしながらとった蕾の記録から推測される、だよね」

「はい、そうです」

「ここでサントフロルを見た後、研究者たちにどんな様子だったかこと細かく聞かれたからね」


 正直、あまり興味がなかったから、覚えてなかったんだけど、わざわざ記憶の水鏡まで持ち出すんだから、恐れ入ったと殿下は苦笑いを浮かべる。

 記憶の水鏡――記憶、つまり、人の記憶を映像として見ることができる古代の魔導具。ただ、本人も覚えていないほど鮮明に見ることができるのは約一日前まで。それ以降は本人の印象が強かった事柄が強く残るくらいで曖昧になってしまう。そして、記憶を見ることができるとあって、悪用されないように王家で厳重に管理がされていたはず。まぁ、古代の遺物であることも理由の一つではあるけど。


「確か、記憶の水鏡って、陛下の許可がいっただろ」

「そうだよ。その時は父上も同席してたから最短で許可が下りたんだ」


 最短と言うか直下ね。そもそも、陛下もどんなものか気になったのかもしれないわね。

 それからも、3人で話していると精霊たちが飛び回り始めた。咲くよ、生まれるよ、と精霊たちが騒ぐ。

 いや、待って生まれる?? 何が??

 精霊の声を聞いて、私とお兄様は口を閉じ、蕾を見つめる。急に口を閉じた私たちに殿下は不思議そうに声をかけてきたけど、お兄様に咲きそうだと言われて、私たちと同じように口を閉じた。


「あ」


 誰の声だったか、目の前で起こった光景に声が漏れる。

 淡い光を纏った蕾の先端から光が溢れ始める。そして、一重ずつ弧を描くように花弁が開いていく。多重花弁が開ききるとそこから大小様々な光の玉が宙へと広がった。まるで、幻想の世界ね。私でも光の玉に見えないということは渡ってきたばかり、つまりこの世界に生まれたばかりの精霊たちということになるのかしら。


「……これは、なんだ」


 感嘆と言うのか、そんな言葉が殿下の口から零れる。もしかして、殿下、これ、見えてる??

 そう思ってちらりとお兄様を見れば、お兄様も疑問に思ったらしく、私を見ていた。


「レオにはどう見えてるんだ?」

「え、どう見えるって? うーん、光が溢れてる感じだが。なんと言ったらいいのだろう、サントフロルの花弁から光が零れ落ちて光の泉が作られたようなそんな感じだね。ベルやアルもそうじゃないのかい?」


 飛び交ってる精霊たちは見えてないということね。でも、あまりにも多すぎる精霊たちのせいで魔力が可視化され、サントフロルの花が源泉のように見えると。それはそれで、見たいわ。見えすぎてしまうのが悔しい。純度を低いお兄様ならそんな光景が見れなくないとは思うけれど。目の光景が写せるものがあれば、いいのに。


「あぁ、そんな感じに見えてるな。ほんと、幻想的だよな」

「ふふ、アルに見せることができてよかったよ」


 お兄様の言葉に私が頷けば、殿下は嬉しそうに笑みが蕩ける。う、ちょっとドキッとしてしまったわ。少し薄暗がりでよかった。これが太陽の下とかだったら、死人が出てたわね。


「なんなら、近寄ってみる?」

「え、よろしいのですか!? ぜひ!」

「足元は緩くなってるから気をつけて」

「はい!」


 やった、と意気揚々にサントフロルへ近づく。お兄様は全くと言いながらも、少し興味があるみたいで私についてくる。

 近づいてみたサントフロルは普通の花みたいだけど、なぜ、精霊たちがここから出てきたのかしら。一時的に出口になったのかしら、と私はしげしげとサントフロルを観察する。もしかして、百年に一度というのはそれも関係してるかもしれないわね。あら、そういえば、精霊の國渡りもそのくらいだった気がするわ。帰ったら、ムカの書庫で調べてみましょ。

 ――パァッン!

