第68話 詠唱破棄
―Skill―
火球 cost: 8 詠唱短縮
消火 cost: 10 詠唱短縮
火矢 cost: 15 詠唱破棄
⋯⋯
遂に、火矢が起動ワードと魔法名だけで発動できるようになってしまった。
快挙ではある。
しかし、俺の頭は冷静なままだった。詠唱短縮を得た時のような、浮わついた気持ちが不思議と湧いてこない。
中級界はおろか上級界すらソロで行ける可能性のある詠唱破棄は俺の切り札として秘匿すべきだ。
取得条件はまだ定かではないが、ある程度の最大MPが必要な「一定時間内の詠唱成功数」の可能性が高い。これは独り密かに検証していけばいいだろう。
便利な人、便利な駒だけであっては良いように使われ、棄てられるだけだ。事業云々の前に単独で生きていける力が必要なのだ。
それに、気付いてしまった。
今回の詠唱短縮の手法は恐らく金になる。上級魔法まで購入して、死蔵している金持ちは既に全世界にいるのだ。
厨二詠唱が得意そうなラノベ読みを訓練して、ギルドがオブザーバーと一緒に数日派遣し詠唱短縮を取得させる。それだけで上級魔法くらいのプライスが付けれるだろう。最初は俺がやったっていい。
俺のターンだ。周りが気付く前に、多少の理不尽くらいはねじ伏せられる金と力を手に入れる。特定少数の顔色を伺い、生きていくのはやめだ。
ホクダイ界の札幌駅北口地下歩道での狩りを切り上げ、地下鉄に乗り込む。
詠唱破棄があれば、魔法使いは固定砲台に固執する必要がない。普通の魔法使いはコマンド入力モードから魔法起動ワード、詠唱完了まで早くても5秒はその場に足止めを食らうが、詠唱破棄なら1.5秒だ。
移動する体力と走力があれば、引き撃ちも余裕だろう。
ランニングも一人カラオケに続いて日課としよう。ランニングしながら敵を倒してもいいのかもしれない。
敵を引き寄せる戦士の咆哮も欲しい。ソロなら潤沢なLCも欲しいところだ。
次から次へと欲望が湧いてくる。
中級界の創成イーストでも、ソロならば火矢数発で屠ることができる敵1体で、EPが4〜500入るはずなのだ。色々な物に手が届く。20体くらい狩って丸まんま運営にEPを売っても日給で3万円くらいになってしまうくらいだ。
まずはEP取得バフも使わずに狩りを行なっていたこの二日酔いの鈍い頭を何とかしようと、降りたったススキノの温泉サウナでサウナ水風呂3ターンをキメるのだった。




