第69話 boy, meat, life
ススキノの24時間やっているサウナでサウナ水風呂3ターンをキメた俺は、休憩室で漫画を読みながら一眠りしてしまい、気が付けばすっかり夜になっていた。
ルイさんからのお礼やら、本日のイースト狩りをすっぽかしてしまったのでイーストメンバーからの生存確認のメッセージやらがもっさりと貯まっていた。
各方面に寝落ちしてましたごめんなさいメッセージを投げながら、今後の立ち回りについて考え始める。
サウナを出て、とりあえず自宅方面に歩き出すとすぐにタコ焼き屋のねぎ焼きの字が目に入る。
熱々のねぎ焼きをキンキンに冷えたビールで流し込むイメージが、易々と脳裏に浮かぶ……惹かれる。惹かれるが、今の気分はそうじゃない。
力だ。酒ではなく血肉となる純粋なる力。
ススキノ市場を通り過ぎ、雑居ビルの地下へと潜り込む。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「はい。一人ですが大丈夫ですか?」
「はい、ご案内します」
前に行った本店はカウンターしかない小さな店だったが、系列のこの店舗は広くて驚く。
肉の種類も本店より多く、若干高級志向に振っているのだろうか。そう、純粋な力を求めた俺が行き着いたのはステーキとハンバーグの店だった。
「ハンバーグステーキ100g、ハンギングテンダーで」
ハンバーグ200gとサガリステーキ100gのコンビをオーダーだ。
「ライスはいかがしますか?」
「小で。後、黒ウーロン茶下さい」
とりあえず、田辺さんへは、餃子バーを活用したギルド運営方針、それに詠唱短縮獲得の手法と結果、ギルドの商売ラインナップの一つとする事はインプットすべきだ。
気が早いが、首都圏の顧客を勝手に掘り起こしておいてくれるだろう。
「お待たせしました。ハンギングテンダー100gとハンバーグです」
「ありがとう」
一眠りというワンクッションを挟んだが、詠唱破棄はやはり現段階では秘匿しておくべきだ。
俵形のハンバーグにナイフを入れると途端に肉汁が溢れ出す。まるで肉汁を体液とした生き物にナイフを入れたかのように、ダクダクと肉汁を垂れ流す肉片をオニオンソースにブチ込み、半ば猟奇的に喰らいつく。
「……Sexy」
脳内で眩い光が弾ける。何かを考える事が不粋だ。この陶酔感にこそ酔うべき。
これが純粋なる力。
カットされているサガリステーキも灼熱の鉄皿の上を踊らせ、次々に口へと放り込んでいく。
「……人生は肉だ」
今の俺の眼差しには野性が宿っているに違いない。