 考え事をしていたら、高い音が響く。驚いて音の出所を探せば、恐らくだろうという光景が目に入った。

 私とお兄様から離れたところで何が起こったのか分からず呆然とする殿下とその後ろには世話が焼けるとばかりのウィル。そして、一部始終を目撃したであろうひきつった笑みを浮かべるお兄様。

 ウィル、何したのと口を動かせば、あとでと返答。お兄様も全てを把握してないらしく、目で合図してきた。まぁ、うん、ウィルが何かしたのはわかったわ。とりあえず、それはウィルの言うとおり、あとにしましょ。それよりも先にしなければいけないのは呆然とする殿下ね。


「殿下、どうされました?」


 私は今気づいたと素知らぬ顔で近づき、殿下に尋ねる。サントフロルに近づいていたとはいえ、殿下と私たちの距離はそれほどなかった。けれど、今はそれなりに距離が開いていた。これが何を意味するかはあとでウィルに確認ね。


「え、あ、うん?」


 何が起こったのか混乱してるわね。しょうがないけれど。


「どうせ、アルのことを見すぎて、枝かなんかにぶつかったんだろ」

「……そう、かも。なんか、頭に衝撃があったし」

「疲れも出たのかもしれませんね」


 十分見せていただきましたし、戻りましょうと言えば、まだ混乱しつつも殿下は頷く。精霊たちはもう帰っちゃうの? とか騒いでたけど、ウィルの冷めた視線にぴたりと止んだ。ウィル、強いわ。


「なんか、最後の最後にごめん」

「殿下が頭を下げられることはありませんよ。それにこれ以上ないほどの貴重な体験をさせていただきましたし、感謝してますもの」


 きっとまた惑いの森に行ったと知られたら、囲まれてしまいますねなんて、言えばそうかもしれないねとぎこちない笑みを浮かべる殿下。落ち込んでしまった殿下を元気付けたいけど、上手くいかないものね。お兄様も巻き込んで会話をするけど、殿下は口数が少なく、会話も弾まない。

 そんなこんなしつつも、入り口に戻ってきた私たち。サラはウィルから話を聞いたのか、しょうがないとばかりに肩を竦める。子獅子たちは宥めるように元気のない主人の頭をペシペシ叩いてる。うーん、解決しなさそうだし、このままうじうじされるのも嫌だわ。もうこれは私が一肌脱ぐしかないわね。


「殿下、また素敵な所に連れてってくれますか?」

「え、と、それは」

「正直、今でも私は好いてもらえるほどの人間じゃないですし、隣に立つのも烏滸がましいとも思ってます」

「そんなことは――」

「殿下、最後まで聞いてください。思ってます、思ってますけど、殿下と出かけるのは楽しいんです。今日だって、楽しみで張り切っちゃって前日から準備してたんですよ? それなのにちょっとしたことでどんよりした雰囲気になってしまうのは残念すぎます。だから、汚名返上という訳じゃないですがまた連れてってください。ダメでしょうか?」


 猫を被ってこてんと首を傾げる。ちょっとらしくないことを言ってしまった気もするし、お兄様が片手で顔を覆うくらいの出来みたいだから、失敗かしら。


「……また、誘ってもいいのかい?」

「えぇ、もちろん。でも、今日みたいに夜遅くなってしまうのは勘弁してください。お父様に怒られてしまいますので」


 ぱぁっと明るくなった殿下の表情。なんだろう、殿下ってば、年上なのにワンコを見てる気分になるわ。これくらいで嬉しそうにされると普段の私の態度が悪いみたい……いや、悪いわね。とにかく、拒否しまくってるわけだし。

 私の内心の反省はともかくとして、私たちはようやく帰路についた。とはいっても、私は殿下の膝の上で、馬の揺り篭に殿下のトクントクンという心音を聞きながら眠りに落ちてしまったわけですが。

 起きたら、殿下の別邸の私のお部屋でしたとも。あぁ、なんて、恥ずかしい!! 次会うとき、どんな顔で会えばいいのよ!?

「ねぇ、寝てしまってるし、うちに泊めていいよね」

「ダメに決まってんだろ。あぁ、屋敷の方に俺が運んどくわ」

(´・ω・`)


そんな会話があったり。

一話分で申し訳ないですが、お待たせしました。


そして、ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

よろしければ、☆評価していただけると、幸いです。

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