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本で釣れました~冒険者令嬢は恋愛よりも本をとる  作者: 東川 善通
冒険者令嬢はリリースを希望します
15/20

殿下とお出かけの時間になりました。デートではない、わよ?(前)


「あの、殿下」

「そこにある料理はアルが作ったのかい?」

「えっと、その、まぁ、はい」


 頷けば、がくりと肩を落とす。俺はまだ作ってもらったことないのにとか聞こえるんだけどとお兄様を見れば、お兄様の目はお前が悪いと語ってた。なんでよ。


「頑張って終わらせてきたのに」

「はいはい、お前は頑張ったよ」

「目の前にアルの作った料理があるのは拷問じゃないか」

「知らねーよ、俺に言うな」


 おっと、お兄様よ、流石にそれは酷いのでは?? 慰めてたはずよね!? 諦めるの早すぎるし、最終的に知らないってぶん投げるのはどうかと思うわよ。いや、まぁ、作った私が言っちゃダメなのだと思うけどね。

 それはおいといて。殿下をどうにかしなくてはいけないわね。折角出かけると言ってるのにこの調子の殿下とは気分がガタ落ちだし。行くしかないわね。


「……殿下」

「なに、かな」


 精霊さんたちも殿下と同じようにそんなしょげた顔しないで。


「その、作った作ってないというのでしたら、実はお出かけという事もあってお弁当を、作ってきてるんですが……ご不要でしたか?」


 不安そうな顔で殿下の顔をちらりと見上げる。効果抜群だからとココットさんに言われてたんだけど、どうだろう? スッと殿下の顔を見ると目を見開いて固まっていた。近くをふよふよ浮遊している子獅子と子狐は殿下の反応に気づいていないようで嬉しそうに飛び回ってるし、お兄様は俺はもう知らねーという感じで何か溜息を吐いてるんだけど、もしかして私、対応間違えたかしら。


「スティングラー嬢、スティングラー嬢、『お弁当』とは一体何なのだね?」


 さて、どうしたものかと考えていたら、カルドット様にキラキラした目で尋ねられる。好奇心は空気を読むことをしなかったようだ。いや、でも、逆に助かるかも?

 そう思った私は殿下からカルドット様に向き直り、お弁当の説明をしようと口を開いた。けれど、言葉が出る前に私の背後からパンッと何かを叩く音。驚いて振り返ると少し頬を赤くした殿下が微笑んで立っていた。え、どういうこと?


「カルドット卿、彼女とのお話はまた今度でも構わないよね。そもそも、俺との約束の方が先なんだ」


 そうにっこりと笑っていった殿下。それに好奇心も醒めたのか、いや、あれは押さえつけた感じね。カルドット様は必死に首肯していた。


「さ、アル、行こうか」

「え、あ、はい?」


 スッと自然な感じで殿下に腰を抱かれ、促される。嫌がるわけにもいかず、大人しく従い、途中通る研究室でお弁当の入ったバスケットを回収。後ろにお兄様を引き連れて、厩舎へと案内された。


「えっと、アルは馬には……」

「乗れます」

「だよね。それじゃ――」


 乗馬はどうかという問いに私が答えれば、うん、知ってたとばかりに苦笑いを零す殿下。今日の服装でも乗れるには乗れるけど、殿下は気づいてない。私でも流石にと思うのよ。


「おい、レオ」

「なに?」

「俺が言うのもあれなんだが」


 私を乗せる馬を選んでいた殿下にお兄様は頭をガシガシ掻きながら、声をかけた。言うんだね、言っちゃうんだね。


「アルは今日、スカートだ。お前はそれでも一人でアルを乗せるつもりか?」


 ハッと気づいたらしい殿下は私の服装を上から下に見て、えっと、その、と言い淀む。


「一緒に乗る形でもいいかい?」

「はい、今日は手荷物もありますので殿下のご迷惑でなければ。ダメでしたら、お兄様の方に――」

「ダメじゃないよ」


 食い気味に答えられ、でしょうねとしか思えない。てかお兄様はお兄様でやり取りを見て後ろでホッと安心するんじゃないわよ。殿下はそんな私を気にすることなく、従者に指示を出し、準備を整えてもらう。どうやら、今回のお出かけは私と殿下、護衛としてお兄様の三人のよう。


「他に護衛は必要ないのですか?」

「あまりあそこは大勢で行きたくはないからね」


 秘境的なところなのかしら? それとも、いつものように王族が関係している大事なところだから、大勢では行かないのかしら? まぁ、どちらにしても何かあった時は私も戦力として加わればいいから、何とかなるでしょ。


「殿下、準備が整いました」

「あぁ、ありがとう」


 そう言って取り付けられた鞍を確認する殿下。従者を信頼してないわけじゃないけど、何もないことの確認は自分の目と感触で決定する。王家ではそう教えられているのだとか。自分を守るための行動でもあり、従者を守る行動でもあるらしい。


「うん、大丈夫そうだね」


 ベルトの緩み、金具の形など鞍を触って細かいところまで確認し終えると、頷く。従者もそれを見てホッと一息零して、下がった。

 さあ、行こうと馬を引いて、裏門を通る。

 裏門――正確には王族が王都から安全に逃げるための隠し通路。今、使ってるのは市街に抜ける道ではなくて、王都の外に出る通路のよう。そこに入った際にお兄様と殿下は騎乗。私は殿下の足に横座り。近くで見るとやっぱり顔がいい。薄暗い通路のせいかいつもよりキラキラしてる気がする……いや、違う。子獅子がキラキラしてるんだわ。もう、ちょっとドキッとしてしまったじゃない!

 それにしても、この通路私たちが使ってもよかったのかしら。そんなことを思ったのが顔にその疑問が出てしまっていたようで。


「結構、皆お忍びなんかで利用してるんだ。今回のお出かけも公式なものじゃないからね」


 その際の護衛は厳選に厳選を重ねた上で選ばれているらしい。それもそうよね、今は戦争をしてないとはいえ、隣国にでもこの通路のことがバレてしまうと虎視眈々と狙っている隣国カウティムニェカに利用されて侵略経路になってしまったり、もしもの時に出口で待ち構えられたりと最悪なことになりかねない。


「……やはり、アルも本来の隠し通路の用途を知ってるんだね」

「えっと、その」

「ルーサーから城の内部についても詳しいって聞いてたけど、それ以上だね。まぁ、ベルも同レベルで詳しいからスティングラー家自体が詳しいのだろうけど、なぜ知っているのか、聞いてもいいかい?」


 ルーサーさん!! とも思ったけど、上司に報告するのは当然のことよね。失念してたわ。それにしても、逃げ場がない状態で尋ねるとか卑怯よ。殿下越しにお兄様を見たら、お兄様も予想外だったようで引き攣った笑みを浮かべてる。

 ただ、素直に答えるなんて選択肢はスティングラー家の中にはない。

 でも、なんて説明しようかしら。


『アル、少し口を借りるぞ』


 どうしようとサラとウィルに気づかれないように目を向ければ、何とかしてやれと言うサラの目にウィルは肩を竦ませ、私にそう告げる。

 耳を貸すのではなく、口を貸すってどう言うこと? 不思議に思ってるとスッと私の中にウィルが入ってきた感覚がした。成程、そういうことね。


「その、先祖が遺していました本を幼い頃から読み聞かせられてまして。勿論、お兄様もお母様に読み聞かせてもらっていたようで。ただ、何故、我が家にそのような本があったのかはわからないのですが」


 私はそう言って俯き持っていたバスケットをギュッと抱きしめる。ウィルさん、貸すのは口だけではなかったのかな??


「すまない。アルにそんな顔をさせるつもりはなかったんだ。ただ、ベルと知り合ってからずっと気になってたから」


 えっと、どうしたらいいんだと戸惑う空気を感じる。それにしても、純粋な好奇心だったのね。少しだけ安心したわ。


『若いな』


 そう言ってスルッとウィルが私の体から出ていく。いや、若いも何もこの状況、どうしてくれるのよ。お兄様なら適当に武器全集とか武器を渡しておけば、直ってくれるのだけどけれど、それ以外の男の人の立ち直らせ方なんて知らないわよ。さてはて、どうしようかと思っていたら、お兄様が手を貸してくれて、何とか解決した。お兄様がいてくれてよかったわ。私だけだったら、互いにわたわたしてなんとも言えない空気になってた。

 隠し通路を抜けると爽やかな風が私たちの周りをすり抜けていった。隠し通路ということもあって、空気が籠ってた余計にそう感じたのかもしれないけど。


「さて、ちょっとここからは駆け足になるけど、いいかな?」

「えぇ、大丈夫です」


 政務していたこともあって、時間が押しているらしい。まぁ、隠し通路では急ぎたくても走ってしまうと嫌でも蹄の音が響いてしまうものね。そうなると通路のことを知らない人でも耳のいい人間なら気づかれてしまう可能性がある。だから、音の少ないようにゆっくりした移動だった。

 ともあれよ、駆け足になるってことは今までの三倍は速くなるということで、のんびり横座りなんかしてたら、吹っ飛ぶわね。

 バスケットの持ち手に腕を通して、失礼しますと言って私は殿下に抱き着いた。


「!!!?!!」


 ビクッと殿下の体が跳ねた気がするけど、気のせいよね。このくらいで動揺なんて殿下だもの、しないわ。あ、殿下、何のコロンつけてるのかしら。ちょっと好みだわ。


「あ、あ、アル??? なんで、抱き着いて」

「え? だって、駆け足になれば、私、踏ん張りも出来ませんし、吹き飛んでしまいますもの」

「あ、そ、それもそうだね。うん、しっかり掴まっててくれ」


 若干、殿下の声が震えているような気もするのだけど……お兄様、なにそのヤバいここにヒデェ奴がいるというかのような目は。おっと、首を傾げた私に対して溜息まで吐かないでもらえます?? 殿下は殿下で背筋がピンとして、前しか見てない。一体、私が何をしたと言うのよ。

 そんな私やお兄様、殿下を気にすることなく、馬たちは目的地までせっせを脚を動かしていた。

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